●セットリスト
1.Firecracker
2.化物
3.桜の森
4.Night Troop
5.雨音
6.くだらないの中に
7.フィルム
8.夢の外へ
9.穴を掘る
10.透明少女
11.くせのうた
12.Mad Pierrot
13.時よ
14.ギャグ
15.SUN
16.恋
17.Week End
18.Continues
-ENCORE-
1.君は薔薇より美しい
2.Drinking Dance
3.Family Song
4.Friend Ship
星野源だからこそ提示することのできるとても壮大なテーマを「Continues」というツアータイトルに込め、とても濃密で、それなのに誰もが等しく肩の力を抜いて楽しめる、奇跡みたいなライブだった。そこに在ったのは、紛れもない「音楽の喜び」。それはステージ上も客席もあふれていた。ライブのオープニングは、「J-POPくん」(CV 宮野真守)と「歌謡曲先輩」(CV 大塚明夫)が繰り広げるボイスドラマ。「もう僕らは必要とされていないのかもしれない」と、ふたりが行くあてをなくしさまよっていると、どこかから聞こえてくる「イエローミュージック」。そこに星野源がいる、というショーのオープニングだった。
全国10都市を巡るアリーナツアー、その追加公演の最終日、文字通りの千秋楽がこの日。さいたまスーパーアリーナのスタンド席のほとんどMAXまでを開放したにもかかわらず、チケットはソールドアウト。それほどまでの期待を受けてのライブの1曲目は、一体何だろう。誰もが期待に胸を膨らませる。しかし、そこで披露されたのは、あまりに意外な楽曲だった。星野源が敬愛して止まない細野晴臣、その細野が影響を受けて、ハリー細野&ティン・パン・アレーや、YMO時代にカバーしたインストゥルメンタル曲“Firecracker”が、この日の1曲目だったのだ。そう、この選曲からもう、星野源が掲げる「Continues」のコンセプトが始まっている。偉大な先人から受け継いだ音楽の衝撃を自らの血肉として、また新たな音楽の喜びを表現していくこと──。今回のツアーは、音楽がそうやってずっと続いてきたこと、そしてこれからも続いていくことを伝えるという、明確なテーマのもとに進んでいった。しかし大上段に構えて「音楽とは」というようなステージではない。私たちの生活にはいつも身近に音楽が寄り添っているように、この日の星野源の歌も、まるで、自分よりも音楽に詳しい友だちが、肩肘張らずに好きな音楽を語るような、そして、お気に入りの自作曲を「聴いてみて」とその場で聴かせてくれるような、なんとも言えない親密さを感じさせてくれた。だからこそ、1曲目が“Firecracker”だったとしても、誰もそこに置き去りにされることはなく、むしろ、全員が一緒に今日まで続く「音楽」という営みに思いをはせるようなオープニングだった。この曲の持つ、悠久の音といった趣は、まさに彼の「イエローミュージック」へと続く流れを感じさせてくれたし、マリンバを演奏する星野源もとても楽しそうだ。
“くだらないの中に”、“フィルム”、“夢の外へ”と、1stシングルから3rdシングルまでリリース順に3曲が続けざまに演奏された時には、「明るい曲を作りたいと思っていた」という当時の切実な思いに触れ、その流れの中に、彼の音楽への心の開き方の変化を感じ取ることができた。そして、アリーナの客席中央に設けられた小さな円形ステージへと移動した星野が、「とっても昔の曲を」と1stアルバム収録曲“穴を掘る”を弾き語りで演奏した後に、「20歳くらいの時に聴いて、とても衝撃を受けた曲」と、ナンバーガールの“透明少女”をカバーしたのは、嬉しい驚きだった。アコギ1本の素晴らしいアレンジ。自身が受け取った音楽のバトンを、また誇らしげに掲げてみせたような、そんな演奏だった。
後半1曲目は、またもや「20歳くらいの時に衝撃を受けた曲」として、細野晴臣作のYMO曲“Mad Pierrot”からリスタート。オリエンタルなバンドサウンドとELEVENPLAYによるダンスで表現される壮大なレビューのような世界観は、もう一度、ここで星野の音楽の原点が提示されるようでもあった。オーディエンスも自由に体を動かしながら楽しむ。その様子を見た星野が「いやあ、すごい、すごいよ。ぐちゃぐちゃだね、最高!」と笑った顔が忘れられない。さらに、「音楽って楽しいですね」としみじみ語り始めると、「僕の曲も、全部つながってると思ってて、昔に作った曲、シングルのカップリング曲とか、ライブでもほとんどやらない曲とかあるんですけど、でももし、その中の1曲でも生まれてなかったなら、それより後の曲は違ったものになってたと思います」と言って、「ふだんはやらないような曲を」と、“ギャグ”を披露。はじけるような華やかなストリングス、この歌が生まれたことをセレブレイトするようなサウンドに、会場の熱も上昇していく。“SUN”そして3万人の恋ダンス、続く“Week End”でのどんどん大きくなっていくシンガロングの声に、改めて、音楽は人の心をひとつにできるものでもあるというダイナミズムさえ感じた。もちろん、それは星野自身もステージ上で存分に味わっていたはずだ。
「最後の曲」“Continues”では、《星に響いた音は/次の誰かを照らすんだ》という歌詞が会場中にあたたかく広がって、余韻を残したまま本編は終了。この「最後の曲」を演奏する前には、星野自身によって、この後のアンコールの予定が詳細に告げられていて、すでにニセ明の登場が予告されていた。その言葉通り、“君は薔薇より美しい”を、再びアリーナセンターの円形ステージでニセ明が熱唱すると、今度はメインステージに戻って、ニセ明によるダンサーいじり、ミュージシャンいじりタイムが始まる。その脱力したやりとりに思わず吹き出してしまうけれど、このニセ明パートにしても、星野源の中にある、日本の歌謡曲への明確なリスペクトの現れなのであって、彼がこれをずっと続けてきた意味を改めて思う。そしてこの日は、ニセ明が星野源の“Drinking Dance”をカバーするという複雑な構図も加わって、とてもスペシャルなアンコールとなった。
ニセ明が去った後、最後は星野源が再びステージに登場。「この追加公演だけ、初めて新曲をやります」と、“Family Song”を披露した。歌い終わった星野源が、「ちょうど目の前に親子の方がいて、赤ちゃんと一緒に歌っている姿を見たら泣きそうになってしまった」と語ったのがとても印象深い。そしてラストの1曲に選んだのは“Friend Ship”。エンディングでは会場の隅々を見渡しながら、ギターを弾き倒す星野源。名残惜しさは大きな波のような拍手となって、いつまでも会場中に響き渡った。最後はサポートメンバー全員が一列になって挨拶。ドラムの河村“カースケ”智康(Dr)が、「福岡からもう一回やろう」と言えば、星野も「ほんと、そんな気持ちです」と返す。この言葉が、今回のツアーの充実をはっきりと物語っていた。
星野源が表現したかったこと、いま、音楽に対して感じていること、そのすべてが、極上のエンターテインメントとして、もちろん素晴らしいライブとして、そこにあった。音楽は続く。その普遍の循環を改めて思う。続いていく先の音楽を、できるだけたくさん聴けるような人生でありたいと思う。こんな瞬間を何度も体験できるような人生がいい。なんとも言えない感動が胸に深く刻まれた夜。星野源に、ありがとうと言いたい、心から。(杉浦美恵)
終演後ブログ