DJハヤシ Opening Act:POLYSICS @ 渋谷クラブクアトロ

『結成15周年特別企画 DJハヤシツアー!!! Opening Act:POLYSICS』

“Heavy POLYSICK”が鳴り響くとともにステージに躍り出るPOLYSICSと、フロアを埋め尽くして煽り立てながら3人を迎え撃つオーディエンス。バンドもファンも驚異的な瞬発力で沸点に到達する、安定感と呼ぶには余りにもヴォルテージの高いライヴが、今回も繰り広げられていった。序盤から“United”、“XCT”というヤバい流れを生み出し、曲間には誰からともなく、堪え切れない、とばかりに笑い声が響く。ハヤシによるTOISUコールからの挨拶では、12/5リリースのアルバム『Weeeeeeeeee!!!』の告知とともに、2013年1月から15周年イヤーを締め括る全国ツアーが決定したことも発表される。そしてオートチューン・ヴォーカルを駆使したニュー・シングル曲“Everybody Say No”を披露し、“ムチとホース”のフロア一面のタオル回し、“シーラカンス イズ アンドロイド”の盛大なシンガロング、止まらないモッシュと、短い時間にありとあらゆる高揚の瞬間が詰め込まれたステージになった。

説明が前後したが、この度4都市をツアーして回ったのはDJハヤシ。ポリはそれに帯同するオープニング・アクトという役回りであり、「ハヤシさん、呼んでくださってありがとうございます。あ、間違えた。ありがTOISU!」という振りに、フミは「なにその小芝居。15周年なんだから、長くやろうよ!」と突っ込んでいた。ごもっとも。大根のツマが皿の4分の3ぐらいを占める刺身盛り合わせというか、みんな実は大根のツマが大好きというか、そういう企画なのである。ポリのライヴが終わるなり自らCDJを運び出し、ツナギを着たままバイザーを眼鏡にチェンジ、「恐らく日本で最もDJブースに収まっている時間が短い男」=DJハヤシのパフォーマンスがスタートする。

さて、困った。DJハヤシのパフォーマンス、ひたすら笑いっぱなしの時間であることは間違いないのだが、パフォーマンスの様子を文章で描写したところで、その楽しさの半分も伝わらないことが目に見えている。まず、改めて説明しておくと、DJハヤシ(もしくはハヤシヒロユキ名義)のパフォーマンスというのは、ROCK IN JAPAN を初めとするフェスやイヴェントで話題を呼ぶようになり、今や名物企画として多くのファンに愛されているアクトだ。そこで描き出されるのは、ハヤシが過去の名曲群に注ぎ込む偏執狂的なまでの愛であり、具体的にはカラオケ(ですらないな。歌入りのトラックにハヤシ自らが熱唱を被せる)であったり、エア・ギターどころかエア・1人Xであったりエア・1人東京スカパラダイスオーケストラであったりするという、基本的には「家でやれ」レヴェルであるはずの行為が爆笑モノのパフォーマンスにまで昇華されたDJ芸なのである。

さっそくユニコーンや筋肉少女帯で歌詞と演奏に体ごとのめり込んでゆくハヤシ。この「入り込みっぷり」にはつくづく感服させられるわけだが、決して一人遊びには終始せず、“踊るダメ人間”のダメ・ジャンプにも見られるインタラクティヴなエンターテインメントとして一貫しているところが更に素晴らしい。ポリ初期にカヴァーしていたヒカシュー“パイク”のリミックスをプレイする合間にはディーヴォTシャツに着替え、おもむろに取り出した風船でウサギやプードルを作り上げるといったバルーン・アートも披露する。スカパラ曲にはブブゼラを持ち込み、ピンク・レディー“サウスポー”をスピンするときには振り付けのモノマネとかではなく、テクニカルなエア・マリンバをひたすら叩き続けている。そんなDJが、ハヤシの他にいるだろうか。

