山村隆太(Vo)、阪井一生(G)、尼川元気(B)、小倉誠司(Dr)の4ピースバンド、
flumpool。元々幼なじみだった山村、阪井、尼川が3人でアコースティックユニットを結成したところに小倉が加入。2007年1月にバンドを結成し、現編成に改めると、翌年10月にデビュー。デビューからわずか1年で日本武道館ワンマン2DAYSを行うなど、猛スピードで人気を拡大していった。この記事ではバンドの代表曲を10曲紹介。ヒット曲を多数世に放ち、傍から見ると華やかな歩みを続けているflumpoolだが、その裏側には、バンドとしての葛藤を重ね、それを乗り越えながら都度メッセージを掴み取ってきた歴史がある。今回選んだ10曲および以下のテキストで語れることはほんの一部ではあるが、このバンドの魅力の片鱗を受け取ってもらえたら嬉しい。(蜂須賀ちなみ)
①花になれ
2008年にダウンロードシングルとしてリリースされたメジャーデビュー曲。au「LISMO!」のCMソングに抜擢され、新人としては異例のヒットとなった。CMで流れていたのは実はBメロだが、イントロにあるストリングスのリフを再登場させるなど、まるでサビのように聴かせる工夫が満載。非常に秀逸な造りをしている。しかし、この曲はagehasprings・百田留衣(プロデューサー/アレンジャーとしてflumpoolの楽曲制作に携わっている人物)の作詞作曲によるもの。オリジナル曲でデビューできなかったことをメンバーは悔しく思っていたらしく、華やかなデビューの裏には葛藤があったようだ。ただ、このバンドにおける葛藤とは必ずしもネガティブな要素ではない。後の歴史がそれを証明している。
②星に願いを
初のCDシングルの表題曲となったこの曲は、インディーズ時代から演奏している曲。ライブで披露されることが多く、ファンからの人気も高い。バンドサウンドによる疾走感を前面に打ち出したアッパーチューンで、サビとイントロで鳴るグロッケンのレとラの音が歌詞にある《夜空のふたつ星》を連想させるようだ。この曲をリリースした2009年には日本武道館2DAYS公演を開催、さらに『第60回NHK紅白歌合戦』に初出場したflumpool。デビュー時に味わった悔しさを踏まえると、バンドが長いこと大切にしてきた曲をヒットさせられたこと、また『紅白』の大舞台でその曲を演奏できたことは、確かな手応えに繋がったのではないだろうか。ちなみにこの次にリリースされたシングルの表題曲“MW 〜Dear Mr. & Ms. ピカレスク〜”は、インディーズ時代の曲のリメイクにあたる。
③reboot 〜あきらめない詩〜
アコースティックギターの音色をきっかけに世界が一気に広がるようなイントロからしてドラマティック。高音域をストリングスに任せ、ギターはあえて低めの音域で鳴らすことにより、立体的なサウンドを実現。黎明を予感させる壮大な曲に仕上がっている。山村は、2010年6月に全国ツアーを終えたあと、ポリープ摘出手術と休養を行い、翌月に復帰をしている。実はポリープの存在はそれ以前から検査で判明していたらしく、休養期間中にリリースされたこの曲には、手術を前にした山村の心境が綴られている。以来、挫けそうになっても何度でも顔を上げるバンドの象徴的存在として輝き続けている曲だ。
④君に届け
少女漫画を原作とした実写映画『君に届け』の主題歌。『君に届け』のヒロインは、自然に笑うことができずに周囲から怖がられているが、人の幸せを一番に願い、心から喜ぶことのできる女の子である。この曲は、そんなヒロインの素敵なところにいち早く気づき、彼女のことを想うようになったクラスメイト・風早翔太の視点で綴られている。映画と同名のタイトルを付けた時点でかなりの勇気が感じられるが、原作を読んで書き下ろしたという歌詞には《来年も 再来年も 今以上に 君が好きで》などストレートな言葉が多く、メンバーも当初は恥ずかしいと思っていたとのこと。しかし、たとえ恥ずかしかろうとも、まっすぐなメッセージを放つことができるという特色はflumpoolのひとつの武器となり、今日に至るまで、彼らの音楽は多くの人を勇気づけている。
⑤証
「第78回NHK全国学校音楽コンクール 中学校の部」の課題曲として書き下ろされた曲。卒業式での合唱曲としても広く親しまれている。リリースは2011年。東日本大震災以前に制作された曲ではあるが、歌詞の言葉選びや温かな曲調も相まって、卒業ソングの範疇を超えた、深い意味を持つ曲になっていった。特にラストのサビ、《“またね”って言葉の儚さ 叶わない約束/いくつ交わしても慣れない/なのに追憶の破片(かけら)を 敷き詰めたノートに/君の居ないページは無い》というフレーズは多くの人の胸に刺さったことだろう。MVには、flumpool初の武道館公演でオープニングアクトを務めた後輩バンド・
WEAVERの杉本雄治(Piano・Vo)がピアノ奏者として出演している。
⑥明日への賛歌
ベストアルバム『The Best 2008-2014「MONUMENT」』に収録。2009年の武道館公演を後から振り返った時にメンバーが「どんなライブだったのかあまり覚えていない」とコメントしているように、スターダムを駆け上がるような日々に実感がついていっていなかったというflumpool。また、付き合いの長さから、かえって4人で正面から意見をぶつけ合うことができずにいた。そんななか、2013年、2度目の武道館公演のあとには、曲作りが上手くいかなくなったり、メンバー同士で衝突することもあったりしたようだが、そんな状況を経て「もう一度この4人で夢を見たい」と思うようになった。“明日への賛歌”はそういったバンドの内情、4人の関係性を色濃く反映した曲だ。flumpoolを赤裸々な表現に導いた、ターニングポイントにあたる曲と言ってもよい。《僕を 縛り付けてよ もう逃げられないように》というフレーズは今聴くとやや強がっているようにも聴こえるが、バンドとしての覚悟が表れている。ミディアムテンポで一歩一歩を踏みしめるようなサウンドが、ラストのコーラス部分で大団円を迎える様子は感動的だ。
⑦夜は眠れるかい?
