【考察】エミネムはアメリカ社会の中で何と闘い続けてきたのか? 最新作『リバイバル』までの道のり

【考察】エミネムはアメリカ社会の中で何と闘い続けてきたのか? 最新作『リバイバル』までの道のり

12月15日にリリースされたエミネムの4年ぶりの新作『リバイバル』。今年に入ってからビッグ・ショーンのシングル“No Favors”への客演でのトランプ批判、あるいは「BET Hip-Hop Awards 2017」授賞式でのあけすけなトランプ批判となるフリースタイルなどが大きく話題になっていただけにこの新作の行方も注目されていた。


新作についてはひさしぶりにエミネム本来の魅力が全開になった内容だと絶賛するものがある一方で、特に目新しさがないという意見もある。要するにどちらも同じ意見の裏表のようなものなのだが、それだけエミネムの新作にかけられる期待は大きいということだ。

しかし、そもそもエミネムに対してそれだけ期待がかけられ、動向が注目されるのはどうしてなのか。


エミネムはメジャー・デビュー作となった1999年の『ザ・スリム・シェイディLP』以来、8枚アルバムをリリースしてきており、そのいずれも大ヒットしているし、04年の『アンコール』まではどのアルバムもその年の最も重要なアルバムの一枚になってきていた。

しかし世界的にいって、エミネムの最も有名な作品は何かといえば、実はエミネムが主演し、どこまでも自分のライフ・ストーリーに近づけて描いた映画『8 Mile』だったかもしれない。

ここで描かれる物語は、貧困にあえぐ白人の青年が仲間の黒人らとライムとMCに励み、さまざまな困難を乗り越えてラッパーとしての覚悟と自信を培い、ラップ・バトルで勝利を摑んでいくというもの。一部のヒップホップ・ファンの間でもすでに驚異のストーリーとして知られていたエミネムのサクセス・ストーリーをあらためて世の中に広く、わかりやすく提示するものだった。


なによりも驚きだったのは、ヒップホップは黒人の文化だという思い込みをエミネムが覆したことだった。たとえば、それまでにも白人のヒップホップ・アーティストは存在したし、その最強の代表例がビースティ・ボーイズになる。

しかし、ビースティーズは70年代末にニューヨークでヒップホップが生まれたその現場に居合わせた、それこそヒップホップの誕生を目撃してきた生き証人のようなものなのだ。白人であるか黒人なのかとは関係なく、若いニューヨーカーとして刺激を求めていたら当然のようにヒップホップとかかずりあうことになったというケースなのだ。

その後、ヒップホップはニューヨークからアメリカ中にシーンが伝播したが、基本的にアフリカ系アメリカ人が支配的なジャンルとしてみられるようになった。それは担い手となるアーティストがほとんどアフリカ系アメリカ人だったからで、作品のテーマも80年代以降急激に進行した経済格差の現実を犯罪や薬物に絡んだストーリーに託して訴えるものが多かったために、オーディエンスもまたアフリカ系アメリカ人がほとんどではないかと思われていた。

そんな中で90年代の終わりと同時に登場したのがエミネムだったわけだが、まず驚かされたのがエミネムの自らの生い立ちを赤裸々に語っていく作品世界により、経済格差や社会福祉の切り捨ての影響が白人も巻き込んでいたことが露わになったことだ。

そして、そんな自分の生活に響くリアルな表現としてエミネムはヒップホップを聴いて育ち、当代一のスキルを磨いて登場することになった。そこでさらに世界を驚かせることになったのは、エミネムのライブが行われると白人のオーディエンスが大挙して駆けつけ、明らかにヒップホップの魅力も知り尽くしていたということだった。

つまり、それまではあまり表に出てこなかった巨大な白人のヒップホップ・オーディエンスが突如露わになったということなのだ。


90年代からヒップホップはセールスやチャートで最も勢いのあるジャンルになったことは誰の目にも明らかになっていたが、それは白人オーディエンスにも支えられてのことだったということを明らかにしてみせたのがエミネムの登場で、ある意味でエミネムはヒップホップのメインストリーム化を告げる存在だったといってもよかった。

こうした勢いとともに、エミネムは家庭の崩壊や貧困、人間関係の破綻など身近なモチーフを爆発的な感情とスキルでもって繰り出して多くのリスナーの心を摑むことになった。

そもそもヒップホップでは暴力や犯罪、あるいは貧困の描写などはあっても、その環境で受ける心の傷を叫びとして表現していくことは稀だったので、エミネムの表現はあまりにも画期的だったし、ある意味ではそれはポップ・ミュージックにおける切実な表現としてはグランジ以来の衝撃をもたらすことになったのだ。


エミネムは『ザ・スリム・シェイディLP』でのメジャー・デビュー以来、怒濤の勢いで『ザ・マーシャル・マザーズLP』、『ジ・エミネム・ショー』、『アンコール』とアルバムをリリースし、2005年にベスト・アルバム『カーテン・コール。~ザ・ヒッツ』をリリースした後、4年間の活動休止に入る。

この間、エミネムは処方薬依存症に陥ったことを明らかにしているが、さらに重要なのは根本的な作風の転換を行ったことだ。それは、それまでの作品であまりにもおびただしく実名で家族らを登場させていたことを後ろめたく思うようになったことで、2009年の『リラプス』以降は極力、かつてのように実在の家族や知人を題材にすることは避けるようになった。

しかし、もともとエミネムはそうした人間関係の中での軋轢を自身の表現の起爆力にしていたので、これはとても困難な試みとなったのだ。ある意味で、『リラプス』、『リカヴァリー』、『ザ・マーシャル・マザーズLP2』はその試みだったといってもいい。

そして、今回の『リヴァイヴァル』はどうなのかというと、これはエミネムがかつての起爆力を取り戻したことを露わにした作品なのだ。(高見展)

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