【インタビュー】リトル・シムズ、6枚目となる新作『ロータス』に込めた想いをロッキング・オンに明かす

【インタビュー】リトル・シムズ、6枚目となる新作『ロータス』に込めた想いをロッキング・オンに明かす

英国最高峰の音楽賞であるマーキュリー・プライズ、さらに黒人音楽における功績を称える英MOBOアワードなど数々の賞を獲得し、名実ともにUKを代表するスターの座を確立しているリトル・シムズが、待望の6作目をリリースした。順調にキャリアを重ねてきたように見えるが、実は度重なる苦難にも見舞われてきた彼女。経済的理由でUSツアーをキャンセルしたこともあったし、長年連れ添ったマネージャーとの関係を断ち切ったこともあった。その度に鬱憤を作品へと投影してきたシムズが、今回テーマに選んだアルバムタイトルは『ロータス』、つまり「蓮」。昨年リリースしたEP『Drop7』に続き今回も、盟友:インフローの元を離れており、いよいよ新たなモードが始まったことを感じさせる。新たにタッグを組んだプロデューサーは、マイルズ・クリントン・ジェームス。これまでになかった音楽性にもトライしており、アーティスト/ラッパーとしての着実な進化が見える。もはや音楽を超えたカルチャーアイコンとして、ますます巨大な存在になっている彼女、フジロック出演発表でも日本を沸かせたシムズに、アルバムについて訊いた。(インタビュアー:つやちゃん rockin'on 7月号掲載) 



【インタビュー】リトル・シムズ、6枚目となる新作『ロータス』に込めた想いをロッキング・オンに明かす

●最新アルバム『ロータス』は、プロデューサーにマイルズ・クリントン・ジェームスが起用されています。どういったきっかけで、彼とともに仕事をすることになったのですか?

「マイルズは、信じられないくらい才能に溢れたマルチインストゥルメンタリストで、本当に幅広い音楽の知識がある人だから。彼ならいろんなスタイルに対応できると思ったし、音楽的に私がどこに向かおうとしても躊躇せずに一緒にどこまでも行ってくれるはずだと思った。今回一緒にやれて嬉しかったし、それに人間的にもすごく優しい人だからね」

●マイルズ・クリントン・ジェームスがプロデュースしている音楽(ココロコといったバンドなど)を聴くと、アフリカンジャズの要素が感じられます。『ロータス』も、そういったあなたのルーツを重視しようという狙いがあったのでしょうか?

「もちろん私も、そして彼も半分ナイジェリアの血筋を引いているから間違いなく繋がりはあるけど、それ以外にも本当にいろんなスタイルを探求して挑んでいると思う。私は当然アフリカンミュージックを聴いて育って、マイルズも同じで、だからお互いの共通言語としてすごく理解し合えて本当に最高だった。彼と一緒にいろんなスタイルに挑戦できてメチャクチャ楽しかったよ」

●昨年のEP『Drop 7』はプロデューサーにJakwobを起用していました。プロデューサーに応じて、あなたの制作スタイルというのは変わるものですか?
「そうだね、いろんなプロデューサーと一緒に仕事をすると自分の中にそれまではなかったような新しい一面を発見することがよくあるから。それがコラボレーションの良いところだしね。いろんな人と関わることで、そんな面があるなんて自分でも知らなかったっていうような部分に気づいたり。これまでも、たぶんそうやって自分のいろんな面を引き出してくれる人に出会ってきたんだと思う。Jakwobと一緒に作った『Drop 7』は本当に楽しくて、それに作るのが超速かった。あのEPは2日とかで。正直言ってすごく気楽に、深く考えすぎずに、ただ楽しみながら踊りながら、フィーリングだけで作った感じだったね」

●プロデューサーが変わっても、ソウルやジャズ、アフロビーツを軸に時に内省的な、時に壮大な物語を描いていくあなたのオリジナリティは継承されているように感じました。今回、制作時にサウンドの方向性として話していたテーマは何かありますか?