漫画『亜人』の劇場版 第1部「衝動」主題曲およびTVアニメシリーズ第1クールのオープニング曲。重心の低いハードロックサウンドが特徴的な、flumpoolのなかでもエッジの効いた部類の曲だ。ここまで紹介した曲と聴き比べると分かるように、“夜は眠れるかい?”は従来のflumpoolのパブリックイメージを大きく覆すこととなった。そのような曲を制作した理由は、主題歌制作にあたり「flumpoolだと思われないような曲を作らなきゃいけない」、「それぐらい振り切らないと『亜人』にハマらない」と思ったから、とのこと。『亜人』の主人公は、交通事故をきっかけに、自分が不死身の新生物・亜人であることに気づいた少年。サビで繰り返される《眠りたい》という言葉は、不死身であるがゆえに過酷な運命に巻き込まれることとなった少年の「死にたい」という願いを表現しているようで、終わらない苦痛のなかでのたうち回るようなボーカルは生々しく感じられる。
⑧ラストコール
力強いドラムのリズムと流麗なストリングスのメロディが好対照なこの曲は、映画『サクラダリセット』の主題歌。記憶保持能力を持つ高校生を主人公とする『サクラダリセット』の物語にバンドの歩みが共鳴したのだろう。映画のために書き下ろした曲ではあるが、かなり核心的なことが歌われているように思う。人は、叶わなかった夢や願いに合わせて進路を曲げ、自らを納得させてからまた歩を進める生き物で、しかしその内側には美化できないままの記憶と感情=「後悔」を抱えている。我々と同じように、flumpoolというバンドもそういう強さと儚さの両方を持ったバンドである。この曲を表題曲とした2017年リリースのシングルは、そんな彼らだからこそ鳴らせる曲ばかりが収録されているので、ぜひチェックしてみてほしい。
⑨とうとい
2017年12月のライブ終了後、山村が歌唱時機能性発声障害であることが判明、治療に専念するために活動休止を発表したflumpool。同月末にリリースされた“とうとい”は、活動休止の直前までやっていた全国ツアーで演奏されていた当時の新曲。全国各地でオーディエンスと向き合うなかで歌詞が変容していったらしく、つまりファンの存在によって初めて完成を迎えたのだ。休止前ラストライブとなった横浜公演でこの曲を演奏する際、山村は「この9年間いろいろなことがあったけど、この胸の中でずっと鳴り響いていた言葉があります」と言っていたが、それはおそらくサビにある《ありがとう》だろう。先述のような事情があったため、デビュー10周年に当たる2018年にflumpoolは表立った活動をすることができなかったが、
この曲の存在が、バンドとファンの心を繋げた。なお、バンドはその後、
2019年1月より活動を再開した。
⑩HELP
活動再開後、初のリリースとなったシングルの表題曲。シンセで作ったというキラキラとした音色は陽光のようだし、タムによるどっしりとしたリズムは母なる大地を、バンドサウンドやボーカル&コーラスの歌声は人間の叫びを連想させる。生命や自然による何か根源的なエネルギーを感じさせる、
不思議な魅力のある曲だ。全編屋久島で撮影したというMVもマッチしている。歌詞には山村が発声障害になった際の葛藤――もっと言うと、周囲の人に迷惑をかけまいと背伸びしていた頃の苦しみ――が赤裸々に綴られている。「ボーカリストなのに歌うことができない」という事態の大変さを容易に推し量ることはできないが、その経験があったからこそ「あなたにも助けを求める勇気を持ってほしい」というメッセージを掴めたということは確かだ。バンドの強い意志とリスナーを想うやさしさがここに一体となっている。