BRAHMAN活動20周年企画「尽未来際」のクライマックスシリーズと言える、幕張メッセ2デイズ「尽未来祭」の2日目。いわゆるAIR JAM世代の顔ぶれが多く揃って深い感慨を残した初日とは打って変わり、この2日目はベテランから後輩にあたる第一線のロックバンドが、こぞってBRAHMANのアニバーサリーを祝福する1日となった。
オープニングアクトは、JOHNSONS MOTORCAR。TACTICS RECORDSからアルバム『Hey Ho Johnny!!』をリリースした多国籍バンドで、アイリッシュ風味のエモーショナルなトラッドパンクが繰り出される。日本人の女性ドラマー・RINAMAMEは、可愛らしい声を上げていたかと思いきや、ビートを刻みつつ文学的な言葉を放ったりしてカッコよさを見せつける。熱演の末にBRAHMANの20周年を祝福し、MARTIN(Violin・Vo)は「MAKOTO、RONZI、KOHKI、トシ、本当ニアリガトウ。BRAHMANニカンシャ!」と告げていた。
そこからHEY-SMITHの賑々しくフォーキーなパンクに連なるという流れが最高で、猪狩秀平(G・Vo)&YUJI(B)の2連砲ヴォーカルが火を吹く“Endless Sorrow”を皮切りにガンガン楽曲を放ち、新編成の快調ぶりを見せつけてゆく。猪狩は「バンドやってる以上、先輩とか後輩とか関係ないから!」とオーディエンスを沸かせていたが、BRAHMANに“The First Love Song”を捧げると、メンバー交代の休止期間を振り返って「間違いなくBRAHMANに勇気を貰って、バンドやってて良かったなって思ってます」と語っていた。
続くSiMは、序盤に《ooh la la》の歌声を誘う“CROWS”や、先頃の武道館でライヴ初披露された“EXiSTENCE”など近作シングルも大活躍のステージを繰り広げる。ラウドにして妖艶な、独自のムードで場内を染め上げていった。MAH(Vo)は、「世代の埋まらない差を感じてて、でも今日呼んでもらって、ああ、遅れたけど、BRAHMANと同じ時代を生きてるんだなって、思うことが出来ました」と胸の内を明かす。ただし先輩格バンドに対する甘えは皆無で、その後も挑みかかるように熱狂のステージを駆け抜けるのだった。
そしてBRAHMANよりも先輩格のエレファントカシマシ。サポート含め6人編成で、いきなり宮本浩次(Vo)が狂おしい美声で“うつら うつら”を歌い出すというオープニングだ。「イエエ! いらっしゃいっ!!」の挨拶を投げかけ、豪快な爆音グルーヴを乗りこなす“RAINBOW”の後には、「長くやるってのは大変なもんで、別に自分のこと自慢してるわけじゃないんだけど、BRAHMANは本当にすげえぜエブリバディ!!」と語る。“生命賛歌”は見事BRAHMANのアニバーサリーにはまり、最後には“俺たちの明日”がエールのように届けられた。
“Stay in my hand”のバキバキな急発進で驚かせてくれたACIDMANは、大木伸夫(Vo・G)が20年という月日に手向けるような言葉を添えながら“ある証明”も披露される。「昔、MCしないですよねって言われて。誰と間違えてるのかな、あ、BRAHMANだ、と思って。その人の名誉のために、MCってあまり意味が無い、って言ったんですが(笑)」と思い出話を交え、悲しみや痛みを大切にする音楽という点でもBRAHMANとACIDMANは似ている、と圧巻の“世界が終わる夜”がステージを締めくくるのだった。
ホリエアツシ(Vo・G・Piano)が、17年前に初めて観たというBRAHMANと共演できたことの感慨を伝え、ナカヤマシンペイ(Dr)が「俺たち、ストレイテナーなんですけど……BRAHMANはじめます!」と宣言するや否や、“THERE’S NO SHORTER WAY IN THIS LIFE”をカヴァーする。そして、煽り文句を飛ばし“BERSERKER TUNE”、“DAY TO DAY”と繋いでいく。その音は歓喜に弾け回るような手応えだ。アッパーに押し切るつもりだったそうだが、TOSHI-LOWのリクエストということで、異国の悲劇に思いを寄せながら“NO ~命の跡に咲いた花~”も届けられた。
続いてはTHE BACK HORNだが、こちらも山田将司(Vo)が第一声からアニバーサリーを祝福しつつ、ギラッギラのアンサンブルと激しいこと極まりないアクションで“声”に“刃”、そしてフロアに染み渡らせるような“美しい名前”も届けられる。BRAHMANの20周年を記念して特製チャンピオンベルトを贈呈するという趣向が持ち込まれ、そこに姿を見せたTOSHI-LOWは、もともとのドレッドヘアに加え、スタッズ入りのライダースを着用、そこにチャンピオンベルトを巻いて武藤敬司のポーズを決めるという、見るからにヤバい最強生物と化していた。
