サカナクション/EX THEATER ROPPONGI

サカナクション/EX THEATER ROPPONGI - All photo by 横山マサトAll photo by 横山マサト
現在進行中のホールツアーと並行し、EX THEATER ROPPONGIの5周年企画として4日間の公演が行われた「SAKANAQUARIUM2018-2019 魚図鑑ゼミナール EX THEATER ROPPONGI 5th Anniversary」。サカナクションと縁のあるビジュアルディレクターたちが「魚図鑑ゼミナール」の世界に新しい視界を持ち込み、またドイツ生まれのスピーカーシステムであるd&b audiotechnik「Soundscape」が立体的かつダイナミックな音像をもたらす。実験的なコラボレーションによって成立したそのエンターテインメント空間は、ライブ体験そのものが刷新される驚きに満ちていた。12月3日公演の模様をレポートしたい。

サカナクション/EX THEATER ROPPONGI

ツアー「SAKANAQUARIUM2018-2019 魚図鑑ゼミナール」と同様に、ライブは深海・中層・浅瀬の3部構成。臨海都市を望む視界が水泡を巻いて海中へとダイブする雄大なオープニングから、「深海」のチャプターが始まる。映像ディレクターは“years”や“SORATO”などのミュージックビデオを手がけた山田智和だ。自然光を取り入れた目に柔らかな映像が、サカナクションの音像に息づく生身の感情の蠢きとシンクロしてゆく。メンバーのリアルタイム映像が波紋の中で揺れながらオーバーラップする“mellow”は美しく、“enough”の静謐なオープニングで情緒を際立たせる音像にも息をのむ。男女の素肌を接写する狂おしい映像が用いられた新曲は、湿り気を帯びたサウンドのレイヤーに包み込まれるようだった。

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江島啓一(Dr)の力強さと繊細さを兼ね備えたドラムソロが喝采を巻き起こすと、それまで場内に立ち込めていた緊張感が解きほぐされ、「中層」のチャプターが始まる。ビートとシンクロして光の粒が弾ける映像にも高揚させられた。このチャプターでは“『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』”や“新宝島”などのMVを手がけ、現 NFメンバーでもある田中裕介が映像を担当しているのだが、全編に渡ってフィーチャーされたアオイヤマダ(AOI YAMADA)のダンスに目を奪われる。それは野性と知性を同時に受け止めさせる衝動的なダンスで、楽曲に立ち込めるエモーションを増幅していた。

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“明日から”で各パートの音をくっきりと浮かび上がらせる音響は「こんなにすごい曲だったのか」とあらためて気づかされるほどであり、“三日月サンセット”で音の定位をくるくると変えながら響くシンセフレーズも楽しい。街を颯爽と歩くアオイヤマダの姿をトレースしたアニメーションが用いられた新曲は、滑らかなシティポップの曲調が肯定的な心の動きを乗せて鳴り響いていた。

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さて、「NF TV」のレトロなテストパターン映像で笑いを誘うと、“新宝島”で「浅瀬」のチャプターに飛び込んでゆく。世界中のダンスと、ユニークな造形の海洋生物が次々に登場するさまが楽しい。このチャプターの映像ディレクションは、“僕と花”や“ユリイカ”などのMVで知られる山口保幸。カンフー少女のバトルが映像に用いられた新曲は、“新宝島”に通じる歌謡テイストと爆発力を兼ね備えたポップチューンだ。古いカンフー映画のような書体でスクリーンに浮かぶメンバー紹介にも盛り上がる。

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深夜のハンバーガーショップでおし黙る男女の姿を捉えた映像の“表参道26時”があれば、サウンドの陶酔感を引き出す演出の“ナイトフィッシングイズグッド”や“ミュージック”もある。“アイデンティティ”で初っぱなからオーディエンスに歌詞を預けていた山口一郎(Vo・G)は、「あー楽しかった! まだまだ踊りたい。自由に、羞恥心を捨てて、最後一緒に踊りましょう!」と呼びかけ、“陽炎”でひときわ熱い歌声を放つのだった。多くのクリエイターと関わって発揮される実験精神が、そのまま表現の喜びに直結している、そんな表情だ。アンコールに応えて再登場してからも、山口は今回のステージに関わった3人の映像ディレクターを紹介しながら、新しいクリエイターとの出会いを求めていた。

サカナクション/EX THEATER ROPPONGI
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日替わりのアンコール曲では、山口保幸が手がけた“僕と花”のMVを背に演奏する。生演奏の、立体感のある音響に触れながら、ミュージカルのようなこのMVに触れるのはちょっと贅沢だ。今回触れることのできた新曲群はいずれも素晴らしかったし、全公演がサラウンド環境で行われる2019年4月から始まるアリーナツアー(新作ツアーになるはず、と山口は語っていた)では、また異なった趣向の驚きがもたらされるだろう。たっぷりと期待しておきたい。(小池宏和)

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