①キリキリマイ
2003年6月にリリースされた記念すべきメジャーデビューシングルのタイトル曲。前年の2月にインディーズレーベルからリリースされたミニアルバム『オレンジボール』にも収録されているが、歌詞の一部が変更されている。ORANGE RANGEのルーツのひとつとして非常に大きいのがミクスチャーロックであり、メンバーたちは学生時代に山嵐などのコピーもしていた。そのような背景が自然な形で反映されているのが、この曲だ。YAMATO=高音域、HIROKI=中音域、RYO=低音域という、その後も大きな持ち味となる歌の役割分担、コンビネーションが、この時点で既にかなり確立されている。3人が客席に対して背を向けて歌い始めて、最初のサビに突入した時にジャンプしてクルリと振り返る――というのは、ライブでの恒例パフォーマンス。メジャーデビュー直後のライブ(たしかSHIBUYA BOXXだったと思う)で、曲が始まる直前の待機中にYAMATOが密かにオナラをして、近くにいたHIROKIとRYOが動揺しつつも動かないように一生懸命我慢した……という心温まるエピソードを聞いたことがある。②上海ハニー
メジャーデビューシングル『キリキリマイ』のセールスは、実はそれほど華々しいものではなかったが、2003年7月にリリースされた2ndシングルのタイトル曲“上海ハニー”の大ヒットにより、ORANGE RANGEは、一躍人気ロックバンドの仲間入りをした。彼らにとって、最大のターニングポイントとなったのがこの曲だということに異論を唱える人は、おそらくいないと思う。ハードで骨太だった“キリキリマイ”とは趣きが大きく異なり、いたずらっ子感が漂うサウンドと歌詞である点が、リリースされた当時、とても眩しく感じられた。この曲の魅力をザックリと表現するならば、「絶妙なスケベ感」ということになるだろうか。具体的にワードをピックアップして説明すると野暮になるのでやめておくが、「これって実はこういう意味でしょ? ほんとエッチなんだから!」と言いたくなるダブルミーニングを、誰でも容易にたくさん発見することができるはずだ。そして、センス抜群のエッチ路線は、その後もORANGE RANGEの強力な武器となり続ける。③ロコローション
“上海ハニー”の大ヒットによってサマーチューンのイメージが定着したORANGE RANGEが、その翌年の6月にシングルでリリースしたのが“ロコローション”。エッチな悪ガキ感が、ますます洗練されている。タイトルの時点で、どう考えても少なからずエッチな曲であることが、誰にでも想像できるだろう。そして、歌詞自体もなかなかエッチな内容であることは言うまでもない。しかし、エッチではあるのだが、どうやら女の子にアプローチをするのがあまり得意ではなさそうで何度も空振りをしながら妄想ばかりを募らせている男の子を曲中で想起させるところが、とても素敵なところだ。当時のORANGE RANGEが女性だけでなく男性、特に中高生の男子からも圧倒的な支持を集めたのは、こういう部分が共感を呼んだというのもあるのだと思う。そして、この曲はサウンド面の魅力も絶大だ。シンガロングを誘うメロディ、手拍子をして踊りたくなるリズムが、文句なしに楽しい。彼らが幅広い層をライブで楽しませるバンドへと急成長していくうえでも、この曲の存在は非常に大きかった。④花
メジャーデビュー後、数年間のORANGE RANGEのシングルは、彼らが持っている幅広い魅力を、バランス良く世に示す形でリリースが重ねられていたことが、今改めて振り返ってみると窺われる。“キリキリマイ”、“ビバ★ロック”、“チェスト”などに代表される骨太なミクスチャーロック。“上海ハニー”、“ロコローション”などに代表される明るいパーティーチューン。そして、もうひとつ大きかったのが、胸に沁みるバラードだ。“落陽”や“ミチシルベ ~a road home~”も紹介したかったが、ここでは2004年にリリースされたシングルのタイトル曲、映画『いま、会いにゆきます』主題歌、オリコンシングルチャート1位に輝いた“花”を選んだ。“ロコローション”や“上海ハニー”などしか知らない人は驚くのかもしれないが、ORANGE RANGEは詩情に溢れているバンドでもある。「花」というモチーフに託して、有限の人生、流れゆく時間、深い愛情を描いているこの曲は、リスナーの心を震わせて止まない。今後も大きな支持を集め続けるだろう。⑤以心電信
