“SSME”、“S区宗教音楽公論”、“死がふたりを分かつまで”、“天使になるかもしれない”といった前作『PK shampoo.wav』(2021年)以降の楽曲群はもちろんのこと、大気圏超級のメロディとともに《どこへ行っても旧世界紀行 つまんねー》の絶唱を突き上げるリード曲“旧世界紀行”、流麗なストリングスとソングライター・ヤマトパンクス(Vo・G)の「作家性」が共鳴する“東京外環道心中未遂譚”など、バンドの「原点」と「その先」が結実した今作『PK shampoo.log』。破天荒なエピソードと開けっ広げな語り口の奥にある、音楽家・ヤマトパンクスの核心に改めて迫ってみた。
インタビュー=高橋智樹 撮影=ヤオタケシ
──メジャー1stアルバムでもあり、前身バンド・トラッシュノイズ時代の楽曲が入ってないフルアルバムとしては初めての作品ですよね。磁石も持たず、出来合いのボートで漕ぎ出して遠回りしてたけど、僕らは『なんでやねん!』とか言いながらケタケタ笑ってるだけで楽しかった
ああ、そうです。PK shampooとしての曲だけで構成したアルバムとしては、メジャーも何も1stっていう。
──『PK shampoo.log』というタイトルに関して、アルバムの資料に「logという言葉はもともと航海日誌を指すものだったらしい」というコメントを寄せてらっしゃったんですが、その「日誌」という説明が、PK shampooの音楽に関して実に腑に落ちるものだったんです。
はい。
──人間誰しも「明日はいい日だ」とか「希望の未来が」とか思って生きてるわけではないけど、「希望なんかねえよ」と思って生きてる人も、あとから若い時を振り返って「あの時は輝いてたなあ」とか回想したりすることが多々あって。青春時代真っ只中の人が思い描く青春と、大人世代の人が振り返って懐かしむ青春とでは、輝きの度合いが全然違ったりもするし。ということは、希望なんていうものは、普段は見えないかもしれないけど、普通に生きていたら身近にあったりするものなんだろうな、という。
うんうん。
──だから、それを丹念に取りこぼさないように綴っていけば、その中にも希望らしきものは残っているかもしれないし、あるがままを歌っていけばいいという──もちろん、中には心から血を流しながら書いたような曲もあると思うんですけど、そういうものも含めてありのままを書いていくしかない、っていうところが、PK shampooの音楽にはあるような気がするんですけども?
そうですね……僕たちは最初、大学のサークルで出会いまして。音楽的な趣味もそんな、4人とも合ってるというわけでもないし、気は合うけどやりたいこととかは全然違うし。でも、なんとなく「バンドやってみようぜ」みたいな。僕が大学で何回も留年して、全然卒業できないんで(笑)、僕の暇つぶしにみんなが付き合ってくれた、みたいな感じでもあるんですけど──と言っても、みんなも同じくらい留年してるんですけど(笑)。そこで始まったバンドでもあるし。たとえば15〜16歳のロック少年たちが、街のライブハウスでメンバー募集して「当方プロ志向!」みたいな感じで始まったようなバンドでは正直ないし(笑)。月イチぐらいでたまにスタジオに入ったり、誘ってくれたらライブもしようかぐらいのところから始まったんで。「どこかに黄金の国を探しに行こう」とか「トレジャーハントだ!」みたいな感じだったわけでもないんです。磁石も何も持たず、とりあえず出来合いのボートで漕ぎ出してみて……みたいな(笑)。
──(笑)。
そのうちに手伝ってくれる人とか、聴いてくれる人とか、「いいね」って言って拍手してくれる人も増えてくる中で……僕たち本当に面倒くさがり屋で、そのくせ変に理想主義みたいなところがあるから、「これはダサい」「あれはやりたくない」みたいなことがたくさんあったから、本当に遠回りとか、グルグル同じところを回ったりしてて、ようやく1stシングルを出そうってなったら、その日にコロナ禍が来て。グルグル回って、戻ってはもう1回発進して、発進しては戻っての繰り返しだったんですよね。でも、メンバー4人は、いがみ合うこともありましたけど、今でもずっと、しょうもない友達のままでいてくれるというか。たとえば「コロナ禍が来た! くそっ」ってなって、それでいがみ合って解散しちゃう人たちも、僕の友達とか先輩でもたくさん見ましたけど、僕たちはずっと「なんでやねん!」とか言いながらケタケタ笑ってるだけで楽しかったから、解散の「か」の字も出なかった。そういう意味で、ずっとグルグル回ってること自体が楽しかったというか。同じところに戻ってきてるんですけど、そこが結局俺たちのいたい場所で、船の上自体がゴールだったみたいなこともあるのかなとはちょっと思いますね。もちろん、過去の輝きみたいなこともあるし、そういう曲がリード曲にもなってるので。
──「どこかに辿り着かないこと」って、見方によっては「失敗だ」ってジャッジする人もいるとは思うんですけど、そういうもんじゃないっていうことですよね。「負けを肯定する」とかではなくて、「その過程が輝いてれば別にいいんじゃない?」っていう。
そうですね。
──このアルバムからは、確かにサークルで酒飲んでダベってる姿も、街中で酔っ払ってる姿も……って、酒飲んでる話ばっかりですけども。
いやいや(笑)。
──そういうリアルな日誌を偽りなく綴ってるからこそ、全部が匂ってくるし。宝探しみたいな壮大なストーリーでもない「過程」の話を綴っていて、それが音楽とかロックとして美しいものになっていくっていうのは、ヤマトパンクスという表現回路があればこそだと思うんですよ。
まさにその通りだと思います。
──(笑)。“S区宗教音楽公論”の終盤の転調とか、理屈で作ってはいるんだろうけど、理屈を超えた衝動感が備わってますからね。
そうですね。これは歌い直してすごくよくなったなっていう曲でもあって……この曲は自分で聴いてても「おぉ」って思います(笑)。すごい展開だなあ、面白い曲だなあって。自分で言うのもなんですけど、歌がすごく上達してるなあって──上手い下手というよりは、声が変わってるというか。「ああ、やってきたんだな、少なくともこの1〜2年間は」っていう。既発の曲のミックスをやり直したりしてる中で、それは感じましたね。
──“天使になるかもしれない”はミックスし直し?
