祝!ビートルズ・レコード・コレクション発売。180g重量盤の『アビイ・ロード』を聴いてみた!

祝!ビートルズ・レコード・コレクション発売。180g重量盤の『アビイ・ロード』を聴いてみた!
リリース順でいうと『レット・イット・ビー』がザ・ビートルズの最後のアルバムとなっているが、制作順ではこの『アビイ・ロード』が実質的な最後のアルバムである。『レット・イット・ビー』制作を通して、もはや今後の活動が見込めなくなったことを実感したバンドが、文字通り有終の美を飾るために制作した作品だ。後にも先にもこれほどの解散アルバムはほかにないし、ビートルズの底知れないクリエイティビティとバンド・パフォーマンスをみせつける作品となっている。

また、本作はビートルズが全曲で8トラックのレコーダーとコンソールを使って制作した初のアルバムで、サウンドの完成度の高さはこれまでの傑作群と較べても一線を画している。エンジニアは常連のジェフ・エメリックのほか、その後ピンク・フロイドの『狂気』などを手がけるアラン・パーソンズがアシスタントを務めていて、ある意味70年代ロック・サウンドに先鞭をつけた作品という意味でも画期的だ。全体的に柔らかいサウンドに仕上がっているので、アナログとしてビートルズの素晴らしさを堪能するには最適な作品でもある。

さらにこうしたサウンド環境の進化によって最も大きな変化となったのが、リンゴ・スターのドラムが前面へ押し出されたことだ。最後のアルバムにしてようやくそのサウンドの要が確かめられるようになったのだ。リンゴのドラムは、たとえばビーチサンダルで歩いている時の、ぺたっぺたっと足音が張り付いてくるような感覚がどこまでも気持ちよく、そのドラムの極意はやはりアナログでこそ一番堪能できる。
ビートルズのレコード・コレクション第1弾として『アビイ・ロード』がデアゴスティーニからリリースされるのを機に、この歴史的名盤を1曲ずつ解説したい。

文=高見展

1. COME TOGETHER / カム・トゥゲザー

ジョン・レノンによる楽曲で、サウンドがあまりにも象徴的なオープナー。この曲はその後、チャック・ベリーの"ユー・キャント・キャッチ・ミー"の歌詞とフレーズの一部に酷似しているとして訴訟を起こされるが、確かに冒頭の歌詞やほかの歌詞のフレージングも"ユー・キャント・キャッチ・ミー"を意識したものになっている。しかし、この異常なまでにゆったりとしたテンポとポール・マッカートニーのグルーブ一点張りのベース・リフ、そしてそれを追いかけるリンゴのトム・トム演奏とあいまって、唯一無二のサウンドを誇る楽曲になっている。ビートルズが生んだケミストリーの最たるトラックでもあるし、アナログとしての迫力も申し分ない。

2. SOMETHING / サムシング

ジョージ・ハリスンの楽曲で、"カム・トゥゲザー"とのカップリング(両A面)でシングルとしてリリース。ビートルズ史上初のジョージのシングルA面曲となり、アメリカではチャート1位の快挙を成し遂げた。ポールはジョージが書いた最高傑作と評し、ジョンは『アビイ・ロード』の楽曲の中で最高峰と称賛し、その後のジョージのファースト・ソロ・アルバム『オール・シングス・マスト・パス』に向けての大きな自信となった。さらにバンド・パフォーマンス、ジョージ・マーティンによるストリングス・アレンジ、そしてジョージのギター・ソロなどどれも素晴らしい珠玉の名トラック。この完璧なサウンドこそアナログで聴いてほしい。

3. MAXWELL'S SILVER HAMMER / マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー

ポール・マッカートニーの楽曲で、彼が得意とする大衆演芸寄りのポップ・ナンバー。構成やアレンジが凝っていて重労働になったのでほかのメンバーからはおしなべて不評だったが、出来上がりは一分の隙のない、ビートルズのプロ根性をみせつけるトラックとなっている。ジョンやジョージはポールの年寄り受けする部類の曲として嫌っていたが、リンゴはこういう曲がないと、みんなに分け隔てなくアルバムを聴いてもらえないものなんだと説明している。