文末に掲載したセット・リストにX(後のX JAPAN)の“オルガスム”が2回続けてあるのは、ヤノが1度目はステージ上手で、2度目はステージ下手で、振り付けにゲスト参加していたから。ハヤシがコーラ(500mlペットボトル)を一気飲みしてゲップをせずに“電気ビリビリ”を、続けてヘリウムガスを吸入しまったく声を変えずに“2億4千万の瞳”を歌うというトライアルは完全に失敗していたが、もちろん失敗した方がおもしろい。ティッシュでこよりを作ってくしゃみを放ったところにスピンされる“ハクション大魔王の歌”から“夢見る少女じゃいられない”にかけては、私服のフミもノリノリでエア・ヴォーカルを担当。笑ってしまうぐらい可愛い。“ハイスクールララバイ”はポリ3人がかりで、オーディエンスからヤノに浴びせかけられる「マサシー!!」の間の手が手慣れている。“あずさ2号”はハヤシがライフルを、ヤノがイノシシ(うりぼう)を担いだ姿でのデュエットだが、これは狩人だからというベタなネタだろう。

クライマックスは定番のミスチル曲だ。結局は、もの凄い盛り上がりで接待されているカラオケみたいな光景なのだが、DJハヤシのスキルをもってしなければこのクライマックスには辿り着けない。「なんか、わけわかんなくて楽しいよね! もし機会があったらまたやろう。これからもPOLYSICSをよろしく!」とハヤシは告げていた。ミックス技術/ターンテーブル技術の優劣や、マニアックで優れた音源の採掘といった価値観とはまったく異なるけれども、他人が作ったレコードをプレイし、確実に聴衆を楽しませるというディスク・ジョッキー本来の役割において、ハヤシは間違いなく優れたDJである。というか、DJというアート・フォーム/職業の発展そのものが、そういう常識はずれな発想の連鎖に支えられているわけで、常識はずれだからオーディエンスとしては楽しいし、ライターとしては困る。ロック・バンドについても同じだ。

ただ、脚立を持ち出してきて、「鉄塔の上に座って黄昏の街を見つめるデビルマン」を再現するオチだけは、吹き出した人から順に世代が割れるトラップなので、勘弁して欲しい。会場に入るときに関係者受付で今回のセット・リストを頂いたのだが、これがポリではなくDJハヤシのもので、DJのセット・リストを貰ったのは生まれて初めてのことだった。POLYSICSは大晦日に『COUNTDOWN JAPAN 12/13』への出演を予定しているほか、先にも触れたように1月から『POLYSICS JAPAN TOUR OR DIE!!! 2013「15周年イヤーが終わっちゃう!イヤー!!!」』を控えているので、ぜひチェックを。(小池宏和)


セット・リスト

■POLYSICS
01: Heavy POLYSICK
02: Cough Cough
03: Kaja Kaja Goo
04: United
05: XCT
06: Everybody Say No
07: ワトソン
08: ムチとホース
09: シーラカンス イズ アンドロイド
10: Hot Stuff
11: Buggie Technica

■DJハヤシ
01: Batman Theme
02: Maybe Blue (ユニコーン)
03: 大迷惑 (ユニコーン)
04: 日本印度化計画 (筋肉少女帯)
05: 踊るダメ人間 (筋肉少女帯)
06: 恋のTKO (すかんち)
07: パイク (Remix) (ヒカシュー)
08: 恋をしようよ (THE ROOSTERS)
09: 歯が抜ける (カステラ) 
10: MONSTER ROCK (東京スカパラダイスオーケストラ)
11: サウスポー (ピンク・レディー)
12: オルガスム (X)
13: オルガスム (X)
14: 風になりたい (THE BOOM)
15: 電気ビリビリ (電気グルーヴ)
16: 2億4千万の瞳 (郷ひろみ)
17: ハクション大魔王の歌 (嶋崎由理)
18: 夢見る少女じゃいられない (相川七瀬)
19: ハイスクールララバイ (イモ欽トリオ)
20: あずさ2号 (狩人)
21: 君は天然色 (大瀧詠一)
22: シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌~ (Mr.Children)
23: 今日もどこかでデビルマン (十田敬三)