今週の一枚 スウェード『ザ・ブルー・アワー』

今週の一枚 スウェード『ザ・ブルー・アワー』

スウェード
『ザ・ブルー・アワー』
9月21日(金)発売


2010年の再結成以降にリリースされた作品としては3枚目となるこの『ザ・ブルー・アワー』は、再結成スウェードのアルバムを「3部作」と捉えている彼らにとって、最終作に該当するものであり、その(ひとまずの)エンディングに相応しく、スウェードらしさがどこまでも濃密かつヘヴィに炸裂した一作となった。全編にわたってむせ返るほどの死と禁忌の香りが充満している。ちなみにタイトルの「The Blue Hour」について、彼らは「一日の中で日が翳り、夜の帳が下りる時間」と説明している。日本的に言い換えるなら「逢魔が刻」だろうか。キャリアを通じて「居心地の悪さ」を命題に掲げてきた彼らにとって、これほど相応しい不穏なシチュエーションはないのではないか。間違っても耳触りのいいポップ・アルバムではないし、むしろ聴いている端から日陰の憂鬱に引き寄せられていく。しかしこれこそがスウェードに求めて止まないものなのだ。

これほどストリングスのオーケストレーションが多用された彼らのアルバムは過去に類を見ない。その重厚さの中にフィールド・レコーディングやスポークン・ワードが配された本作は、極めてシネマティックな展開を持ったコンセプト・アルバムだ。スウェードの復活の号令に相応しいパンキッシュな再結成1作目の『ブラッドスポーツ』と比較すると遥かに複雑で起伏に富んでおり、内省的でディープな前作『夜の瞑想』と比較すると遥かにダイナミックで荘厳。そして『カミング・アップ』期の数々のアンセムに匹敵するほどメロディアスなポップ・チューンがある一方で、『ドッグ・マン・スター』のヘヴィネスをさらにゴシック、インダストリアル方向に鍛え上げたナンバーもある。後者においてはプロデューサーのアラン・モウルダー(ナイン・インチ・ネイルズ他)の功績も大きいはずだ。


子供時代の恐怖の記憶をテーマにした本作の歌詞だが、ブレット・アンダーソンがここまで明確な物語性を持った詞を書いたのも久々ではないだろうか。そして歌詞、サウンド、さらにはアルバムのアートワークの隅々に至るまで、本作で徹底して描き込まれているのは、死にゆくもの、朽ち果てていくもののすぐ隣で生きること、その絶望の中の希望、薄暗い裏道に差し込む一筋の光についての物語だ。そう、《君は決して一人じゃない、君の人生は黄金期》と歌われる、まるで日向の希望のような“ライフ・イズ・ゴールデン”のMVが、チェルノブイリ近郊の打ち捨てられた無人街で撮影されたように。《荒野で会おう》と約束する“ウェイストランズ”のように。スウェードはやはり、反転した世界の王なのだ。(粉川しの)
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