MAN WITH A MISSIONは、初っ端“Emotions”からビートも歌声も猛烈なアタック感で迫ってくる。ジャン・ケン・ジョニー(G・Vo・Raps)は謙虚な口ぶりで挨拶するものの、次の瞬間には「俺ガ言イタイノハソンナコトデハアリマセン、我々ハ幕張メッセノオマエラヲブッ潰シニヤッテキマシタ! 骨モ残サネエゾコノヤロー!!」とやる気剥き出し。熱狂のスペクタクルこそが最高の祝福であると言わんばかりに、新曲“Raise your flag”、眩いサウンドで歌声を導く“Seven Deadly Sins”、トドメの“FLY AGAIN”を連射。潔いまでに役割を引き受けるステージが見事だった。
がっちりのヘヴィネスで“JUNGLES”と“VIBES BY VIBES”を放つ10-FEET。TAKUMAはマイクを引っ掴んでフロア最前線に乗り込むと、「TOSHI-LOWのモノマネでTOSHI-LOWを語る」という難芸で爆笑を誘う。「京都大作戦」のオファーを断るたびに「~祭」というサブタイトルにケチをつけておいて、今回の「尽未来際~尽未来祭~」は何だと。オチも見事にTOSHI-LOWクオリティだ。 “SEE OFF”をカヴァーした後には、震災以降のBRAHMANに刺激されたTAKUMA自身の言葉で、「偽善でも意味がわからなくても、友達を思うなら行動して、声を上げろ。理由は後から付いてくればいい」というメッセージを伝えるのだった。
身震いさせられる不協和音のイントロから“The Ivy”を紡ぎ出し、怪物揃いのラインナップの中で自らがトリ前を担うことの根拠を伝えたthe HIATUS。“Storm Racers”の後に細美武士(Vo・G)は、「好き放題やって人をタテにもヨコにも繋げるなら、向こう20年、好き放題やって欲しいと思います」と語る。エレクトロニックな音も絡めて“Thirst”や“Lone Train Running”を繰り出すと、「みんなが声を上げて、拳を上げてくれるから、あいつらは立っていられる。これからも命懸けで、命懸けって言ったら命懸けだよ? BRAHMANを応援してあげてください」と告げ、“Silver Birch”までを駆け抜けていった。
そして、いよいよ主役の4人が登場だ。まずは“初期衝動”をぶちかますと、「お祝いされるのは俺たち、BRAHMANはじめます!」と、何とも言えない笑顔で言い放つTOSHI-LOW(Vo)。“露命”では、KOHKI(G)の美麗なギターフレーズをオーディエンスのクラップが追いかけてゆく。ベスト盤『尽未来際』のディスク2をそのまま再現するセットリストだが、この選曲・曲順がそもそもセットリストとして完璧に練り上げられたものであることが分かる。”其限”と“鼎の問”が立て続けに披露されることの重さと雄弁さには、背筋が伸びる思いだ。“LOSE ALL”でマイクスタンドはひしゃげ、MAKOTO(B)とRONZI(Dr)も渾身のシャウトを放つ“警醒”でTOSHI-LOWはフロアに突入すると、続いて細美武士も飛び入り。2人の声が“PLACEBO”を歌うのだった。
「……さっき、あのクチビルが来たのって、この辺?」と笑いを巻きながら語りだすTOSHI-LOW。前日は年齢層が高くて臭かった、でも今日になってみるとまだ匂う。エレカシか?」と歯に衣着せぬ物言いを飛ばしまくり、「いや、どうも上の方から匂う。犬小屋臭え。これ嗅いでみて?」とオーディエンスにドレッドヘアを突き出すのだった。いつでも最後だと思って歌い続けてきたことをあらためて告げ、「20年間、地図もなく歩いてきたのかなって。でも、航海図もなく海を渡る船はない。コンパスも持たずに歩く登山家はいない。ライヴを観て、あの人はどんな顔するんだろうって……この光景が、俺たちの地図だった。この光景を、あの人に見せたかった。あの子に見せたかった。津波に飲み込まれたあの町。これから津波に飲み込まれる町。お前らの住んでるド田舎の町。俺は20年間ずっと怖くて、次の言葉が出てこなかった。言ってしまったら、全部壊れてしまうんじゃないかって。約束を破ってしまうんじゃないかって。でも今日だけは、言わせて欲しい。また、ライヴで会いましょう。本日……昨日も、どうもありがとう! 結成20周年、明日から21年目の新人、BRAHMANはじめます!」
不足や細部の間違いはあるかも知れないが、TOSHI-LOWはそう告げて、“霹靂”を、また“虚空ヲ掴ム”を歌った。さらにそのまま、「震災後はじめてのアンコールはじめます!」と言い放ち、前日の1曲目、つまり1995年に制作されたというデモテープの1曲目に立ち返るように、“TONGFARR”を繰り出してオーディエンスの熱い歌声にまみれた。20年分の、文字通りの、「必死」のアクト。その先で、BRAHMANは確かに約束を残したのだ。(小池宏和)