今週の一枚 KICK THE CAN CREW『KICK !』

今週の一枚 KICK THE CAN CREW『KICK !』
“千%”のミュージックビデオ公開を発端に、ニューアルバム『KICK!』リリース、9月7日武道館「復活祭」、13年ぶりに繰り広げられる12月のツアーと、大きなトピックを次々に振りまいてくれるKICK THE CAN CREWの最新フェーズ。まずは、いよいよ届けられたアルバム『KICK!』に向き合ってみた。

懐かしさを覚えるコンビネーションとヴァイブがあり、新鮮な手応えを受け止めさせる一面があり、それらが絶妙にブレンドされて興奮をもたらしてくれる。そんな作品であることは間違いないのだけれど、もっと優先して書かなければならないことがある。それは、やっぱりこのKICK THE CAN CREWという3人組は変だ、ということである。変だからこそ、ぶっちぎりで面白いし、胸を揺さぶられる。

7月に24時間限定無料配信され、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017でライブ初披露された“SummerSpot”は、風通しの良いトロピカルなベースミュージックの中、3人の緻密なマイクリレーの凄まじさを打ち出してみせた楽曲だった。積載量オーバーのトラックで走り出したMVの“千%”といい、アルバムに先がけて発表された新曲たちは、KICK THE CAN CREWというグループのカッコよさを充分に打ち出していたと言える。

ただ少々ややこしいことに、この「カッコよすぎる」KICK THE CAN CREWに触れて、胸を焦がしながらも「あれ?」と感じてしまった僕のようなリスナーもいる。優れたラップスキルを持つ3人はある意味最初からカッコいいわけで、KICK THE CAN CREWは3人の化学反応を通じて「カッコいい」の先の景色を見ようとしたグループだった。それは例えば、“イツナロウバ”の過ぎゆく季節の切なさと焦燥感であり、“マルシェ”の歯止めの効かない悪ノリと高揚感であり、“アンバランス”の享楽性の裏に潜む青春のモラトリアムだったわけである。

前置きが長くなってしまったが、このニューアルバム『KICK!』ではそんな彼らの濃いキック汁のようなものが、ドバドバと溢れ出してくる。奔放極まりない言葉選びをもって、三者三様にリスナーに呼びかける自由度の高いバウンシーなナンバー“全員集合”は、KREVAがプロデュースした、MCUとLITTLEによるプロジェクト・ULのアルバム『ULTRAP』の先にあった景色を感じることもできる、今のKICK THE CAN CREWの姿だ。

また、KREVAによるソウルフルな歌のフックが用意された“今もSing-along”や“また戻っておいで”は、ラップと歌メロの境界線を突き崩すようにしながら「新しい声のフロウとグルーヴ」を追求してきたKREVAのソロキャリアと地続きになっている。KREVAの『心臓』は、ドレイクフランク・オーシャンのメジャーデビューにも先がけてその「新しい声のフロウとグルーヴ」がもたらす感情表現に到達した名盤だと僕は思っているのだが、一方でMCUとLITTLEも、それぞれのソロ活動ではラップと歌メロとの関係に価値を見出し続けてきた。

ときにはそれぞれが好き勝手に、ときにはがっちりと声の響きを繋ぎテーマを繋ぎ、KICK THE CAN CREWはいつしか聴き手の情緒を激しく揺さぶって感受性の窓をこじ開けてくる。そこに投げ込まれる終盤の“また波を見てる”〜“I Hope You Miss Me a Little”〜“タコアゲ”という連打は、ズルいぞと言いたくなるぐらい自由にこちらのハートをコントロールしてしまうのだ。アップテンポなわけでも、声を荒げるわけでもないのに、リリックの意味とサウンドの意味が織り成す力に振り回されてしまう。

リリックの端々には3人の性格の違いがもろに表れ、しかしそのコンビネーションで誰も描いていなかった心の風景を狙い撃ちしてしまうKICK THE CAN CREWは、やっぱり変だし、唯一無二の存在だ。この3人がグループを構成していることの奇跡的な巡り合わせにあらためて思いを馳せてしまうくらい、新作『KICK!』はKICK THE CAN CREWの本質に迫る素晴らしいアルバムである。

「復活祭」とツアーに向けて、今後さらにたっぷりと聴きこんでおきたい。なお、“千%”以外のすべてのトラックはKREVAによるプロデュースだが、“また戻っておいで”や“また波を見てる”がバンドアレンジの映えそうな作風になっているのも、気になるところ。(小池宏和)
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