flumpool、活動休止前からリリースが決まっていた新シングル『とうとい』が教えてくれること

flumpool、活動休止前からリリースが決まっていた新シングル『とうとい』が教えてくれること - 『とうとい』 通常盤『とうとい』 通常盤
12月26日、flumpoolのニューシングル『とうとい』がリリースされた。flumpoolは現在、山村隆太(Vo)の歌唱時機能性発声障害を受け、活動休止中。12月6日に発表された突然の報せに大きなショックを受けた人も多いことだろう。しかし、活動休止前からリリースが決まっていた今回のシングルが伝えてくれるのは、デビュー10周年目前の彼らが、前のめりな気持ちでバンドに臨んでいたのだということだった。

そのことがよく表われているのが、カップリング曲“To be continued...”、“WINNER”だ。《似合ってないからって 一刀両断された/育つ前に 摘まれた新芽》、《引き出しの古いメダル》など生々しい言葉も織り交ぜながらも、共通して歌われているのは、まだ諦められない夢があるんだということ。そして、その存在が自分たちを未来へと駆り立てているのだということ。そもそも最新のツアーが「Re:image」と名付けられていたのも、「イメージし直す」、「未来をやり直す」という意味を踏まえてのことである。

しかしリード曲に選ばれたのは、ツアーのために生まれた曲であり、全国各地でオーディエンスと向き合う中で歌詞が変容していったという“とうとい”だった。抑制の効いたサウンドは、柔らかなボーカルとその横を一緒に歩くようなスネアのリズムを軸に展開していき、まるで灯りがともるように楽器の音色が徐々に増えていく。聴き手と呼吸を共にする、ミディアムテンポの穏やかな一曲だ。休止前最後のライブとなったパシフィコ横浜公演でこの曲を演奏する直前、山村は「この9年間いろいろなことがあったけど、この胸の中でずっと鳴り響いていた言葉があります」というふうに話していた。その言葉が何なのか明言されることはなかったけど、それはおそらく、あの日のライブ中に何度も言っていた、そしてこの曲の歌詞にも何度も登場する「ありがとう」の5文字のことかと思われる。


最初に書いたように、10周年を目前にしたflumpoolは確かに前を向いていた。しかし“To be continued...”や“WINNER”ではなく、“とうとい”をリード曲に据えたのはきっと、自らのバンドとしての意欲よりもまず先に、この9年間を共にしたファンに感謝を伝えたかったからなのだろう。窮地の場面ですら相手のことを気に掛ける人なのかと驚いたからよく憶えているのだが、声が思うように出なくなった時、山村はオーディエンスに「みんな、優しすぎるよ。きっと今日だけじゃなくて、いつもいろんな人に優しくしてるんでしょ?」と語りかけていた。このシングルから滲み出ているのは、そういう彼らの地の部分だ。

時にはぶつかりあいながらも、ここ1、2年でバンドとしての団結感をますます高めてきたflumpool。20年以上にわたって一緒にいるからこそのメンバー同士の絆も、拭えない後悔もそのまま曝け出しながら、9年間歌い続けてきた「それも含めて人生ならば前を向いて歩いていこう」というメッセージへと昇華していく戦い方は、このバンドをどんどん生身にさせていった。そんな彼らのことだからきっと、復活後はさらにすごいことになるはず――というふうに、今回届いたシングルは、待つことしかできない私たちの心を軽くしてくれるようなものである。何度目のことかもう分からないけど、結局はまた、聴き手を想う彼らの温かさを受け取ってしまう結果になってしまったのだと気づいて、何だか少し笑ってしまった。だから今は、ただ静かに快復を願っていたい。そしてまた再会できた日には、こちら側からの「ありがとう」を届ければいいのだから。(蜂須賀ちなみ)
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