今週の一枚 アヴァランチーズ『ワイルドフラワー』

今週の一枚 アヴァランチーズ『ワイルドフラワー』

アヴァランチーズ
『ワイルドフラワー』
7月20日(水)発売

ザ・アヴァランチーズのフジロック来日が決まり、新作がリリースされるという噂に色めき立ってから、約3か月。正直に言うと、その間に僕の中では期待感よりも不安感の方が大きく膨らんでいた。6月には先行シングル“Frankie Sinatra”が公開されたが、ダニー・ブラウンとMFドゥームのラップをフィーチャーしたなかなか楽天的ですっとぼけたパーティ・チューンになっており、煙に巻かれるような気持ちに尚更やきもきとさせられたりしていた。

なにしろ、あの『シンス・アイ・レフト・ユー』の、狂気じみたカット&ペーストによる音楽バカの玉手箱から16年ぶりである。それは、ヒップ・ホップやビッグ・ビートにおけるサンプリングの手法のみならず、『ザ・ビートルズ・アンソロジー』やブリット・ポップなども引っくるめた、歴史の探訪・再検証という90年代的ムードの終着駅でもあった。時代のムードが移り変わった中で、アヴァランチーズは何をしようと言うのだろう。何ができるのだろう。

恐る恐る新作『ワイルドフラワー』を再生して、ぶっ飛んだ。はっきり言って、何も変わっていない。『シンス・アイ・レフト・ユー』で止まっていた時間が、そのまま再び動き出したかのようだ。アナログな音の手触りも、雑多なサンプリング・ソースを甘美な陶酔感へと煮詰めてゆく手さばきも、まったくそのままだ。ビー・ジーズやハニー・コーンといった煌めきのディスコ成分を織り交ぜ、トロ・イ・モワやアリエル・ピンクといった現行インディ・ポップのヒーローを召喚しながら、完璧なアヴァランチーズをやってのけたのである。

先に触れたように、時代を背景とした必然性やモチベーションはまったく違う。『ワイルドフラワー』にあるのは、まさにいつの世も路傍の花のように咲く、音楽バカの思いである。リスナーの世代が交代しようが、新しいスタイルが生まれようが、これを求めている人はいるはずだ、という確信だけが鳴っている。で、「ああ、俺は本当にこれを聴きたかったんだ」と阿呆のように気づかされて、泣きそうになる。

ジョナサン・ドナヒューを迎えたフラワー・サイケの桃源郷“Colours”も素晴らしいが、ジェニファー・ヘレマの歌声が伝う“Stepkids”で完璧にノックアウトさせられた。テクノロジーやアイデアの新しさだけでは零れ落ちてしまいそうな、言葉通りの意味でのタイムレスな価値が、ここには詰まっている。(小池宏和)
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