4. OH! DARLING / オー!ダーリン

ニュー・オーリンズR&Bをよりロックンロール的に展開したポールによるバラード曲で、恋人に捨てられようとしている男の心情をポールが迫力で歌い倒す。バンドによる厚みのあるパフォーマンスとコーラスも素晴らしく、ビートルズの凄さをつくづく思い知らされる曲。さらにこの曲中の男の心境は、さっさとビートルズを終わらせて次に行きたがっているジョンへのポールの気持ちも映し出されていて、とても切ない。ジョンはこの曲のボーカルはむしろ自分のスタイルに向いていたので歌わせてもらいたかったと後に語っているが、ポールとしてはこの曲は譲るわけにはいかなかったのだ。

5. OCTOPUS'S GARDEN / オクトパス・ガーデン

ビートルズのスタジオ・アルバムでは恒例のリンゴのボーカル曲で、リンゴにとっては2作目となるオリジナル曲。ビートルズ内の不和を嫌って1968年に休暇を取った地中海で書いたナンバーで、蛸は綺麗な石を集めては海底で庭にしていくという言い伝えからヒントを得て、自分もそんな場所に行きたいと歌う。ジョージが作曲を助け、メンバー全員で演奏トラックを制作している。

6. I WANT YOU (SHE'S SO HEAVY) / アイ・ウォント・ユー

ジョンによる曲で、ブルース的なジャム・セッションとともに「I Want You」と歌詞が繰り返されるセクションと、ギターの強烈なアルペジオを重厚に強調するバンド・アンサンブルとともに「She’s So Heavy」というコーラスが叩きつけられるというセクションによる構成の楽曲で、ジョンのエキセントリックなインスピレーションとともにオノ・ヨーコへの愛が叫び上げられるトラック。この厚みもまた、アナログだと息苦しいほどにまとわりついてくる迫力がある。

7. HERE COMES THE SUN / ヒア・カムズ・ザ・サン

ジョージの書いた曲で"サムシング"と並んで人気の高い名曲。アコースティック・ギターのイントロからシンセやエレクトリック・ギターへと音が広がっていき、やがてはオーケストラともミックスしていく展開は、今聴いてもなお新鮮な感動を伴う。レコーディングとしてはビートルズの中でも最高傑作のひとつ。

8. BECAUSE / ビコーズ

ジョンの楽曲で、これもビートルズの名レコーディングのひとつ。プロデューサーのジョージ・マーティンの弾くエレクトリック・チェンバロを追い駆けるようにジョンのギターが同じフレーズを弾き、シンセなども加わっていく中、ジョン、ポール、ジョージの3声コーラスが繰り広げられるその響きがあまりに神々しい。コーラスがうまいロック・バンドはいくらでもいるとはいえ、「愛は古くて新しい」というこの曲のコーラスの崇高さはほかに類を見ない境地になっていて、すべての音が合わさったときの震えはとてつもない。

9. YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY / ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー

ここからはいわゆる『アビイ・ロード』B面メドレーで、一気に"ジ・エンド"まで駆け抜けていく展開になる。冒頭のこの曲はポールの楽曲で、アップル・レコードと関連会社の放漫な経営による破綻危機、新マネージャーのアレン・クラインへの不信などがモチーフとなったもの。4部構成の最後では金だけ持って逃避行に出るというファンタジーに終わるが、この逃避行自体がかつてのビートルズの巡業に追われた日常を連想させ、あの頃に戻れたらという強烈なノスタルジアを漂わせるものになっている。この曲の情感もまたアナログ向きなものだ。

10. SUN KING / サン・キング

鈴虫の鳴き声のフェードインで始まるジョンの曲。ゆったりと進行するダイナミックな感じがまさに夜明けの風景のようで、ジョン、ポール、ジョージによる3声コーラスが、ここでもまたあまりに美しい。

