【今週の一枚】Hump Backのメジャー1stアルバム『人間なのさ』が何者にもなれない私たちの青春賛歌になり得るのはなぜか?

【今週の一枚】Hump Backのメジャー1stアルバム『人間なのさ』が何者にもなれない私たちの青春賛歌になり得るのはなぜか? - 『人間なのさ』『人間なのさ』
青春に期限はあるのか?とふと思う時がある。友人と話していてそうした話題になると、決まって学生時代の淡い恋の話や無我夢中で時間を費やした部活動のことなど、主に10代の頃の話になる。そこで「青春」の意味を辞書で調べてみると、「夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代を、人生の春にたとえたもの」と出てきた。「若い時代」というワードで括るならば学生時代はジャストなのだろうけれど、夢や希望に満ち活力に漲るアラサーだっているぞ?とも思う。だからきっと、自分が諦めなければ青春は終わらないはずなのだ。3ピースガールズバンド・Hump Backの最新アルバム『人間なのさ』を聴いて、そんな青臭いことも堂々と言えてしまえるほどの活力をもらえた。

Hump Backにとって初のフルアルバムとなる今作は、シングルリリースされた楽曲も含めた全11曲が収録されている。そして、曲の新旧問わずその全てで歌われているのは、リスナーである私たちにも身近に感じられる日常生活圏内だ。メロディもシンプルなバンドサウンドであるからこそ、歌詞が紡ぎ出す情景描写の中へもするりと溶け込んでいける。そんな心馴染みの良い楽曲たちを聴く中で、1曲目の“LILLY”を聴いて思うことがあった。作詞をした林萌々子(Vo・G)は明言こそしていないが、恐らくこの歌詞を書くきっかけになったのは、彼女の愛犬が亡くなってしまったことだろう。彼女は以前にも“ぎんのうた”(1stミニアルバム『夜になったら』収録)という別の愛犬の死を書いた楽曲を世に出しているが、哀しみを一瞬で想起させるバラードだった“ぎんのうた”に対し、“LILLY”は曲調がぐっと前向きになっている。もちろんその変化は彼女の哀しみの比重とは関係ないはずで、どちらの別れも本当に辛かったはずだ。それでも「哀しみ」に対して向き合った楽曲を以前と同じテイストに仕上げなかったのは、林自身、そしてバンド自体が日々前進していることによって強くなったからなのだろうなと思った。人間である限り出逢いと別れは一生続くし、哀しいことも嬉しいことも、奈落の底まで落ち込むことも飛び上がるくらい楽しいこともたくさんある。Hump Backはそのひとつひとつをサボらずにきちんと歌って、3人で一緒に鳴らしていこうと前向きに活動しているバンドだ。先述した変化は、そうやって実直に進んできた彼女たちだからこそ迎えることのできた、前進する為の変化のひとつなのだろう。

「デカいステージに立ちたい」や「たくさんの人に聴いてほしい」という欲求は、彼女たちにとっては「夢」という括りには入らないはずだ。どれだけ人間らしく、自分たちらしく歌って、3人で音楽を楽しんでいられるか?の方がきっともっと重要なことなのだと思う。結果として、そういったスタンスで自然体のまま進む彼女たちの音楽が多くの人に響いていることは、バンドとしてとても健康的で良好な進み方だと思える。無理をしない歩みをしながら、変化から目を背けずにそれらを自分たちの活力にしていけるからこそ、Hump Backの音楽はいつだって「青春」の名の下で青く輝いていられるのだろう。今作『人間なのさ』は、そんな彼女たちの生き方が真っ直ぐに伝わってくる作品だ。(峯岸利恵)
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