「次なるポップの覇者」として全世界注目のホールジー!! 自身の内面や闇に向き合い、大胆なアプローチで感動的なポップ・ソングを生み出し続ける巨大な才能に迫る


2020年1月にリリースされた新作『Manic』がアメリカ、イギリス、オーストラリアなど世界各国で大好評の上、5月に来日も果たすホールジー

ファーストから一貫してエレクトロニック・ポップを追いかけてきてはいるが、実はアルバムごとにかなり大胆にアプローチや作風を変えてきており、そこに彼女の鬼才ぶりがうかがわれる。

というのも、ホールジーは本来的に自身の内面や闇を表現していくという形で、曲作りとサウンドに向かっている。その為に最も伝わりやすい音を探すという試行錯誤の結果が、これまでの作品や新作の内容となっているのだ。実際、どのアルバムについても、とても聴きやすい作品としてきっちり仕上がっている。

しかし、よく聴いていくと、内容的にもスタイルやアプローチとしても、ものすごく悩んで根を詰めて制作してきたことがわかり、そこが、ホールジーならではの凄味として昇華されているのだ。そんな彼女の原点となっているのが2015年のファースト・アルバム『Badlands』の"Ghost"だ。


もともとは14年にSoundCloudで公開されたもので、これが注目されたことにより、レコード契約とEP『Room 93』へと繋がり、その後の活動を導いた楽曲だ。

『Room 93』Jacket

エレクトロニック・アレンジされたサウンドとともに、《わたしは自分の手には届かないものを探している》と歌い出した後で、楽曲とボーカルが軽快なテンポと見事な滑舌を聴かせる展開となり、ここが素晴らしくポップでキャッチーなのだ。

しかし、ここで歌われている世界観はどこまでもネガティブもので、およそ実のある関係を望めそうもない相手を、自分がいつも探していることを綴っている。

そのことがさらに歌い出しとサビになっている、《わたしは自分の手には届かないものを探している》というフレーズを、より引き立てることにもなっていて、実によく作り込まれた楽曲になっているのだ。

さらにこの聴きやすさとキャッチーなメロディと、どこまでも不毛な関係を求める歌詞世界とのミスマッチ感が、ホールジー独特のエッジとなって刺さるのだ。

この"Ghost"が話題になった2014年の夏からホールジーはザ・クークスなど、さまざまなアーティストのツアーのサポートを務め、それと同時進行で制作されたのがファースト『Badlands』だ。

『Badlands』Jacket

本人は、この“Badlands”というのは荒廃した土地に周囲を閉ざされた都市で、そこで不毛な営みを繰り返す人々の生き様を描いたコンセプト・アルバムになっていると説明している。

そして、そもそもこの世界観そのものが自身の精神状態を反映したものにすぎなかったということに、アルバム収録曲を書きすすめていくうちに気付いたという。

また、18年には自身も母親も双極性障害であることや、高校ではいじめに遭っていたこと、大学を中退して音楽活動が安定するまで、ホームレスに近い生活を続けていたことも明らかにしていて、彼女が綴る暗いイメージの数々が、自身の心象に限りなく近いものだということをよくうかがわせるのだ。

そんな楽曲群の中でとりわけ、ホールジーの曲作りの巧みさを物語るのが"Drive"。


ここで彼女は《わたしたちのやることといったらドライブだけ/わたしたちのやることといったら心に隠した気持ちをひとりで確かめるだけ/わたしたちのやることといったら押し黙って座ったまま次の交通標識を待っているだけ/病んで自尊心でいっぱいで/そんなわたしたちのやることといったらドライブだけ》と書いていて、一見すると、これもまた不毛な関係を歌っているように思える。

しかし、このコーラスに続く《カリフォルニアに来て落ち着いた気持ちになったことなど一度もなかった/あなたとこうやって道路を走るようになるまでは 今ではわたしたち歌っている》という部分から、取り留めのないまま、ただドライブをするこのふたりは、実はこの関係に無上の喜びを見出していることが判明する。

ひねりとかそうした小手先のテクニックではなく、思いもよらなかった関係や心情をここまでわかりやすく描き出してみせるホールジーの作品世界はただものではない。

また、このアルバムでは"New Americana"が、自身が所属する世代観を表明するステイトメントになっているとして大きな話題を呼ぶことになり、特にこの曲の歌詞《医療用大麻でハイになり/ビギー(ノトーリアスB.I.G.)とニルヴァーナで育ってきた/そんなわたしたちはニュー・アメリカーナ》というフレーズが物議を呼ぶことになった。


