「日本初にして最大のEDM系NEW YEAR’S DANCE MUSIC FESTIVAL」を標榜する『electrox』、遂に開催である。1月3日及び5日には、大阪Zepp Nambaでクラブ・サイズのパーティとしても行われる。幕張公演では、日中から夜にかけての丸一日開催であること(屋内とは言え冬期の気候を考えると、これには助けられる部分も大きかったはず)、大小4つのステージによるフェスらしい空間の提供、何よりも初開催にしてこれ以上は望めない、というビッグ・ネーム・アクトの共演と、ハード/ソフト面それぞれの運営方針が活かされ、新年早々の華やかなパーティとして盛り上がりを見せた。
さて、ステージは最大キャパのelectrox STAGE、次いでSONIC BEATS STAGEとSUNRISE STAGEは同サイズ、舞台の規模は小さいがベンチ/テーブルの設けられた広大な休憩スペースに向けてオープンな形のIBIZA STAGE(セクシーな女性ダンサーたちも目を楽しませてくれる)と4つのステージが稼働する中、序盤はオープニング・アクトのDJ WILDPATYとDJ BABY-T、そしてYAMATOやCTSら、気鋭の邦人アクトが次々に登場。シャンデリアのような形状のものから大きな筒状のものまで、いくつものLEDスクリーンが宙吊りにされた眩いelectrox STAGEのフロアには大量のレーザーが飛び交い、ここにトップ出演を果たしたDAISHI DANCE は、ゼッドの“ステイ・ザ・ナイト・フィーチャリング・ヘイリー・ウィリアムス”でロマンチックにDJプレイを締め括る。彼は後にIBIZA STAGEでもプレイするというダブルヘッダー出演であった。
EDMパーティとはいえ、ライヴ・アクトが数多く出演してロック耳を楽しませてくれたのはSUNRISE STAGEだ。フィーチャリング・ヴォーカリストとしてティエストやスティーヴ・アオキらともコラボしてきた、カナダの女性シンガー/ラッパー=ケイ(KAY)は、ソロ・デビュー・アルバムを発表したばかり。何とも楽しそうにパフォーマンスする姿と、多様なトラックを乗りこなすヴォーカル・スキルが光る。オランダのハーグ出身であるブラスタージャックス(BLASTERJAXX)は、ヘヴィなビートにニルヴァーナからアヴィーチーまで大ネタを次々にミックスしてくれて気持ちいい。一方、オーストラリア出身、現在はLAに活動拠点を置くトミー・トラッシュ(TOMMY TRASH)は、振り乱す長髪から汗の飛沫を撒き散らす前のめりなプレイ。この一日を通して、昨年の解散を惜しむようにスウェディッシュ・ハウス・マフィアがプレイされる機会が多かったけれども、彼も“イン・マイ・マインド・フィーチャリング・ゲオルギ・ケイ”で歓声を誘っていた。
同じ“イン・マイ・マインド・フィーチャリング・ゲオルギ・ケイ”にしても、カリフォルニアはオレンジ・カウンティ出身のショーグン(SHOGUN)ことアンドリュー・チェンによるセンチメンタルで情感豊かなプレイにかかれば、全く異なる手応えを残すのが面白い。UK出身にしてマイアミ・パーティ・サウンドの陽性ヴァイブを振り撒くKRYOMAN、フライング気味のスタートでエモーショナルなサウンドをぶっ放すオランダのレイドバック・ルーク(LAIDBACK LUKE)と急ぎ足で移動し、キャピタル・シティーズはこの顔ぶれの中で異彩を放ちつつも5ピース編成のパフォーマンスが素晴らしいので、じっくりと楽しむ。トランペットとドラムスのサポートがとりわけ強力なファンク・グルーヴで“カンガルー・コート”から滑り出し、セブは「みんな踊りたいのかい? Shall we?」とスピン&サイドステップの振り付きダンスへと誘ってくれる。一方、ライアンは「1978年に戻ろうか!」と告げてビー・ジーズのディスコ・クラシック・カヴァー“ステイン・アライヴ”に繋いで楽しませてくれる。1/6には恵比寿リキッドルームで、1/7には梅田クラブクアトロで、それぞれ単独公演も行われる。
