今週の一枚 エレファントカシマシ『Wake Up』

今週の一枚 エレファントカシマシ『Wake Up』 - 『Wake Up』通常盤『Wake Up』通常盤
高ぶる情熱を言葉とメロディに「乗せて」あるいは「置き換えて」鳴らすのではなく、抑え難く燃え盛る魂そのものが奇跡的な均衡を保ちながら音程を持って轟然と響き渡っているかのような、凄絶なロックの切迫感。
凛としたメロディで天地を射抜く“風と共に”も、獰猛なリフ越しに不屈のロマンを突き上げる“RESTART”も、ひときわ決然と「その先」を見据える透徹した視線を感じさせる“旅立ちの朝”も含め、そのすべてから「エレファントカシマシの30年史」と「今この瞬間の爆発的な生命力」がリアルに浮かび上がる、圧巻の絶唱とサウンドスケープ――。
既発曲群の時点で十分すぎるほどに予兆はあったが、前作『RAINBOW』以来約2年半ぶりとなる今作は紛れもなく、「エレファントカシマシのデビュー30年史を代表する作品」としてはもちろん、日本ロック史の重要盤としてその名を深々と刻みつけるべき名盤だ。

昨年3月にリリースしたベストアルバムを携えて、自身初の47都道府県ツアーで全国を駆け抜けたデビュー30周年アニバーサリーイヤーは、エレファントカシマシにとって単なる「祝祭の1年」ではなく、「己の全存在を懸けてリスタートすべき時間」だった。
そして生まれた今作。自分たち自身を新たな要素で上書きするのではなく、他でもないエレファントカシマシそのものの楽曲と世界観を、“神様俺を”のレゲエアレンジや“Wake Up”のダンスビートなど新たなテクスチャーも導入しつつ、極限まで研ぎ澄ませ鍛え上げて撃ち放ってみせた。全細胞震撼必至の爆走パンクナンバー“Easy Go”はまさに、その最も象徴的な楽曲と言える。


剛者(つわもの)どもの夢のあと 21世紀のこの荒野に
愛と喜びの花を咲かせましょう 神様俺は今人生のどのあたり

そうLet’s go
Easy Easy 転んだらそのままで胸を張れ
涙に滲んだ過去と未来 Oh baby俺は今日もメシ食って出かけるぜ
(“Easy Go”)

この楽曲がどこまでもスリリングで痛快なのは、「これまでエレファントカシマシがトライしてこなかった爆音パンクのアレンジを鳴らしているから」だけではない。90年代にはメンバーのポテンシャルに悲観するあまり打ち込みに没頭し、ついには“ガストロンジャー”へと到達したのが嘘のように、宮本浩次がバンド一丸の激走感を全身で謳歌している――ということ自体への感激もあるが、それだけでもない。
宮本がこれまで膨大な楽曲を通して突き詰めてきた哲学と苦悩と闘志と退廃とリアルとロマンが、鼓膜をつんざくようなディストーションサウンドと爆裂リズムの中で溌剌と呼吸し躍動している――という図が、この楽曲の音像からこの上なく明快に立ち昇ってくるからだ。

上記の“Easy Go”のみならず、収録された12曲のどれもが「新しいエレカシ像」よりも「エレカシという音楽そのものの新しさとラジカルさ」を鮮やかに体現している今作。ラストを飾る“オレを生きる”で、《悲しいなんて言ってられねえ/そうさ 笑いと夢抱いて》のフレーズに渾身の熱量を与えていく宮本の紅蓮の激唱が、抗い難いほどに胸震わせる。最高の1枚だ。(高橋智樹)
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