今年2月より開催されてきた「おいしくるメロンパン 2man tour 2025 ▶PAN or RICE...?」が3月14日、大阪で遂にファイナルを迎えた。おいしくるメロンパンにとって約5年ぶりの2マンツアーとなった今回のツアー。対バン相手にChevonを迎えた初日・東京公演。ポルカドットスティングレイを迎えた2日目・福岡公演。ネクライトーキーを迎えた3日目・名古屋公演。「rockinon.com」では初日からの全公演をレポートしてきたが、本稿ではシンガーズハイを迎えたツアーファイナル・大阪BIGCAT公演の模様をレポートする。昨年、シンガーズハイが開催した対バンツアー「Battle Frontier tour 2024」においしくるメロンパンが出演して以来のこの2組よる2マンは、今ツアーのファイナルを飾るに相応しい、熱狂的かつ爽やかな夜となった。
観客たちの大きな歓声に迎えられ、先手としてステージに登場したシンガーズハイの4人は、1曲目の“エリザベス”からBIGCATのフロアを狂騒的な祭へと導いていく。「俺たちは俺たちの速度で行くよ」と突きつけるようにバンドの演奏は狂おしく、激しくて、その激しさにフロアの熱気も高まる。緊張感と高揚感を一緒に連れてくるインパクト大なはじまりから、粘り気のあるダンサブルなグルーヴへと突入していく“Kid”も大いに盛り上がる。スタイリッシュだが獰猛で、シンプルだけど華やか。そんなシンガーズハイの世界に、ライブ冒頭からフロアは飲み込まれていく。
MCでは、内山ショート(Vo・G)が昨年の対バンを振り返ると共に、今回の2マンへの思いを語る。「個人的に、ただのファンです」と、おいしくるメロンパンへの愛情を語る彼は、「昔、地元でやっていたバンドの入場SEで、おいしくるメロンパンの曲を勝手に使わせてもらっていたんです。これですよ」と告げると、なんと、“caramel city”の冒頭部分をエレキギターで弾き語り。そのサプライズにフロアも大いに沸くが、少しで演奏はストップ。「がっつりカバーはやめときますわ。おいしくるメロンパンのよさは、俺たちにはたぶん出せない。脳筋のドラムと、ルートしか弾かないベースと、めちゃくちゃうるせえギターと、文学的でも詩的でもないボーカルがやっているバンド、それが我々シンガーズハイです」と告げる内山。しかし、その言葉がシニカルな自虐なんかじゃないことは、この夜の堂々たる演奏を聴けば明らかだ。内山はこんなふうにも語った──「『自分らしさ』を追いかけていくうちに、憧れから遠ざかってしまう寂しさもあるんです。でも、おいしくるメロンパンがカッコよくいてくれるから、僕たちもどしっと構えて『僕たちらしさ』を見出そうと思える。おいしくるメロンパンには本当に感謝を伝えたいです」。
「俺は俺だ」ということ。「自分」を全身全霊でまっとうすること。おいしくるメロンパンという、決してわかりやすいメッセージを発するわけではないバンドの背中を見て、きっと内山が受け取ったメッセージはそういうものだったのだ。おいしくるメロンパンからシンガーズハイに受け継がれた、その「自分であること」への腹の括りは、演奏からも強く伝わってくる。「僕は、小難しいことをギャーギャー言うことはできないから。頭悪いから、僕。そんな人間らしくビャーッとぶちまけて帰ります」。そんな内山の言葉に続いて始まった“STRAIGHT FLASH”、そして“ノールス”へと続いたラストの畳み掛けは圧巻だった。
改めて思う、バンドとは歪なものだと。だって人と人でやるものだから。手作りなものだから。でもその固有の「歪さ」が、他の誰かから見たら「美しさ」になりえる。そんなことを改めて感じさせるシンガーズハイのパフォーマンスだった。
そして、この夜とこのツアーを締め括る、おいしくるメロンパンのステージが始まる。幻想の国のフォークロアのようなオリジナルのSEが響く中、ステージに姿を見せたナカシマ、峯岸翔雪(B)、原駿太郎(Dr)の3人。1曲目は“色水”だ。ひとり、スポットライトに照らされたナカシマの歌い出しに、フロアから歓声が上がる。滑らかだが、刺々しくもあり、そしてたしかな重みも感じさせるサウンドが、今年結成10年を迎えるバンドの年輪と、その中に宿る魂の変わらぬ純粋さを感じさせる。2曲目は“look at the sea”。逞しくリズミカルな演奏と繊細なコーラスが、バンドのプリミティブな生命力を放出する。《醒めないでいて》と歌うこの曲は、かつては現実を遮断する逃避の歌だったかもしれないが、今は力強く、現実を生き延びるための歌として響く。なにより、ライブ冒頭に初期の代表曲2曲を連投で持ってくることに、出し惜しみも勿体ぶりもない、このツアーに対してのおいしくるメロンパンの覚悟を感じる。
バンドの肉体がしなやかに躍動する“黄昏のレシピ”、内山もカバーした“caramel city”のメランコリックかつ軽快な響きに、“沈丁花”の突き刺すようなソリッドさ。それに、原のドラムから幕を開け、ナカシマのギター、峯岸のベースと合流し、徐々にカメラがズームアップして視界が開けていくようにドラマチックに情景を描いていく“garuda”が見せる壮大な絶景。そこから間髪入れずに始まる“シュガーサーフ”のスリリングな疾走感……何度観ても、凄い。演奏が進むにつれ、「なんて時間の操り方だろう!」と息を呑む。バンドのエネルギーは、ある瞬間にはギュッと凝縮したかと思えば、唐突にタガが外れたような大爆発を巻き起こす。ある瞬間にはひとりの人間の心の中の小さな動きを観察するミクロな視点だったものが、次の瞬間には、海を越え、時空を超え、虚実を超え、遥かな世界を見つめるマクロな視点に切り替わる。「今この瞬間」を生き抜くバンドとしてのリアルさ、生々しさを剥き出しにしながら、10年間の成熟の過程で培ってきた冷静さ、客観性、緻密さ、技術が、「すべての一瞬」を強固に支えている。自分の内側を掘り進めることを諦めなかった歴史、自分の外側に語り掛けることを諦めなかった歴史、繊細さを一切舐めなかった歴史が、おいしくるメロンパンのすべての「今」を輝かせている。
