今週の一枚 フォスター・ザ・ピープル『セイクレッド・ハーツ・クラブ』

今週の一枚 フォスター・ザ・ピープル『セイクレッド・ハーツ・クラブ』

フォスター・ザ・ピープル
『セイクレッド・ハーツ・クラブ』
7月21日発売

なんて誠実なバンドなのだろう。フォスター・ザ・ピープルの3年ぶり3作目となるアルバム『セイクレッド・ハーツ・クラブ』に触れて思ったのは、まずそのことだった。

ベーシストのカビー・フィンクが離脱し、サポートメンバーだったショーン・チミノとアイソム・イニスが正式加入。4人体制となったビジュアルのアートワークは赤く薄暗い光に包まれたもので、配信EP『Ⅲ』含む先行トラックのビデオの数々でもそのまま流用されていた。かつてカラフルな色彩とフレッシュな意志をまとい、人々に強く呼びかけていたフォスター・ザ・ピープルはここにはいない。傷つき、愛を求めて暗がりを彷徨い、身を寄せ合う。そのための場所を音楽で作り上げるアルバムだ。

新作の製作期間はたっぷりと確保されていたし、アルバムの冒頭を飾る“Pay the Man”や“Doing It for the Money”は昨年からライブ披露されていたナンバーだ。“Pay the Man”でマーク・フォスターが力を振り絞るようなラップを繰り広げようと別段驚きはしないが、今作収録曲のサウンドはまるでそれが前提であるかのように、疲弊感や憂いがべったりと張り付いている。しなやかなグルーヴに力を借りて歌われる“Doing It for the Money”は、暴走し肥大する資本主義に抗うように、エモーショナルに歌われている。

(“Loyal Like Sid & Nancy”MV)

とりわけ素晴らしいのは、幻想的なサウンドのレイヤーをもってインタールード的に挟み込まれる“Orange Dream”を経てからのアルバム後半だ。“Static Space Lover”は同世代の女優=ジェナ・マローンを招いたナンバーで、マークとのデュエットの掛け合いやハーモニーの展開が美しい。“Lotus Eater”はパンキッシュなナンバーで現実からの逃避行を試み、夢見心地な“Time to Get Closer”へとメドレーで移行する。人力ベースミュージックの“Loyal Like Sid & Nancy”は、暴力的な力に対して渾身の拒絶を投げかける、痛烈な一曲に仕上げられた。

正直に言えば、僕はフォスター・ザ・ピープルに、ずっとカラフルでキラキラとした、ギター・バンドの夢を見続けさせてくれるグループでいて欲しかったのかも知れない。しかし、彼らはこの世界で重くのしかかる疲弊感や苦痛のために音楽を鳴らし、誰もが肌で感じている事柄を歌うことを選んだ。ポップミュージックとしての正解はこちらの方だろう。薄暗い場所の「聖心クラブ」に身を潜めるように集まり来る人々は、想像以上に多いはずだ。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする