back number“オールドファッション”に描かれた清水依与吏と『大恋愛』との重なり

back number“オールドファッション”に描かれた清水依与吏と『大恋愛』との重なり
back numberの19枚目となるシングル曲“オールドファッション”は、ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』の主題歌である。シングルのリリース自体は11月21日(水)と、まだ先の予定だが、すでにラジオなどではフルVer.で解禁されており、さらに先週金曜、ドラマの第1話が放映され、エンディングでこの主題歌を耳にした視聴者も多いことだろう。
『大恋愛~僕を忘れる君と』の主人公・北澤尚(戸田恵梨香)は医師として忙しい日々を送りつつ、1ヶ月後には同じく医師である井原侑市(松岡昌宏)と結婚することが決まっている。すべてが順調に進み、そこには何の不満もない。しかし、そんな日々の中でふいに出会ってしまった元小説家の間宮真司(ムロツヨシ)。すべて合理的に冷静に判断して自分の人生を決めてきたはずの尚だが、真司とは運命的に純粋に恋に落ちていく。今は小説を書くこともやめてしまい、引越しのバイトをしながら生活しているこの不器用な真司の目線で綴ったラブソング──それが“オールドファッション”である。

これは推測だが、ドラマの中の間宮真司という男について、清水依与吏(Vo・G)はどこか自分に近いものを感じていたのではないだろうか。清水依与吏は、この主題歌について、「最近ようやくこういう歌が書けるようになった気もしますが、最初からずっとこういう歌しか書いてないような気もしてます。このドラマの中で新しい登場人物と出会ったはずなのに、なんだかもう一度自分と出会ったような、不思議な気持ちになりました」と、公式コメントでも綴っている。思いを言葉や物語にすることの歯がゆさと難しさを知っていて、けれど、それが相手に伝わった時の喜びも知っている──そういう部分で、清水依与吏は、間宮真司に「自分」を重ねたのではないかと思う。

例えば
《一体どこから話せば/君という素敵な生き物の素敵さが/いま2回出た素敵はわざとだからね/どうでもいいか》
という1コーラス目の歌詞。ここは、元小説家である間宮真司だからこそ、《わざとだからね》と、あえて一言断っておきたいというか、言葉への些細なこだわりが現れている部分だ。ここに、とてもさりげなく「間宮真司」という人間が映し出されている。でもそれは、まるで清水依与吏自身の言葉でもあるような気がするし、この部分だけとっても、やはりこのドラマの主題歌はback numberでなければいけなかったのだという必然を感じてしまう。

“オールドファッション”という言葉には、「時代遅れ」という意味があるけれど、どこか「古き良き」というニュアンスも感じる。合理的で賢い生き様ではないかもしれないけれど、自分の気持ちに正直で、誠実で、温かい──そんな素朴なイメージ。それは間宮真司のイメージでもあるけれど、楽曲の終盤には《そんなのどうだっていいの/ドーナツ買って来てよって/君なら ああ そう言うだろうな》という歌詞が出てきて、おそらくここで彼女が買ってきてほしいと言ったのは、シュガーグレイズやホイップで甘さを増したような手の込んだものではなくて、一番素朴な「オールドファッション」なんだろうなとか、ドラマの主人公たちに重ね合わせながら、あれこれ想像を巡らせて聴き込める楽曲でもある。

再びドラマに話を戻すが、実は尚は、この第1話ですでに「若年性アルツハイマー病」に罹患している兆候を見せ始めている。だからこの2人の大恋愛の結末は、どう転んだってきっと切なくて悲しい。それがわかっているからこそ、この回のエンディングで“オールドファッション”が流れ始め、尚が真司の部屋へと駈け出すシーンは、まさにオールドファッションな恋愛ドラマの1シーンのようでありながら、画面越しに観ていて、ものすごく心が揺さぶられたのだ。
「彼女はあの頃からいつも急いでいた。まるで何かに追われるように」という小説の書き出しのようなナレーションも、ドラマみたいな展開も(いや、ドラマなんだけど)、「オールドファッション」であることを厭わない。だからこそ純粋に「愛」を描くことにまっすぐに向き合えている。そのメッセージをback numberの歌とサウンドがしっかりと伝えている。実際にドラマのプロットと台本を読み込んだ上で書き下ろしたというだけあって、この楽曲はもう、ドラマの物語の一部を担っていると言っていい。(杉浦美恵)

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