「単純に自分の音楽的な可能性をもっと広げてみたかったということなんだけど。アルバム全体としてポストパンクっぽい雰囲気が通底しているんだけど、それに挑戦するのがすごく面白かった。これまでそういう感じのことはやってなかったと思うし、新しい感情が開かれた気がしたというか、自分の物語を語る新しい方法を見つけたような感覚があって、だからものすごく良かったと思う。そしてもちろん、今回はベース、ドラム、ストリングス、ギター、ピアノと、生の楽器をアルバム全体で使っていて、それらが全部合わさってひとつの音楽作品として形になるっていうのもすごく楽しかった」

●アルバムタイトルの『ロータス=蓮』は、何かの比喩を表しているのでしょうか?

「再生や成長の象徴。蓮の花って、泥水の中でも美しく咲く花のひとつでしょ。私は今の自分がまさにそれと重なるように感じて。どんなに困難な状況にあっても、何か特別なものを生み出せる。たとえ結果には表れなかったとしても最終的には満たされた感覚にたどり着ける。そういうことを象徴しているタイトルなの」

●“フラッド”のミュージックビデオには感動しました。モノクロながらドラマティックな映像ですが、ディレクターとはどういったやり取りがあってあの内容にたどり着いたのですか?


「まず、ミュージックビデオのディレクターのサロモン(・ナイトヘルム)とは以前にも仕事をしたことがあって。彼はストーリーテリングにおいて超優れていて、私が言いたいことを映像で表現するのがすごく上手。今回はアイデアや参考にする作品やイメージを共有しながら何度もやり取りをして、私からはモノクロにしたいっていうことを伝えたり。白と黒って美しいと思うし、特にフィルムで撮影したから余計にね。それから壮大でシネマティックな感じにしたいっていうことを伝えて。それは自分がこれまでやったことがなかったものだから。その両方を叶える上でも彼は完璧な人物だった。しかも全部1日で撮影したっていうのがすごかった」

●昨年、グラストンベリーではピラミッド・ステージでパフォーマンスしました。あなたのこれまでの活動でもハイライトのひとつだったと思いますが、どのような達成感がありましたか?

「グラストンベリーのピラミッド・ステージでプレイしたことは、とんでもなくすごい経験だった。たくさんの人がいて、大きいステージで、自分自身を誇りに思えたし、あの瞬間を全力で感じながらステージに立ってた。家族もいて、友達もいて、自分のチームもいたから安心できたし、『私は今これをやるべくしてやっている、このステージは私のいるべき場所だ』と思えた。だから、これまでのキャリアのハイライトのひとつどころか、間違いなく人生のハイライトね」

●そのグラストンベリーをきっかけに、ヘッドライナーだったコールドプレイとのコラボ曲“WE PRAY”が生まれました。制作にあたっては、コールドプレイ側からはどのような提案があったのでしょうか?

「クリス(・マーティン)がアイデアを思いついてスタジオで聴かせてくれたんだけど、彼もバンドも素晴らしかった。何と言うか彼らは、ある特定のタイプの曲を、世界がそれを必要としているときに作ることができるというか。“WE PRAY”のテーマは今世界で起こっているさまざまなことを考えたときに本当にふさわしい癒しの音楽だと思う。それと同時にヒップホップの要素も入っていて、バーナ・ボーイもエリアナもティニもいて。いろいろな背景を持ったさまざまな人たちがこの曲で集結して、そこで真実を語るというのは特別なことだったから、参加できて本当に嬉しかった」

●制作時のエピソードが何かあれば教えてください。

「ただもう超絶楽しかったってことに尽きるけど、何か成果を出さなきゃいけないプレッシャーもなく、いろんなことを試しながら作って、クリスと人生や音楽について話して、それから一緒に瞑想したことも、とてもいい時間だった。彼はこの業界で長くやってきたから、真実が詰まった宝物みたいな話をたくさん聞かせてくれた。本当に愛のある人だったよ」
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