【深E分析】あなたはヤバイTシャツ屋さんをポップだと思いますか? パンクだと思いますか?

【深E分析】あなたはヤバイTシャツ屋さんをポップだと思いますか? パンクだと思いますか?
ヤバイTシャツ屋さんのライブの定番曲“メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲”では≪We are メロコアバンド誰がなんと言おうともメロコアバンド≫と言い張っているが、某大型CDショップでヤバTのCDは、J-POPコーナーに陳列されている。たしかに、ヤバTの楽曲には激しいパンクのスピリットを感じることもできれば、キャッチーなポップスの要素も感じることができる。今回は、ヤバT新規のお友達に「ヤバイTシャツ屋さんってどんな音楽やってるバンドなの?」と聞かれたときに困らないよう、しっかり分析していこうと思う。

まずは、ヤバT楽曲のパンクな部分から見ていこう。ご存じの通り、ヤバTのほとんどの楽曲を制作しているこやまたくや(G・Vo)は、2008年の「京都大作戦」で10-FEETに出会い、多大な影響を受けて今では同じ事務所・レーベルに所属している。前述の“メロコアバンドのアルバムの3曲目ぐらいによく収録されている感じの曲”も10-FEETの楽曲を意識して作られた。10-FEETがそうであるように、たとえ知らない曲であったとしても思わず拳を突き上げ飛び跳ねたくなる、そんな日常生活では出さない「自分の中に眠るパンク」を爆発させてくれる力がヤバTの楽曲にはある。またメロコアの最前線を走り続けているdustboxの影響も大きく受けており、Aメロからサビまで疾走感あふれる楽曲が多い。「パンク」や「メロコア」の概念は人によって曖昧なところがあるが、こやま自身も「1番パンクな曲」と語る“ヤバみ”は、英詞も相まって(歌っている英語にあんまり意味はないらしいが)破壊力抜群。この楽曲がパンクのど真ん中であることに文句をつける人は居ないだろう。


さらに、激しい楽曲にはパンクだけではなくミクスチャーロックの要素も混ぜ込まれている。こやまは92年生まれで、筆者も同い年なので当時の衝撃がめちゃくちゃわかるのだが、自分のアイデンティティが形成されていく中学生時代に、マキシマム ザ ホルモンの音楽と出会っている。一番多感な時期にあんな英才教育を受けたら、影響を受けない方が難しい。スカ・デスボイス・スクリームなどが巧みに仕掛けられたメロディと、実は深いが一見理解できない不思議な歌詞(褒めてる)に初期のホルモンを思い出す人も多いのでは? ちなみにこれは余談だが、こやまは高校時代に文化祭でホルモンをカバーし、“包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ(正式表記は各単語に×表記)”を披露したが当時はダダスベりしたらしい。その時の苦い思い出を歌ったのが、自主制作シングル収録の“反吐でる”だ。


続いてはヤバTの楽曲のポップな部分を掘り下げていこう。ヤバイTシャツ屋さんという名前が最初に全国へ広まったのは、やはり“あつまれ!パーティーピーポー”の力が大きいだろう。≪しゃっ!しゃっ!しゃ! しゃっ!しゃっ!/shirts!えっびっばーっでぃっ!≫の歌詞でわかる通り、この楽曲はLMFAOの“Shots ft. Lil Jon”をオマージュしている。他にも、NHK『おかあさんといっしょ』の楽曲“スプラッピ スプラッパ”のカバーをデビュー前からライブの定番として披露している。ロックバンドがオマージュするには畑違いなジャンルでも、自分が良いと感じたら採用する。そんな固定観念に囚われない柔軟な発想が、ロックという枠組みを超えてキャッチーで聞きやすいポップネスを生み出しているのだろう。


また、ヤバTに感じる「コミックバンド」的なノリは四星球の影響が大きい。学生時代に四星球のライブを観たこやまは、その斬新過ぎるスタイルに「こんなんやっていいの? 俺こういうバンドやりたい!」と感銘を受けたそうだ。自身がバンドにのめり込んでいくきっかけになった10-FEETとの出会いも、「何このバンドめちゃくちゃ楽しい」と感じたところから始まったし、こやまは恐らく曲作りにおいて「ライブでお客さんに楽しんでもらえるように」を1番大切に考えているのだと思う。そういった意味でも、全力でふざけているプロのコミックバンド四星球は、今のヤバTのスタンスを構成する様々な要素の中でも非常に大きな役割を担っている。


少し技術的な話をすると、こやまはポップな所謂「売れ線」の楽曲を狙って作ることができるほどの器用さも持っている(モチロンこれは技術があるという話で、彼が売れるということだけを考えて曲作りをしているという訳ではない)。すっかりヤバTの代表曲となった“ハッピーウェディング前ソング”や“かわE”がまさにそれだ。手拍子したくなるような小気味よいリズム、モッシュを促す激しいものではなく自然と体が揺れる心地よい裏打ち、1度聞けば耳に残って思わずシンガロングしたくなるキャッチーなフレーズ――これらの技術を入れ込みながらも、あからさまに「良い曲作りました」といういやらしさを感じさせない絶妙なバランス。このインテリジェンスでハイレベルなテクニックとセンスには脱帽する。


ここまで、パンクとポップの両面でヤバTの音楽を分析してきたが、「ヤバイTシャツ屋さんはパンクなのか? ポップなのか?」という問いの答えとしては、「どっちも」というのが結論だ。と言うか、どっちも兼ね備えているがどちらの枠組みにも収まりきらないと言ったほうが正しいかもしれない。この記事で挙げただけでも、沢山のアーティストの影響を受けていることがわかると思うし、その様々なジャンルの音楽的要素が、クリエイターの一面も持つこやまならではの天才的かつ独創性溢れる配合で入り混じっているのがヤバTの音楽なのだ。

これは徐々に形成されていったものではなく、ヤバイTシャツ屋さんというバンドが誕生した時には、すでに確立されていた。バンドとして初めて作った楽曲“ネコ飼いたい”を聴くとよくわかる。AメロとBメロ(そもそもこの曲にそんな概念が存在するのか微妙だが)の疾走感はdustboxから、最近は行っていないが、ダンボールに《ネコ!ネコ!ネコ飼いたい!》と書いてシンガロングを促すノリは四星球から、そしてサビの大幅な転調はももいろクローバーZの“ミライボウル”からヒントを得たという。自分の好きなものを詰め込んだ、まさにオモチャ箱のような楽曲だ。


以上が、今回の分析結果となる。もはやジャンルを定義するのが野暮な感じもするが、強引に分けるとしたら「ヤバイTシャツ屋さん」という新ジャンルを確立させたと言うべきか。なので、ヤバT新規のお友達に「ヤバイTシャツ屋さんってどんな音楽やってるバンドなの?」と聞かれたら、「パンクにポップス、ミクスチャーにコミックの要素も入った、今までにない全く新しいジャンルのロック」と説明してあげよう! そして、こやまにとっての10-FEETやホルモンがそうであったように、いつかヤバTも次の世代に「お手本」とされる日がやってくるだろう。このバンドには、数々のレジェンドと肩を並べて日本のロックシーンに大きな足跡を残すポテンシャルがあると確信している。(野澤勇貴)
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