2004年12月にリリースされたアルバム『musiQ』に収録。au by KDDIのCMソングとなった。ORANGE RANGEのサウンド面の中心人物であるNAOTOのルーツとして非常に大きいのは電気グルーヴだが、そういう背景が自然且つキャッチーな形で結実している。所謂「ピコピコ」というシンセサイザーのフレーズが、とても心地よい。YELLOW MAGIC ORCHESTRA(YMO)のオマージュであるのだと思われる“以心電信”というタイトルからも、NAOTOのテクノ、テクノポップへの深い愛情が窺われる。ORANGE RANGEに実は少なからず反映されている電気グルーヴの香りを歌詞の面でも感じることができるというのは、熱心なファンならば感じ取っていることではないだろうか? 例えば、インディーズ時代の“ベロシティー”、シングル『ビバ★ロック』のカップリング曲“ベロシティー3000”の中で登場する《工場勤めのテコンドファイター》という奇天烈な表現は、電気グルーヴの遺伝子を何処となく示している。そういう点にも着目してORANGE RANGEの曲を聴くと、より楽しくなるので、興味がある人には電気グルーヴもオススメしておきたい。⑥*~アスタリスク~
2005年2月にリリースされたシングルのタイトル曲。テレビ東京系アニメ『BLEACH』初代オープニングテーマとして記憶している人も多いだろう。サマーチューンの印象が強いORANGE RANGEの中で、冬を想起させるという点でも“*~アスタリスク~”の存在感は、とても大きい。清々しく疾走するサウンド、人力バンド演奏のエモーショナルな躍動感、印象的なフレーズを高鳴らせるシンセサイザー、胸に深く沁みるメロディという点で、ORANGE RANGEがここに至るまでの日々で磨き上げてきた持ち味を最大限に注ぎ込んだ曲と位置付けることもできるだろう。リリースされてから10年以上経つが、今改めて聴いても非常に素晴らしい仕上がりだ。タイトルで使用されている記号のアスタリスク=*は、この曲の歌詞が冬の星空を描いていることに由来する。たくさんの出会いと別れが繰り返される人生、広がり続ける理想、精一杯に生きる姿勢を《見上げた夜空の星達の光》というフレーズに託して描いているところが、実に美しい。⑦イケナイ太陽
4月にリリースされた“イカSUMMER”が、2007年のORANGE RANGEを代表するサマーチューンになるのかと思いきや、7月にリリースされたシングルのタイトル曲、テレビドラマ『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』のオープニング曲“イケナイ太陽”も、この年の夏を賑やかに彩ってくれた。十八番であるエッチ路線が、一気に大人っぽい雰囲気を帯びるようになっているのが目を引く。夏の日差しが加速する男女の駆け引き、燃え盛る下心、艶めかしい衝動が、どこかやるせないサウンドによって鮮やかに浮き彫りにされている曲だ。かなりエッチではあるが、聴き終えた時に心に残るのは、なかなかピュアな愛情である点も味わい深い。そして、彼らの真骨頂とも言うべき不敵な言葉遊びも炸裂している。「ほんとエッチなんだから!」と突っ込まざるを得ないダブルミーニングは、この曲の歌詞でもたくさん発見できてしまう。タイトルにもエッチな意味が含まれていると解釈せざるを得ないだろう……。シングルのCDジャケットを飾ったアートワークも「いいかげんにしなさい!」と叱りたくなるくらい秀逸だ。⑧サディスティックサマー
ORANGE RANGEは、所属していたメジャーレーベルを離れて、2010年7月に自主レーベル「SUPER ((ECHO)) LABEL」を立ち上げた。このレーベルは、2012年1月からJVCケンウッド・ビクターエンタテインメント「SPEEDSTAR RECORDS」との提携を開始。この頃、対バンも含めたライブをたくさん重ねていて、音楽フェスでも存在感を猛烈に発揮していたことが思い出される。「元気なお兄ちゃんたち」という印象がもともと強かったORANGE RANGEが、「たしかな実力を持ったロックバンド」であることを、貫禄たっぷりの活動を通して示していたのが、この時期だと言えよう。CDデビュー10周年でもあった2012年は、4月に全曲が打ち込みサウンドのアルバム『NEO POP STANDARD』をリリース。その余韻もまだ残る7月に配信リリースされたのが“サディスティックサマー”であった。リラックスしたムードのバンドサウンドに彩られながら、シンセサイザーの音色がとても心地よく迫ってくる。特に間奏が美しい。耳を傾けていると、柔らかな質感のワクワクが胸の内で湧き起こる。ORANGE RANGEにとって、シンセサイザーが重要な要素のひとつであることを再確認できる曲だ。