星野源とトム・ミッシュのコラボ曲“Ain’t Nobody Know”が内包する秘密の距離感について

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  • 星野源とトム・ミッシュのコラボ曲“Ain’t Nobody Know”が内包する秘密の距離感について - 『Same Thing』

    『Same Thing』

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  • 星野源とトム・ミッシュのコラボ曲“Ain’t Nobody Know”が内包する秘密の距離感について - 『Same Thing』
10月14日に配信リリースされた星野源の新作EP『Same Thing』。たった4曲と言えばたった4曲の小さな作品ではあるが、この驚きはあの『POP VIRUS』に勝るとも劣らないと言っていいだろう。スーパーオーガニズムとコラボレーションした“Same Thing (feat. Superorganism)”、PUNPEEをフィーチャーした“さらしもの (feat. PUNPEE)”、そしてトム・ミッシュと共同プロデュースした“Ain’t Nobody Know”。クレジットされた豪華なコラボ相手もさることながら、何より重要なのは、それによってますますピュアに研ぎ澄まされた星野源の音楽性そのものだ。EPの最後に収められたフォーキーな“私”が、まるで何かを取り戻すように、あるいはある種の「答え合わせ」のように聴こえるのは、このEP全体が表現者・星野源の欲望と葛藤を剥き身で突きつけてくるものになっているからにほかならない。

というわけで4曲ともにすばらしいのだが、本稿ではそのなかでも“Ain’t Nobody Know”にフォーカスしてみたい。この『Same Thing』が「他者」との関係性において相対的に星野源という異才の表現の核を浮かび上がらせるものになっているとするならば、ロンドンの若き天才クリエイターであるトム・ミッシュと組んだこの曲は、その意味でちょっと異質でもあり、そのぶん本質を突いていると感じるからだ。

今回のEPについて、星野は『ROCKIN’ON JAPAN』2019年12月号のインタビューで「いわゆるビジネス的なコラボレーションではなく、友達と一緒に音楽を作る」というイメージを念頭においていたと語っている。実際、トム・ミッシュとは今年5月の彼の来日時にメディアの対談企画で出会って以来親交を深めてきたということなのだが、では星野がここで使っている「友達」というのが単に気の合う誰かという意味なのかというと、もちろんそんなことはない。とくにトム・ミッシュについてはそうだと思う。先週公開された“Ain’t Nobody Knows”のリリックビデオにも出演している俳優の松重豊(星野とは映画で共演して以来の友人でもある)はかなりの音楽フリークでもあるのだが、彼はラジオでトム・ミッシュを評して「ロンドンの星野源」と言っていたそうだ。つまり星野とミッシュには相通じる何かがあり、それを彼ら自身も嗅ぎ取ったからこそ、今回のユーラシア大陸を挟んでの共同作業へと向かっていったのだろう。

トム・ミッシュが送ってきたトラックに星野がメロディを付け、それをまた打ち返し――というやり取りを経て完成した“Ain’t Nobody Know”は、ビートの感触やループ感はじつにトム・ミッシュ的でありながら、そこに乗るメロディと歌唱によって一気に星野源な曲になっている。適度なバランスで両者が共存しつつ、最終的にはひとつに馴染み合う……そんな理想的なコラボレーションだ。だが、これはじつは“Same Thing (feat. Superorganism)”や“さらしもの (feat. PUNPEE)”とはちょっと違う感覚でもある。お互いの物理的距離や音楽制作の作法、それからもちろん言語や背景にある文化の違いもあるのだろうが、ここにはトム・ミッシュと星野源のあいだの「距離」がちゃんと存在しているように思える。

言葉を変えるなら、淡々と一定のビートとメロディが連なるこの曲のふたりは、ふたりともちゃんと表現者として「孤独」に楽曲と向き合っているのだ。ひとりで楽曲制作を完結できるセンスと能力をもったふたりのアーティストが、それぞれのテリトリーをちゃんとリスペクトしながら接点を探り合っていくようなスリルが、この曲に特別な雰囲気をもたらしている。そして、そんな曲だからこそ、星野源は自身の声とメロディの美しさを全開放したようなすばらしい歌を歌うのである。

そんな“Ain’t Nobody Know”に、このEPでもっとも濃厚な「ふたり」の関係を歌った歌詞が付いているのも偶然ではない。この曲は、共鳴するふたりのアーティストがお互いのいちばん大事なものをさらけ出し合うような、いわばエロティックな表現の交歓なのだと思う。(小川智宏)

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