11. MEAN MR. MUSTARD / ミーン・ミスター・マスタード

ジョンの曲で、守銭奴の親父の生態を粘っこいブギ的なリフとともに描出した小品。

12. POLYTHENE PAM / ポリシーン・パン

ジョンの曲。ジョンの豪快な12弦ギターのリフとともに、かつて彼が遭遇した、ポリ袋を服にしているとある女子とのシュールな出来事について歌った楽曲。

13. SHE CAME IN THROUGH THE BATHROOM WINDOW / シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドー

ポールの曲で、ファンにトイレの窓から自宅に侵入された彼の実際の経験を膨らませた楽曲。どうしても身持ちが悪くなってしまう侵入者の女の子の心理を探る歌詞が感動的。このコンパクトな曲におけるバンド・パフォーマンスのダイナミズムもまた素晴らしい。

14. GOLDEN SLUMBERS / ゴールデン・スランバー

ポールの曲。子守唄をモチーフにした楽曲だが、戻りようがなくなったビートルズ解散の状況を歌った曲でもあり、そこでポールは「眠れ、よい子よ」と歌う。

15. CARRY THAT WEIGHT / キャリー・ザット・ウェイト

「しかし、バンドの混迷の果てには重責が待ち構えている」と歌われるポールの曲。途中、"ユー・ネバー・ギブ・ミー・ユア・マネー"のモチーフが再浮上する。ポールもジョンも語っているように、これはビートルズ終末期のバンドとアップルの破綻した状況への不安、それを引き受けざるを得ない心境を直接的に反映した内容になっている。

16. THE END / ジ・エンド

ポールの曲だが、メンバー全員によるセッションの様相を呈しており、ビートルズ最後の素晴らしいバンド・パフォーマンスとなっている。フィナーレはポールのボーカルで、「きみが持ち去っていく愛は、きみが生み出していく愛と等価だよ」と歌い上げてみせる。

17. HER MAJESTY / ハー・マジェスティ

その後、しばらく間があってポールの"ハー・マジェスティ"が流れるが、これはもともとメドレーの途中にあったものを、ポールの指示でマスターから切り取って削除したもの。しかし、音源テープを捨てることは禁止されていたため、マスター・テープの末尾に付け足しておいたところ、そのままマスター音源に収録されてしまい、ロック史上初のシークレット・トラックといわれている。

製品情報


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●タイトル:隔週刊 『ザ・ビートルズ・LPレコード・コレクション』
●創刊日:2017年8月29日(火) / 隔週火曜日発売(一部地域を除く)、全23号(予定)
●価格:1,990円(創刊号初版特別価格)、2,980円(創刊号初版以降価格) ※価格はすべて8%税込、創刊号以降の価格は下記に記載

●全23作品 ラインナップ (予定)
創刊号 アビイ・ロード 1,990円(初版以降2,980円)
第2号 サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド 2,980円
第3号 ラバー・ソウル 2,980円
第4号 ザ・ビートルズ 【2枚組】 3,990円
第5号 ヘルプ!(4人はアイドル) 2,980円
第6号 リボルバー 2,980円
第7号 マジカル・ミステリー・ツアー 2,980円
第8号 プリーズ・プリーズ・ミー 2,980円
第9号 ア・ハード・デイズ・ナイト(ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!) 2,980円
第10号 レット・イット・ビー 2,980円
第11号 ビートルズ・フォー・セール 2,980円
第12号 イエロー・サブマリン 2,980円
第13号 ウィズ・ザ・ビートルズ 2,980円
第14号 ザ・ビートルズ1 【2枚組】 3,990円
第15号 ライヴ・アット・ザ・BBC 【3枚組】 3,990円
第16号 オン・エア~ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2 【3枚組】 3,990円
第17号 ラヴ 【2枚組】 3,990円
第18号 ザ・ビートルズ 1962年~1966年 【2枚組】 3,990円
第19号 ザ・ビートルズ 1967年~1970年 【2枚組】 3,990円
第20号 アンソロジー1 【3枚組】 3,990円
第21号 アンソロジー2 【3枚組】 3,990円
第22号 アンソロジー3 【3枚組】 3,990円
第23号 パスト・マスターズ 【2枚組】 3,990円

●URL:https://deagostini.jp/btr/

提供:デアゴスティーニ・ジャパン
企画・制作:rockin'on 編集部
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