そうですね。ミックスとマスタリングをし直しただけですね。
──EP(『輝くもの天より堕ち』)の時より、ギターのジャリジャリ感が増した質感ですよね。
マスタリングエンジニアの人に「今までエンジニアさんがやった中で、いちばんでかい音にしてください」ってお願いしました(笑)。
──音量感というか音圧感というか、ディストーションの中で窒息しそうになる音像感って、ヤマトさんの中で重要だったりします?
まあ、そうですね。僕が恥ずかしいっていうのもあるかもしれないです。汚したがりなんで(笑)。生のままでやるのはちょっと恥ずかしい、みたいな。結果的にそういうのが、ドライブ感を生んでいるのも事実だと思うんで。僕としてはとにかく、バラードであっても、ガシャーンってやっちゃいたい、っていう感じが根本にはありますね。“天使になるかもしれない”みたいなアップテンポな曲でも……恥ずかしがり屋さんなのか(笑)。こんなの自分で言う奴、恥ずかしがり屋じゃなさそうですけど(笑)。足し算をしたがる思考なので、休符で引く、みたいな感覚は全然なくて。人工甘味料も着色料も保存料も全部入れたがる、駄菓子屋さんに置いてある海外のお菓子みたいな感じが好きですね。
──今回“旧世界紀行”をリード曲に推している、ヤマトさん視点のポイントは?僕も30になって、昔よかったものを追っかけるのが面白いんだよ、でもそれつまんないんだよ!──って同じところをグルグルするのが人生かなって
曲ができて、早い段階から全員一致で「これがリードやな」っていう感じで。イントロがいい感じにハマったので「これやろ」って思ったのもあるし。タイトル的にも“旧世界紀行”っていう、過去を振り返るような意味合いの曲でもあったんで。僕はずっと、アルバムを出すなら『PK shampoo.log』っていう名前にしたいと思っていたので、そことの符合もありますし。他にも考えたんですけど、これしかないかなあって。で、それを1曲目に持ってきて始まってやろうぜ、みたいなコンセプトはありますね。
──《どこへ行っても旧世界紀行 つまんねー》は言い得て妙ですよね。新世界なんて、探してもないですし。
(笑)。ある意味、過去の記憶って、いちばん手の届かない部分ではあるので。下手したら、宇宙の果てにある星とかは、未来に宇宙船が発明されて行けるかもしれないですけど、過去にはたぶん無理だと思うので。いちばん遠いところってどこだろう?って考えたら、宇宙とか海の底よりも過去なのかなって。
──《このまま音楽をこの世から消してしまえたら》って、あえて音楽に乗せて歌ってしまう感覚もいいですね。
もう、逆張りをしたくてしょうがないんです(笑)。みんなが「旧世界紀行」って言い始めたら、僕はすぐに引っ込めます(笑)。
──ヤマトさんの作る音楽って、すごくロマンチックだと思っていて。壮大なイメージから生まれるロマンもあるし、そこに宿る儚さや切なさみたいなものもあるし。
僕が日記みたいに歌詞を書いたりするタイプなんで。僕の実体験とか、見たものとか、聞いたものをわけがわからんくらい「宇宙がどうとか」っていう話に落とし込んでいく──みたいなのが、僕がよくやることで。今回も、冒頭の《昨日また見たくもない映画を流して眠ったら》からそうですけど、僕は不眠症がもともとあって、なおかつ多動症なんで、ベッドの上で眠れるまで目を閉じておくっていうことができないんですよ。だから、つまんない映画を流しながら、ボーッと観て寝落ちするっていうのをやってるんですけど、そういうところから始まってるし。《いちいち毎晩一番星を写真に撮らないし》っていうのは、近所を散歩してたら、ちっちゃい子が初めてスマホで月か星かを撮ってるのを見て、「うぉー、すげえ! こいつの感性トガってんな!」って思って(笑)。
──「全部に感動してるんだ!」って?
そうそうそう。僕はもう30歳になりましたから、今さらそんなきれいなものを見ても、いちいち撮ったりしないなって。新しいものに感動することってもうないよなあ、みたいな……。何かを探しに行くんだけど、そんなものより昔の「大学の誰それがこんな失敗してた」とか「あの先輩がどうしようもないミスした」みたいな話のほうが面白い、っていう自分の中の葛藤もあるのかなって。これは20歳以上ぐらいの人だったら、誰でも多少は感じてるところがあると思うんで。僕も昔は、貪るようにアニメを観たり、映画を観たり、本を読んだりしてましたけど、最近は「昔のをもう一回観ようかな」みたいな感じになっちゃう自分も当然いるし、周りにもそういう人がたくさんいるので。そればっかり追っかけてもしょうがないんだけど、それが面白いんだよ、でもそれつまんないんだよ!みたいな(笑)。それを何回行き来すんねん!っていう──そうやって同じところをグルグルするのがある意味、人生なのかなって。そういうコンセプトで作った曲であり、それがリードになっているアルバムですね。