今週の一枚 ケイティ・ペリー『ウィットネス』

今週の一枚 ケイティ・ペリー『ウィットネス』

ケイティ・ペリー
『ウィットネス』
6月9日発売

全世界的なヒット・アルバムとなった前作『プリズム』から実に4年ぶりの新作だが、ケイティの稀有なポップ・センシビリティをまたしても証明する作品になった。

たとえば、『プリズム』の時には『ティーンエイジ・ドリーム』のツアーを終える直前に夫だったラッセル・ブランドとの結婚が破局を迎え、その後ケイティは自身のモードがかつてなく暗いものであることを明らかにしていた。
しかし、実際に出来上がったアルバムは、その反転としか思えないほどにエネルギッシュでポップな世界観が貫かれ、逆境を乗り越えていく壮大な作品になっていて、大きな感動を呼ぶことにもなった。

また、ケイティは昨年の大統領選挙で積極的にヒラリー・クラリントン陣営のキャンペーンに関わっていったこともあり、今回の新作を用意していくにあたり、時事的、あるいは政治的なアプローチを試みていないわけではないということもほのめかしていた。
確かに作品制作の過程において、現在のアメリカの政治社会状況も多分にケイティに影響したことは間違いないだろうが、ケイティのポップ・センスとはそういうものが直接的に形になることを許さないのだ。

ケイティ自身にしてみれば、昨年の大統領選とその結果について大きな失望と挫折感に見舞われたかもしれない。
しかしその絶望的な心境を作品化していくにあたって、その状況下でたとえば、最も切実な「誰かと繋がっていたい」という思いだけを取り出してみて、それを極限まで増幅していくのがケイティの楽曲のアプローチなのだ。

そして誰かと繋がっていくことで自分の行動の目撃者を得るというのが、新作のタイトル曲“Witness”のテーマとなっていくわけだが、その具体的な内容は昨年の大統領選や政治状況、あるいは個人的な関係の経緯などといったこととはまったく無関係なものになっている。
ただ、「わたしの目撃者になってほしい」という歌とその訴えが成立する状況だけがこの曲の中で描かれて、それがこの曲の普遍性となっていくのだ。

昨年の時点でケイティは聴き手の心に繋がって、共感を呼んで、インスピレーションをもたらす作品にしたいとこの新作について語っていたが、それはこういう普遍性のことを言っているのであって、そしてこの普遍性こそがケイティのポップなのだ。

もちろん、曲作りやサウンドとしてのポップさもある。たとえば、"Witness"はいつになく暗めでマイナー・キーの調べが支配的な曲として書かれていて、ある意味でここが今作のひとつの新機軸でもある。でも、次から次へと展開していくケイティの歌とメロディの明快さと聴きやすさが聴き手に絶え間なく高揚感をもたらしていくところが、まさにケイティの曲作りのポップさの真骨頂となっている。

そして、それと同時に歌詞の内容が極度に抽象化され、誰にもあてはまる情感と状況として歌われているところもまた、ケイティにしかできないポップとしての芸当なのだ。

あるいは、先行シングルとなった"Chained to the Rhythm"にしても、病み憑きになるダンス・リズムをベースに、自分の好きな曲のリピートがやめられないというコーラスともに、実はそれにかまけて外の世界を見ようとしないメンタリティを見事に描き切った作品にもなっている。

サウンド的にはストレートなポップ、シンセやエレクトロを多用したポップやヒップホップ、ダンス・ポップなどが打ち出されているが、どれも曲本位なもので、音の趣向が優先されているわけではないし、歌とメロディと歌詞がなによりも大きなインパクトをもたらしていくところはこれまでのアルバムと変わらない。

その一方で、相手との力関係を改めたい心境を綴る"Hey Hey Hey"、あるいは相手との関係の限界や幻滅を歌う"Deja Vu"など、ごくごく日常的なある局面や一瞬をどこまでも結晶化し、それを突き刺さる歌詞と歌のフレーズにしていくところはこれまでにまして凄味を増している。

あるいはシングルとなった"Swish Swish"などは自分の敵無しの魅力をリングに触れないバスケットボールのゴールにたとえてみせたものだが、そんな言葉遊びのセンスも相変わらずだ。

また、ゴスペル感も漂うロック・ナンバーであり、人生にはいい時もあれば悪い時もつきものなんだからという応援ナンバーともなったPendulumなどもかなりの迫力で、個人的にはケイティの音楽的素養の懐の深さにあらためて感銘を受けた。
(高見展)
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