ここまでの「▶PAN or RICE...?」ツアー、すべての会場において「『パン派』か『お米派』か、なんて本当は関係ないんだ」と主張しながら、同時に「自分たちはお米派である」とも主張し続けた原のMCタイム。彼は頑なに「ライス」とは言わず「お米」や「ごはん」と言い続け、「みんなはお米で、BIGCATは土鍋。ここから盛り上げて盛り上げて、みんなを楽しく炊き上げていくからよろしく~!」と、この日もへんてこな煽りを炸裂させる。続けてナカシマがシンガーズハイの面々への感謝と、彼らの人柄のよさを語る場面も。「シンガーズハイのイメージって、目が合ったら殴りかかってくるんじゃないかと思っていたけど、全然そんなことなくて。みんないい子すぎて……好きになっちゃうね」とラブコールを送ると、さらに「僕たちの曲に“千年鳥”という曲があるんですけど、その曲で《千年後の僕もまだ愛してくれる?》と歌っているんです。シンガーズハイを聴いていたら《千年先まで愛しているとか/しょうもないこと並べないで》って歌詞があって……どういうこと?」と、思わぬところで勃発した歌詞バトル(?)にも言及。会場が笑いに包まれる。「僕らが後出しなので、完全に当り屋なんですけどね」と告げるナカシマ。すると、そのあとに3人が演奏を始めたのは……なんと、そのシンガーズハイの“ノールス”。今回のツアー、全会場でおいしくるメロンパンは対バン相手の楽曲を1コーラスカバーしたのだが、最後に選ばれたのが、自分たちの新曲と同じ《千年》という言葉を掲げながら、真逆のフレーズを歌っている“ノールス”というのは、なんとも面白い。おいしくるメロンパン流の鮮やかさと色気のある“ノールス”に、会場も盛り上がる。
そして夕日色の照明に照らされる中“フランネル”が披露されると、続けて、叙情性とアンサンブルの立体感によって1本映画を観たくらいの濃密な体験をもたらす“dry flower”へ、バンドは想像力の翼を無限に広げるような演奏を展開していく。MCではナカシマが「4バンドと対バンしてきましたけど、それぞれが凄くいいバンドだったし、これからもたくさん関わっていきたいと思います。僕らを含めた5バンドとも応援よろしくお願いします」と告げ、そこからライブはラストスパートへと突入。新曲“千年鳥”、“空腹な動物のための”と、アグレッシヴなキラーチューンを立て続けに披露し、本編最後を飾ったのは、“マテリアル”。構築と間(ま)、沈黙と叫び、影と太陽、過去と現在──それらの現実とイメージが精緻に折り重なることによって生まれる、この魔法のようにポップな1曲で一体感を生み出し、ライブ本編は締め括られた。
そしてアンコール。最後の最後に演奏されたのは“5月の呪い”。軽快なリズムに揺られながら、間奏では峯岸、原、ナカシマそれぞれのソロ回しも飛び出す、そんなバンド演奏の原初的な喜びを謳歌するような開放感のあるパフォーマンスで幕を下ろした「▶PAN or RICE...?」ツアー。ステージを去る間際、観客たちに向かってピースサインを掲げた峯岸の晴れやかな姿が、この2マンツアーの成功を私たちに伝えているようだった。
改めて、豊かで幸せな2マンツアーだった。自分を信じて歩き続けた人たちは、いつしかこんなにも清々しく、世代をも超えた友に出会える。再会できる。影響を与え合える。そんな希望がこの2マンツアーにはあった。そして、結成10年を迎えて、こんなにも純粋な姿で世界に飛び込んで行くことができるおいしくるメロンパンというバンドの凄みを再発見するツアーでもあった。4月には9作目となるミニアルバム『antique』のリリースが控えているし、さらにその先にはリリースツアー「おいしくるメロンパン antique tour - 貝殻の上を歩いて - 」も待っている。ツアーファイナルは日比谷野外大音楽堂だ。おいしくるメロンパンには、まだまだ楽しみな未来が待ち受けている。(天野史彬)
●リリース情報
9th Mini Album『antique』
2025年4月23日(水)発売
●ツアー情報
「おいしくるメロンパン 2man tour 2025 ▶PAN or RICE...?」
2025/2/14(金) 東京・Spotify O-EAST w/Chevon
2025/2/22(土) 福岡・DRUM LOGOS w/ポルカドットスティングレイ
2025/3/8(土) 愛知・名古屋 DIAMOND HALL w/ネクライトーキー
2025/3/14(金) 大阪・BIGCAT w/シンガーズハイ
「おいしくるメロンパン antique tour - 貝殻の上を歩いて -」
5/18(日) 石川・金沢エイトホール
5/24(土) 宮城・仙台 darwin
5/31(土) 大阪 GORILLA HALL
6/1(日) 広島 Live space Reed
6/15(日) 福岡 DRUM LOGOS
6/20(金) 北海道・札幌 ペニーレーン24
6/22(日) 愛知・名古屋DIAMOND HALL
6/29(日) 東京・日比谷野外大音楽堂
プレイガイド2次先行(抽選)受付期間:3月20日(木)12:00〜 3月30日(日) 23:59
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