今週の一枚 キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメン『ザ・ライド』

今週の一枚 キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメン『ザ・ライド』

キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメン
『ザ・ライド』
2016年6月3日(金)発売

もう1年以上前になるが、ノエル・ギャラガーの「もう労働者階級を代弁する声なんてない」という意見に、キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメン(以下CATB)のフロントマン=ヴァン・マッキャンが「俺たちは8年間ずっと一緒にやってるし、そのうちの7年はずっとバンの中で共同生活してきた。家に帰ってお茶飲んでる連中は結局、成功できないんだよ」と共感のコメントを発表していた(http://ro69.jp/news/detail/118628)のが印象的だった。デビュー作『ザ・バルコニー』たった1枚で「正統派UKロックンロールの継承者」としてのスタジアム級の期待感を集めてみせたCATBが、その魂のバトンをアークティック・モンキーズでもカサビアンでもなく、さらに前の世代のロックアイコン=オアシスから受け継いでいることを、上記のエピソードは実に明快に象徴している。

「スタジアムやアリーナを目指さないなんて意味わかんない」というビッグマウスに違わぬ全編ロックアンセムぶりでシーンの度肝を抜いた『ザ・バルコニー』から約2年の時を経て届いた2ndアルバム『ザ・ライド』。1stシングル曲“Soundcheck”の、ベッドルームからいきなり途方もないロック爆心地へ突き抜けていくようなカジュアル&徒手空拳なダイナミズムも痛快だし、“7”、“Glasgow”、“Heathrow”と相変わらず単語一発のぶっきらぼうなタイトルが羅列されたトラックリストまでもが、その潔く突き抜けたロック全身全霊傾けぶりを物語っているようで思わず嬉しくなる。その迷いなきロマンの爆発力は、先日公開された“Soundcheck”TVライブ映像でギターのストラップをぶっちぎりながら熱唱するヴァン・マッキャンの姿からも伝わるはずだ。


1stであまりに強烈なCATBイズムを確立していた後だけに、2ndで音楽的にまったく別の方向性へ向かってしまったらどうしよう? というこちらの一抹の不安をあっさり粉砕するかのように、ロックンロールど真ん中のCATBサウンドをダイレクトに鳴らしてみせた『ザ・ライド』。パーソナルなテーマを歌っている彼らの楽曲はしかし、送り手側のエゴや自意識から見事に解き放たれた「僕らのうた」になっているし、灰色の日常の皮膚感覚だけがスタジアムクラスで響き渡っていくようなマジカルな高揚感に満ちている。

アークティックの1stを手掛けた前作担当:ジム・アビスから、今作ではノエルのソロ1stの共同プロデュースも手掛けたデイヴ・サーディへプロデューサーが交替したことも、「衝動やルサンチマンではなく皮膚感覚においてロックンロール」なCATBのアイデンティティと、そこに宿る自然体のスター性を、よりくっきり浮かび上がらせることに寄与している。何より、あらゆる方法論が出揃った2016年という時代において、ラフでプリミティブなロックンロールを希望の音として響かせる最高のアルバムであることは間違いない。(高橋智樹)
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