今週の一枚 U2

今週の一枚 U2

U2
『ソングス・オブ・イノセンス』
国内盤 10月22日発売


U2の新作『ソングス・オブ・イノセンス』があらゆる意味で凄い。
まず、タイトルが凄い。
『ソングス・オブ・イノセンス』、無垢の歌。もう何周回ったのかわからないぐらいの地点でU2にぴったりのタイトルである。タイトルの後に「(笑)」と入れたくなる僕の無垢な衝動をも包み込んでくれるほど、見事なタイトル。

そして、もうみなさん御存知の通り、リリースのやり方が凄い。
iTunesに無料で、しかも自動的に(強制的に)ダウンロードされてしまう、という神の御業のような前代未聞のリリース。5億人のiTunesに、iPhoneに、ある日からこのアルバムが全曲入っているのである。5億人という数字は凄すぎる。この場合、U2のビジネス的な最大のメリットはどう考えても来るべきワールドツアーにおける天文学的な収益である。アルバムをただにしたとしても5億人に配布された後のツアーの収益を考えればまったく問題にならないだろう。

そして、アルバムの内容が凄い。
今回は話題性のある曲や大仰なコンセプトでリスナーのアテンションを引く必要がないわけで(5億人のもとに自動的に届くわけだから)、極めてポップで良質な、U2の王道を広くストレートに表現したアルバムになっている。そして、どうやら『ソングス・オブ・エクスペリエンス』という次のアルバムがもうすぐ完成するようだ。そのアルバムとワンセットでU2の今を提示するという、結局は壮大なヴィジョンになりそうなのだ。

今回のU2の新作は、「世界を変える」という言葉にふさわしいリリースである。
5億人の手に無料でアルバム届くというのは、文字通りこれまでの音楽ビジネスの常識を変えてしまう革命的なことである。
夢の実現、と言ってもいいぐらいだ。
でもそれはU2という、富も名声もポジションもある特権的な存在だからこそできたことだ。
そこがいつもU2の微妙なところで、僕のようにすぐにU2を皮肉的に見る視線を許してしまう。
だが、そこがU2の凄いところだということは証明されているし、ファンはわかっているし、僕も実はわかっている。
わかっていてもつい言いたくなるし、そういう奴に何を言われてもやるのがU2だし、やることによって世界を変えてきたのがU2だ。

今回のアルバムは若々しい。
ストレートでエモーショナルだ。
個人的な視点で書かれた曲が多く、それ以外の曲も自分達のルーツや育ってきた時代と向き合ったテーマが多いからだろう。
巨大化したU2というバンドではなく、等身大の彼らのエモーションがそのまま聴こえてくる最高のロック・アルバムだ。
こんな壮大なリリース計画を企てて、届いたアルバムがこんなにもロックの原点に忠実で人間臭いなんて、
こんなことはU2にしかできない。
そこまで含めてU2は特権的なのだ。

賛否両論を起こしながら、世界を変え、そして音楽が残る。
もはや無効だと思われている、60年代に始まったロックの正攻法の闘い方を現代において破格のスケールで実践するU2は、とてつもない存在だ。
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