ただホールジーは同フレーズが、自分の世代を表明するものでもなんでもなく、こうした様々なカルチャーの要素がただ同列に消費されてしまう社会に自分たちは生きているということを風刺として描いてきただけだ、と語っている。

いずれにしても『Badlands』でホールジーの作品世界が大きな関心を集めたことで、同時期に世界的な注目を集め始めていた、ザ・チェインスモーカーズの目にも留まり、2016年の彼らのシングル"Closer feat. Halsey"への共演にも繋がることになった。


結果、同曲はザ・チェインスモーカーズとホールジー自身にとって、初の全米チャート1位に輝くことになる。

 


一転して、2017年のセカンド『hopeless fountain kingdom』は、ホールジーのポップ・アーティストとしてのポテンシャルを総動員したような作品だ。

『hopeless fountain kingdom』Jacket

これは『Badlands』があまりにも自己表出的な作品となったことへの反省で、本人の言葉では「よりラジオ・フレンドリーな音が作れるはずだ」と表現されている。

つまり、よりダイナミックでキャッチーなポップ・センスを発揮させてみせるというアプローチで制作したアルバムだ。

歌詞の世界観としては『ロミオとジュリエット』を、そこはかとなくベースにしていて、決して実を結ぶことのない関係を、自身の経験も織り込みながらもフィクションとして徹底的に作品化するという、完璧すぎるほどのトータル・アルバムとなっている。

その最たる楽曲となるのが"Bad At Love"で、男女問わずこれまで破綻してきた関係を振り返り《わたしは愛することがへたなんだよ!》と歌い上げてしまうこの迫力はすごい。


そして、最新作『Manic』は、いったんコンセプト・アルバムを通過した上で、再び自身の心象や感情をストレートに作品化したアルバムになっている。

『Manic』Jacket

言うまでもなく前作の徹底した作り込みとサウンドもホールジーのアプローチとして定着しているので、どこまでも簡潔で鋭く、ダイナミックなポップ・ソングとして仕上がっているのだ。

同作からのファースト・シングルとなり、ホールジーにとっては2曲目のチャート1位に輝く楽曲となった"Without Me"などは、サウンドとメロディが素晴らしいだけでなく、あまりにもあけすけに「誰のおかげで自分が成功したと思っているの?」と責め立てるコーラスがとにかく強烈。


元交際相手のジー・イージーに宛てた曲であることはホールジーも認めているが、それにしても、どこまでも聴かされてしまう迫力とパフォーマンスと、音作りがあまりにも見事なのだ。

ホールジーは、この"Without Me"を2018年10月にリリースし、それに続いて"Nightmare"を19年5月にリリースしている。


「相手にとって悪夢のような女」である自分にとって本当の心情を歌い上げる、この"Nightmare"の方が実は次回のアルバム収録曲になるだろうと当時は目されていた。

それは楽曲として"Nightmare"の方が圧倒的に完成度が高かったからだが、しかし、実際には"Without Me"がアルバム収録曲となって、そのアルバム『Manic』もこの"Without Me"が軸となっていくことになった。

それは"Without Me"で吐露された過剰な心情がまさに今現在のホールジーに繋がるリアルな表現になっていたからで、自分をベースにした完成度の高い作品よりも、今の自分の心境や心象を生々しく描いていく方向に舵を切ったからなのだ。

うまくいかないとわかっている相手をどうしても追いかけてしまう気持ちを、どこまでも墜ちていく自分として墓荒らしにたとえて綴ってみせた"Graveyard"など、聴きやすさとイメージの強烈さが合わさったインパクトはいまだかつてないパワーを感じさせながらも、どこまでもパーソナルな作品にもなっているところがこの『Manic』なのだ。


しかも、同じように自己表出の固まりとなっていた『Badlands』と較べると、イメージとサウンドとパフォーマンスの鮮烈さや聴きやすさが過去最高レベルに達しているところがすごい。

現在のライブのセットリストは、まんべんなく楽曲を取り上げるものになっているし、間違いなく彼女は今ピークを迎え始めている。5月の来日公演では、どんな世界が繰り広げられていくのか、なんとしてでも目撃したいところだ。(高見展)



提供:ユニバーサル ミュージック ジャパン
企画・制作:rockin'on 編集部