©SENHA「YUZU ARENA TOUR 2024-2025 図鑑」は、年を跨いで本公演が全国13会場30公演、さらにこの3月中には追加公演「YUZU ARENA TOUR 2025 図鑑 spring has come」が3会場で6公演が行われ、アルバム『図鑑』を携えてのライブツアーは丸5ヶ月、計36公演を完全走破した。本記事では3月1日、Kアリーナ横浜追加公演1日目の模様をレポートしたい。「spring has come」という副題が添えられた追加公演日程の初日にあたり、まさに春めいた心地よい陽気の中を横浜駅から会場へと向かった。1年半前のKアリーナ柿落とし公演と同様、今回のツアーも日産サクラとのコラボレーションが行われており、道すがら通り抜ける日産グローバル本社ビルも賑やかなコラボ装飾が目を楽しませる。
©SENHA恒例・ラジオ体操第一の準備運動を経て、ピアノとストリングスを軸にアンビエントな音像の“Overture -harmonics-”が立ち上がる中、スクリーンには広大な砂漠が映し出される。1枚の花びらがステージ中央に舞い降りる映像がオーディエンスの視線を集めると、そこに北川悠仁と岩沢厚治が姿を見せた。ニューアルバムと同様に、雄大かつ力強いバンドサウンドで“図鑑”へと連なる序盤。強い好奇心をもってページをめくるように演奏がクレッシェンドし、背景映像も大海原から遥か地平の弧を臨む成層圏へと、壮大なスケール感でオーディエンスを飲み込んでゆく。
©SENHAそれぞれにデザインの異なる花を象ったブローチを胸に、“ヒカレ”では「ヨーコハマー!!」と呼びかけながらギターを掻き毟り勢いよく捲し立てる北川と、演奏に集中しながらもすこぶる楽しそうな表情を見せる岩沢。
ゆずっこ(ファン)の歌声は早くもアリーナ規模の一体感に到達し、ダンサー陣が舞う“RAKUEN”では信頼感抜群の熱い掛け合いを繰り広げる。ゆずのライブはいつだってプロフェッショナルで、幅広いファン層を受け入れる安心感と懐の深さを備えてはいるが、どうもそれだけではない。少々の演奏曲入れ替えなどは見られるものの、これが既にツアー本公演30本をこなしてきたアーティストのステージなのか、と驚くほどの熱量と切迫感を受け止めさせるのだ。
©SENHA桜色の照明、そして桜吹雪のアニメーションとふたりの姿が重なる“桜会”のあと、北川は「先週まで冬のツアーをやってたんですけど、急に春が来ました。すごいね(笑)」と告げながら、親子連れも目立つゆずっこ数組にインタビューする。“サヨナラバス”はハンドウェーブと併せて自信満々に大合唱を誘うのだが、その歌声を繋ぎ止めるような岩沢のハーモニカ演奏も素晴らしい。大らかに時間を共有する名曲があれば、苛立ちの焦燥感に満ちた“つぎはぎ”ではバンドサウンドもグッとタイトに引き締まり、そして混迷の時代を潜り抜けてゆくコンテンポラリーなフォークロック“SUBWAY”へと向かう。弛緩と緊張のコントロールも的確なことこの上ない。
©SENHA暗闇の地下を進んでいたはずの列車は、いつしか銀河鉄道と化して“十字星”のファンタジックな疾走へ。触れる者の想像力を刺激する演奏と映像演出もさることながら、サブステージに移動した北川とメインステージに残る岩沢は、離れた距離で向き合うようにしながら熱いパフォーマンスの根幹を担っていた。そして、ふたりの丸裸の歌声が競い合うように放たれる“青”。オーディエンスも、既に覚悟を決めたように、ふたりが放つエネルギーを正面で受け止め投げ返す。素朴な曲ゆえに熱量がありのままに伝わる特大シンガロングだ。
©SENHA日産サクラとのコラボ映像(「ご当地図鑑」と題されたゆずふたりのドライブトーク)や、ゆりやんレトリィバァがマリリン・モンロー風の装いで出演する“伏線回収”ダンスレクチャー映像を経て、衣装チェンジしたゆずはふたりがステージの両翼に広がる“スミレ”で演奏再開。お馴染みのフラワーアーティスト・東信が演出する「花」をテーマに、新旧の楽曲をコンセプチュアルに並べた一幕だ。ダンスと光、そして花のグラフィックが神秘的で厳かなムードを後押しする“花言霊”から、夜空を背に咲く花が夜明けのトワイライトを目指す“ワンダフルワールド”という、ドラマティックな連なりが美しい。