トロント発のデュオであるゼッズ・デッド(ZEDS DEAD)は、堅いハンマー・ビートのブレイクスとベンドしまくるサウンドを振り回すDJ。時刻は既に17時を回り、更に来場者が増加したところでそれを迎え撃つのはパーティ馬鹿一代スティーヴ・アオキ(STEVE AOKI)だ。Steve Aoki & Rune RK名義の新曲“Bring You To Life (Transcend) feat. RAS”でオーディエンスを歓喜の渦に叩き込むと、下着にド派手な振り袖みたいな衣装を羽織ったダンサーをはべらせ、おなじみ「CAKE ME」のメッセージ・ボードを掲げたオーディエンス目がけDIM MAK印の巨大ケーキを投げつける。プレイもそこそこにDJ卓の上に乗り上がったり、走り回ってアオキ・ジャンプを煽ったりしているばかりなのだが、そのアゲっぷりはやはり凄まじいものがあった。
1/6には渋谷のduo MUSIC EXCHANGE公演も予定されている、ロンドンの4人組バンド=モードステップ(MODESTEP)も楽しみにしていたアクトのひとつ。ジョシュによる迫力の歌声とスクリーム、そしてギター・ソロやドラム・ソロまで盛り込まれるロック色の強いパフォーマンスを展開。マッシヴな人力ダブステップに、オーディエンスが激しいステップで跳ね回る。ペンデュラムのバンド・セットみたいな盛り上がり方と言えば近いだろうか。そこから日本のBOOM BOOM SATELLITESへと連なるタイムテーブルには、なるほど、と唸らされた。“Moment I Count”→“MORNING AFTER”というダンス・イヴェント対応型のオープニングで、そこから“BROKEN MIRROR”に繋ぐという、鮮やかな切り口の見せ方だ。そして、ことDJプレイという点では技術面で抜きん出ていたのが、元スウェディッシュ・ハウス・マフィアのスティーヴ・アンジェロ(Steve Angello)。ねばりのあるグルーヴを練り上げ、ミキサーを奏でるようにして抑揚を生み出してくれる。火柱が吹き上がる演出や、SHM曲は当然の盛り上がりだが、ジャスティスVSシミアン“ウィア・アー・ユア・フレンズ”の一幕は実に感動的だった。
SONIC BEAT STAGEのトリとしてダブステップの底力をまざまざと見せつけたのは、ネロ(NERO)だ。DJブースを覆い尽くすような大型LEDスクリーンのVJとシンクロしながら、ときに女性の生ヴォーカルも交え、鋭利にして扇動的なトラックを畳み掛けていった。SUNRISE STAGEのトリはm-floのDJセット。VERBALはもちろんフリースタイルのラップで煽り、モノトーンのチェック柄衣装に身を包んだダンサー達もクライマックス感を増幅させてくれる。そしてelectrox STAGEの大トリは、LMFAOの片割れにしてベリー・ゴーディ(モータウン)の血筋であるレッドフー(Redfoo & The La FreaK Crew)だ。日の丸鉢巻きを締めたレッドフーは早々にブースを飛び出してマイクを握り、ダンス・チームとドリンクのボトルを呷りながら最後の乱痴気騒ぎへと突入。でも、よくよく観ればダンス・チームはキレの良いブレイキングなども披露していてなかなか見事だ。こういうタレントがパーティをリードするところに、米EDMシーンの隆盛があるのだと改めて思い知らされた。
今回の『electrox』で最も驚いたのは、思いのほか客層の幅が広いことだった。EDMのキャッチーな魅力は、まだまだ日本のダンス・シーンの潜在的な可能性(ハコの問題もそうだし、アーティストやリスナー/オーディエンスの絶対数にしてもそう)を引き出してくれるはずだ。アーティスト一組あたりの持ち時間が極めて限られていた(特にDJプレイが短いのは、踊る側からすると不完全燃焼に繋がる恐れもある)点は少し気になったが、EDM括りとはいえ多彩な表現スタイルに触れることもできた。ぜひ第2回も開催してもらえればと願う。(小池宏和)
electrox @ 幕張メッセ
2014.01.04