今週の一枚 キース・リチャーズ『クロスアイド・ハート』

今週の一枚 キース・リチャーズ『クロスアイド・ハート』

キース・リチャーズ
『クロスアイド・ハート』
9月18日(金)発売


キース・リチャーズの23年ぶりのソロ・アルバム『クロスアイド・ハート』は、彼のソロ作としては最高傑作と言える作品だ。ギターの神キースが、キースのルーツを訪れ、瑞々しいとも言えるギター・リフで、彼の原点への敬意と愛を、最高の形で昇華した作品だから。先行で発表された“トラブル”にそのスピリットが象徴されている。彼のギター・リフからは、それに立ち向かうキースの喜びとも言える思いが生々しく伝わってくるし、誰もがキースから聴きたいと思っていたサウンドが、最高の形で詰め込まれているのだ。

構えてアルバムが始まるのを待つと、いきなり、ロバート・ジョンソンへの敬意を示すようなアコギのブルース“クロスアイド・ハート”で始まる。ピッキングの美しさにしびれながらさっそく洗礼を受けたような気持ちになるのだ。しかし、短いその曲の中で、「オーライ、俺にはこれしかない」と歌うので、それがまた最高。シリアスに構えてしまった私達を解きほぐしてくれるし、同時に彼の核が表れている。彼が最初に訪れておかなくてはいけなかった神を訪問したような曲。そして、その儀式のような1曲目が終わると、いきなり、それを蹴り破るような疾走感と高揚感すらあるロックンロール・ソング“ハートストッパー”へ続くのだ。この作品には、ローリング・ストーンズが今これをシングルにしてくれたら最高なのではと思えるような“アムネシア”や“サムシング・フォー・ナッシング”があり、ボブ・ディランを彷彿とさせるようなボーカル・スタイルの美しいカントリー・ソング“ロブド・ブラインド”や“ジャスト・ア・ギフト”もある。また“ラヴ・オーヴァーデュー”ではレゲエを訪れ、アルバムのハイライトとも言える“ブルース・イン・ザ・モーニング”では、チャック・ベリーを彷彿とさせる。フォークのスタンダード“グッドナイト・アイリーン”や、ノラ・ジョーンズとのメランコリーでソウルフルな“イリュージョン”はアルバムに素晴らしい彩りを加える。その技術も精神も、隅々から彼がなぜギターの神となりえたのか、それが証明されているのだ。

ちなみに、実は、現在トロントに来ているのだけど、NYから向かうアメリカン空港の機内誌で、偶然キースが曲を解説している記事を発見。本人の解説に勝るものなし。その一言一言がしびれるので、追記として紹介したい。

“クロスアイド・ハート”と“ブルース・イン・ザ・モーニング”
「俺にとって、とにかくすべてはブルースから始まるんだ。ビッグ・ビル・ブルーンジー、ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ。それから、当然B.B.キング。それで、B.B.が俺に一度言ってくれたことがあるんだ。『俺は、毎朝起きて、ローリング・ストーンズがいてくれたことに感謝するんだ。なぜなら彼らがいなかったら、アメリカの黒人ブルースは、生き続けなかったと思うから』ってね。俺は、それを墓石に刻むつもりなんだ」

“ラヴ・オーヴァーデュー“
「グレゴリー・アイザックスは、本当にボブ・マーリーを抜くほどの才能だったと思う。この曲は、中でも彼の最高傑作のひとつ。俺に取り憑いたような曲なんだ。俺はレゲエとラスタファリアンを愛してきたし、彼らも俺のことを愛してくれた。彼らは、俺を名誉会員にしてくれたんだ!」

“ロブド・ブラインド”
「俺はいつだってカントリー・ミュージックを愛してきた。グラム・パーソンズは俺の最高の友のひとりだった。それで、ルービン・ブラザーズをずっと聴いている時期があったんだけど、ある朝起きた時に、この曲を15分で書いてしまったんだ。それって俺にとっては滅多にないことだ。俺は、数年かかって曲を書いたりするからね。だからこれは、ソングライターが、ある朝起きて、コーヒーを飲んで、うまいと感じて、ギターを手にしたら、突然その指先に曲が宿っていた、というものだった。それが失敗に終わるわけがないよな?」
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