©SENHA生命の息吹を継承した“栄光の架橋”では、冒頭からオーディエンスに歌声を預ける。最後のコーラスでは、高出力の照明が眩く客席を照らしていた。「(ツアーの)本公演では自分と向き合って歌ったけど、追加公演では我慢できなくなりました。“栄光の架橋”を、みんなに返したくなりました」と北川。そして、トラッドミュージック風のバンド&ダンスメンバー紹介セッションに「横浜市歌」のフレーズもちりばめながら、ちょっと悪戯っぽくエロティックな“LOVE & PEACH”で沸かせる。ツアーグッズの手旗「図鑑フラッグ」も視界いっぱいに揺れて楽しい。さらに、北川が桜吹雪を撒くダンサーたちとアリーナ通路を練り歩く“夏色”では、こちらもグッズのタンバリンが大活躍する。
©SENHA思い出してみれば、あのコロナ禍の時期、ゆずは音楽エンタメの灯を絶やすまいと、とりわけ積極的に配信ライブに取り組んだアーティストのうちの一組だった。有観客ライブが行えるようになってからも声出しの自粛が求められているうちは、こんなふうにオーディエンス用の鳴り物や振り付きダンスを次々に用意するなど、エンターテイナーとしてがむしゃらに苦心してきた。ゆずの「切迫したエンタメ精神」は、そんなふうに苦境の中でこそタフに発揮されてきたのである。そして、国内外で毎日悲しいニュースばかりが飛び交う今日、ゆずの「切迫したエンタメ精神」には拍車がかかるばかり。今このときばかりは何がなんでも楽しませてやるぞと、そんな鬼気迫るようなモチベーションをもって、巨大なアリーナを笑顔まみれにしてしまう。
©SENHA《街から聴こえる/懐かしい人にばったりかと思ったら 新たな出会いも/またね手をふる/刻む足音が 暮らしを奏でる》(“Chururi”)。そんな何気ない営みが続くように、色どりを失わないように、このエンタメは闘っている。オープニング映像同様に荒涼とした砂漠を模したステージセットには、いつしか色とりどりの、無数の花が所狭しと咲き乱れていた。「愛する横浜! どうもありがとう!!」と告げて壮麗かつダイナミックな“Interlude -harmonies-”を挟んだあとには、ツアー中にリリースされた新曲“flowers”だ。ドラムンベースのトラックとバンド演奏が推進力の相乗効果を生み出し、急速に開花してゆく花々の美しい映像、さらにはダンサー陣の躍動が、フル稼働で観る者にエネルギーを注入してくる。そこからシームレスに連なる“ビューティフル”は、長いツアーを経てアリーナ級のダンスアンセムへと確かな成長を遂げ、ここKアリーナへと帰ってきた。紙吹雪舞う、万感の本編クライマックスである。
©SENHAアンコール代わりに客席から“贈る詩”の合唱が立ち上がり、ツアーTシャツに着替えたゆずが再登場してまだまだ元気に“アゲイン2”を熱唱する。そしてオーディエンスと「ありがとう」の応酬を繰り広げる北川は、「図鑑をめくるようにコンサートをやって、またみんなにありがとうを言いに来ます!」と告げた。最後の最後には、紆余曲折の日々を笑いながら踏み越えてゆく“伏線回収”である。今こそ、ダンスレクチャーの成果を見せるとき。振り付けは細かく難易度の高いダンスだが、誰もが楽しそうに踊っている。ロサンゼルスの砂漠であのスペシャルムービーのロケを行った北川が、実は現地で踊りまくっていたというオフショット映像も流れて愉快だ。素晴らしいステージだった。ゆずのふたりはステージに立つたびに、何度でも闘うエンタメを繰り広げるのだろう。(小池宏和)
●セットリスト「YUZU ARENA TOUR 2025 図鑑 spring has come Supported by NISSAN SAKURA」
2025.3.1 Kアリーナ横浜
01. Overture -harmonics-
02. 図鑑
03. ヒカレ
04. RAKUEN
05. 桜会
06. サヨナラバス
07. つぎはぎ
08. SUBWAY
09. 十字星
10. 青
11. スミレ
12. 花言霊
13. ワンダフルワールド
14. 栄光の架橋
15. LOVE & PEACH
16. 夏色
17. Chururi
18. Interlude -harmonies-
19. flowers
20. ビューティフル
Encore
21. アゲイン2
22. 伏線回収
●リリース情報
配信シングル『flowers』
配信中
ゆずオフィシャルサイト