今週の一枚 ザ・スマッシング・パンプキンズ『Monuments to an Elegy』

今週の一枚 ザ・スマッシング・パンプキンズ『Monuments to an Elegy』

ザ・スマッシング・パンプキンズ
『Monuments to an Elegy』


『Monuments to an Elegy』、その名も“哀歌の記念碑”と名付けられたスマッシング・パンプキンズの9作目となる今作には、スマパンのファンなら心を鷲掴みにされ、拒否できないメランコリックな瞬間が満載である。しかし、それでいて今作でビリー・コーガンは、これまで鳴らしたことのなかったような軽やかとすら言えるシンセサイザーやプログラミングを取り入れている。新鮮で、キャリアで最も“ポップ”とすら言えるサウンドに挑戦した進化のアルバムでもあるのだ。何しろ、アルバム全体の長さはキャリア最短の約33分。1曲のぞいてすべてが3分台である。

デビュー作から20年以上が経過してもなお、今作のフックは例えば“トゥデイ”や“1979”などに引けを取らず、まるで枯渇しないビリーのソングライターとしての才能をありありと証明している。アレンジにおいても、ギターに次ぐギターの応酬を取り入れたりせず、むしろニュアンスに溢れた美しいニューウェーヴ的なシンセサイザーが特徴的だ。結果、最も開かれたアクセスし易い作品にすらなっている。

さらに、このアルバムを何より特別にしているのはそのエモーションだ。「僕の特別な人/走っておいで」とか「君みたいな女の子と一緒にいると僕は生きているって思えるんだ」などという恋心をストレートに歌った曲は珍しいと言える。そして何より、「桜が満開/ここでお別れだ」とか、「この世界で数えきれないほどの夢を見て来た/それが何を意味するのか見えていないのは君だけなんだよ/それでも君を愛しているけど」というような別れの歌が胸を突く。

この作品は、『ティアガーデン・バイ・カレイドスコープ』という3枚組からなる作品の2枚目にあたる作品だ。3枚目は来年発売されることになっていて、ビリーは最近ウォール・ストリート・ジャーナル紙に「これで本当の最後」という発言をしている。もちろん、ファンなら誰もが胸をざわざわさせながら見なかったことにした人達が多かったのではないかと思うけど。同時に彼は、「死ぬまでこのドラムを叩き続ける」とも歌っている。その矛盾にこそ、我々の心は引き裂かれるのだ。今作には、スマパン再結成以来のメンバーであるジェフ・シュローダーが参加している他、驚くべきことに、モトリー・クルー、トミー・リーがドラムで参加。ジミー・チェンバレンとはまた違った爆発力のドラムを披露している。事実上ビリーがひとりで作ったこの作品でスマパンが新たに獲得したメランコリーというのは、もしかしたらすでにさよならを前提としていて、だからこそ、とてつもなく優しく、より一層哀しいのかもしれないとも思った。
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