今週の一枚 ダーティー・プロジェクターズ『ランプ・リット・プローズ』

今週の一枚 ダーティー・プロジェクターズ『ランプ・リット・プローズ』

ダーティー・プロジェクターズ
『ランプ・リット・プローズ』
7月13日(金)発売


それまでのバンド編成を解体。元バトルスのタイヨンダイら多数のゲストが参加しているとはいえ、実質的にはデイヴ・ロングストレスのソロ・プロジェクトとして制作された前作『ダーティー・プロジェクターズ』。それは大きな転機作だったが、ただ同時に、そもそもはベッドルームでの多重録音の延長からダーティー・プロジェクターズを始めたデイヴにしてみれば、原点に立ち返る意味合いもそこには含まれていたに違いない。だからこそのセルフ・タイトルだったのだろうし、実際、前作はデイヴにとってこれまでのキャリアのリセットを迫られる内容だった。

そんなデイヴが、新たなバンド・メンバーを擁して臨んだ今作は、一見して前作とは対照的な様相を呈している。耳を引くのは、ダイナミックな楽器の合奏、美しいボーカル・ハーモニー、奔放に旋律を奏でるギター・ワーク。そして何より、デイヴの生の歌声。ここで披露されているアプローチとは、すなわち09年の傑作『ビッテ・オルカ』を直ちに連想させるものだといっていい。

しかし、アコギが彩る音色はオーガニックながら、ツイストの効いたアンサンブルの手触りは以前と大きく異なって感じられる。楽器やコーラスのエディットが際立つ音のストラクチャーは複雑に入り組んでいて、それはリード曲の“ブレーク・スルー”にも象徴的だ。デイヴのファルセットとシェイカーやカウベルが躍るトロピカル・ファンク“アイ・フィール・エナジー”や、アグレッシブなエレキ・ギターと変拍子を刻むドラムが絡み合う祝祭的な“アイ・ファウンド・イット・イン・ユー”など、前作における編集/折衷感覚を敷衍したような起伏に富んだ音の連なりがユニークなグルーヴを生み出している。ハイムジ・インターネットのシドらゲストの起用も、あくまで全体を構成するピースといった趣向を窺わせるもので、何より耳に愉しい。


一方、美しいコントラストを見せるのが終盤。メロウなR&Bの“ホワット・イズ・ザ・タイム”、ジャジーな室内楽風“(アイ・ワナ)フィール・イット・オール”も素晴らしいが、なかでもフリート・フォクシーズのロビン、元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムとデイヴの3人がハーモニーを奏でるウェストコースト風のスウィートなフォーク・ロック“ユア・ザ・ワン”は今作の白眉に相応しい。こうしたストレートな歌の力が取り戻されているところも今作の大きなポイントだろう。

ダーティー・プロジェクターズのネクスト・フェイズを告げる一枚。少なくとも、デイヴにとってはそういう作品となるはずだ。(天井潤之介)
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