そう言えば、去年の5月にインタビューした際に、「新作を作っている」と言っていたビリー・コーガン。『ATUM』というロックオペラ3部作を作り終えたばかりですでに新作って?と信じられなかった。
さらに、
「『ATUM』とは違って、今度は昔のスマッシング・パンプキンズのようなギター・アルバムになる」
「『ギッシュ』、『サイアミーズ・ドリーム』、『メロンコリーとその終わりなき悲しみ』時のパンプキンズのようなアルバムになると思うよ」
と語っていたけど、まさか本当にこんなに早く完成させるとは。びっくり。
バンドは、8月2日に新作『Aghori Mhori Mei』(アゴーリ・モーリ・メイ)を発表した。
こちらアルバムのリンク。
https://orcd.co/aghorimhorimei
ビリーは、今作を「故郷に帰ったような作品」と説明している。「故郷には二度と帰れない」とよく言うから、実際に帰ってみたらどうなるのか? 昔を焼き直すのではなくて、それから20年以上が経過した自分たちが新たな心境で、当時のギターロックを鳴らしたらどうなるのか?に挑戦したのが今作なのだということ。つまり再定義してみるということだと思う。
こういう作品を作りたいと思ったのは、『ATUM』を作っている時に、昔ながらのギターサウンドが良いなと思えたから。昔ながらのロックアルバムを作ってみたいと思ったからだそう。
単に振り返るのではなくて、それを今のものとして完成させられたのかはどうかは、聴いて判断してもらいたいと。
それで、そんな新作を発表したばかりの彼らが、現在単独ツアーと並行して、なんとアメリカではグリーン・デイとスタジアムツアーを行っている。このツアーは、グリーン・デイがヘッドライナーで、スマパン、ランシド、そしてザ・リンダ・リンダズというラインアップで、超豪華にして濃厚なメンツ。
スマパンは、登場してまずジェームス・イハが、「レッツ・ロックンロール」と言ったので、まず面食らった。かつてのスマパンで、ジェームス・イハの一言でライブが開始するというのはちょっと考えられないから。復活してからは、MCを担当するのが彼になっていて、それもびっくりだったけど、今回のツアーでは、さらに更新されていた。過去のアルバムを新たな心境で再訪する、というのとも少し通じているような気がする。今のバンドの新たな関係性を象徴しているように思うから。
そして今回のライブで注目すべきは、長年ギタリストを務めたジェフ・シュローダーが脱退して、公募して新たなギタリスト、キキ・ウォンが加入したこと。その影響もあると思うし、新作のモードとも関係していると思うけど、この日のライブは、これまでのスマパンの曲が、新たな鋭さを持って演奏されていたのが印象的だった。
キキ・ウォンは1曲1曲、もう明日はない、と言うくらいこの舞台に立てた今全力を出すというようなパフォーマンスを披露していたし。何よりバンド全体のギターサウンドはヘヴィなのだけど、思いのほかギターソロなどは少なくなっていた。それは、グリーン・デイの前での出演で、パフォーマンスできる曲に限りがあったからかもしれない。
前回のツアーでは、よりプログレっぽく壮大な宇宙が展開していくようなライブを繰り広げていたけど、今回はギターは思い切りヘヴィでありながらも、曲全体としては非常にタイトな仕上がりになっていて、テンポもメリハリも良い展開。なのでセンチメンタルで、哀しくて、ドラマチックなスマパンを非常に良い形で、ダイジェストで観ているような感じだった。
セットリストは、以下の通り。残念ながら、発売されたばかりの新作からは演奏されなかった。
新作が、初期の頃のギターサウンドを意識したものになっていた、と言うだけに、短めのセットリストながら、『メロンコリー〜』と、『サイアミーズ〜』からの曲が他のアルバムよりは、多め。キャリア全体を今のモードで総括するような内容になっている。
興味深いのは、U2の”Zoo Station”をカバーしていたことで。これが思い切りヘヴィなギターのアレンジになっていたので、演奏され始めた時に、歌詞に聴き覚えはあるけど、この曲なんだっけ?となかなか分からなかったほど。彼らは、デヴィッド・ボウイからレッド・ツェッペリンなど他のバンドのカバーはいつも頻繁にしているけど、今回この曲をこういうアレンジでカバーしたのは何がきっかけだったのだろうか? すごく刺激的な解釈だった。
また、ビリーのボーカルの高音が、長年観てきたライブの中でも最高かという領域まで出ていたのがかなり驚いたのと、「ニューヨーク、さあ一緒に歌って」と言ったのも、意外だった。新作がかつての「故郷」を新たな心境で再訪したように、この日、過去のヒット曲を演奏しながらも、新たなエネルギーを発するスマパンのライブが観られた。スマパンの再出発でも観たような気分ですらあった。
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