今週の一枚 The 1975『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』
2016.02.26 13:05
The 1975
『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。』
2016年2月26日(金)発売
■〈ロックの時間〉を信じ抜くための物語
タイトルが長けりゃ再生時間も長い。本編だけで全17曲・70分強というヴォリュームであり、楽曲単位での動画視聴やダウンロード購入が当たり前になった時代と思い切り逆行している。徹底してロマンチックで物語的なタイトルと同様に、この時間を要さなければ語られ得ない物語的なアルバムとなっている。これはちょっと凄いことだ。音楽はリスナーから一定の時間を確実に奪い、その代償として感動を与えるのだということを、思い出させる一枚である。
インターネット上で、あわや解散か、という騒ぎを巻き起こした直後に新作フェーズへと突入し、The 1975はリリースに先駆けて昨年11月からツアーをスタート。日本でも、リリース前の1月に一夜限りの来日公演を行った。周到な話題作りと言えば確かにそうなのだが、いよいよ届けられたニュー・アルバムのクオリティは、諸々のニュースに触れた驚きとは比べ物にならない。
アルバムの導入部は、デビュー作と同様にバンド名をそのまま用いた楽曲で幕を開ける。リアレンジされているが、ドリーミーでリッチなそのクワイアの響きは格段の進化を遂げた内容だ。The 1975流のミネアポリス・サウンド解釈と呼ぶべきシングル曲“Love Me”や瑞々しいフックを持つ“UGH!”は、傲慢でありながらも憎めない、そんな恋心が立ち上ってくるナンバー。そして美しいほどに残酷な“A Change of Heart”以降、ロマンチックな語り口でズルズルと彼らのペースに引きずり込まれるような、この新作の本領が発揮されてゆくことになる。
珠玉のエレクトロ・ソウル・バラード“If I Believe You”からインスト曲“Please Be Naked”にかけては、この作品のスロウで特殊な「時間」の使い方が最も顕著になっている。このタイム感でなければ、本作の物語性は語り得ないものなのである。そして気の遠のくようなシューゲイザー・サウンドへと滑らかに以降する“Lostmyhead”や、エレポップ風の“Somebody Else”で、マシュー・ヒーリーの告白にまんまと絡めとられる。
The 1975がアルバム・デビューを果たすよりも前、EP作品に触れていた頃に、ロックやソウル、エレクトロを自由に参照する彼らを、僕は器用貧乏なバンドなのではないかと思っていた。しかし本作では、すべてのエッセンスが溶け合って昇華され、アルバムの一貫した美しいトーンを決定している。この点にも驚かざるを得ない。クライマックスの展開はぜひリスナー自身で確かめて欲しいのだが、時代の要求するトレンドに抗ってまで、The 1975は伝えるべきものを描ききった。ポップ・ミュージックを描くキャンバスそのものが違う。やはり傲慢で、だからこそロマンチックな傑作である。(小池宏和)