4月に来日を果たすエリック・クラプトンを迎えるのに最高のライブ・フィルム『クロスロード・ギター・フェスティヴァル 2023』が1月31日(金)から劇場公開される。盛り上がるのにこれ以上はないシチュエーションだ。
このフェス、クラプトンのライフワークと言ってもいいもので、最初は彼が作った薬物依存者の治療・教育のための施設“クロスロード・センター”のベネフィットとして99年に行われたコンサートから始まった。フェスを名乗るようになったのは2004年。それから、コロナ禍での中断があったもののこれがその最新版となるもので、23年9月23、24日ロサンゼルスのクリプト・ドットコム・アリーナで行われた。
クラプトンの呼びかけに応え集まったスターたちの名前を書いてるだけでスペースが埋まってしまうので、まずはおいしいところ、絶対に見逃せないポイント7つを紹介しておこう。
1.幕開けを飾るのは永遠のロックギター神への挨拶
総合司会を務めるアカデミー賞俳優ビル・マーレイとクラプトンによるクリームの代表曲“アイム・ソー・グラッド”の楽しい掛け合いに続き、オープナーの大役を担うのはペダルスティールギターの鬼ロバート・ランドルフを中心としたセットで、曲は永遠のロックギター神:ジミ・ヘンドリックスの“フォクシー・レディ”ときては会場が盛り上がらないわけがない。
会場の燃え上がった炎にさらに大量の油をぶっかけていくのが、ジミと同じくサウスポーで神童と呼ばれたエリック・ゲイルズと、同じく若い頃からその才能を絶賛されていたジョー・ボナマッサで、さまざまなタイプの違うギタープレイが冒頭からがっちりと絡み合って気持ちが一気に頂点に達する。
なおジョー・ボナマッサとエリック・ゲイルズは、この後の“ブレイキング・アップ・サムバディーズ・ホーム”では、ジャズ、フュージョン系のギタリストとして伝説の人ジョン・マクラフリン(マハヴィシュヌ・オーケストラ)とも共演し、それはそれは超絶的なテクニックに包まれたギターバトル大会を展開する。
2.敬愛するクラプトンのためなら! 才女シェリル・クロウに絡むのはジョン・メイヤー
ジョン・メイヤーといえば19年4月13日のクラプトン公演に、同時期に来日してたことからサプライズ出演して驚かせてくれたのが忘れられない。クラプトンととにかく一緒にプレイするのが嬉しくてたまらないといった少年のようなステージ上の様子が最高だったが、そんな彼がサポートするのはアメリカを代表する女性シンガーソングライターの一人シェリル・クロウで彼女がベースを手にして歌う曲が“マイ・フェイヴァリット・ミステイク”というのが、熱心なクラプトンファンであればニコリとせずにはいられないところ。
というのも、この曲、彼女が98年に発表したもので浮気者の男を歌っており、この男が当時さかんに共演もしていたクラプトンのことじゃないかというのが定説だった(いちおう彼女は否定しているが)。そんな曲をこういう時にあえてピックアップするのだから恐ろしい……。とはいえそういうことも知っているとさらに演奏を楽しめる(?)はず。
3.サイケの海に再び連れて行ってくれる男たち
基本的にはクラプトンがこれまで絡んできた人たちや、その仲間、先輩、後輩たちが中心のこのイベントで今回もっとも意外だったのが、元ザ・バーズのロジャー・マッギンだ。ボブ・ディラン・ナンバー“ミスター・タンブリン・マン”の大ヒットでフォークロックのブームを生み、さらにサイケデリック時代をリードした彼らの名曲“霧の8マイル”をピックアップしてくれてるのも嬉しいし、ディランの息子ジェイコブのバンド、ザ・ウォールフラワーズがバックを努めているのも良い。
トレードマークのリッケンバッカーの12弦ギターを手にしたロジャーの懐かしい音色に彼のソロが絡んでいくがクラプトンの名前を一躍世界的なものにしたのが、クリーム時代のサイケデリックな音だった。そんな60年代ロックの大きな流れを見るような共演には改めて胸が熱くなるだろう。
4.もう一曲、ロック伝説を浴びてくれ
「これじゃ物足りない、もっとやろう」とジェイコブが呼びかけ登場するのは、バッファロー・スプリングフィールド〜クロスビー、スティル、ナッシュ&ヤング(CSNY)、そしてソロで活躍しているスティヴン・スティルスで、クラプトンとは旧知の仲でギターソロパートの受け渡しをしてるだけなのに、本人たちのなんとも楽しそうな様子が伝わってくる。曲はバッファロー・スプリングフィールド時代の67年に発表した“ブルーバード”で。オリジナルはニール・ヤングもいた時代のバンドならではの尖った演奏を聞かせる名曲だが、ここではメロディアスな部分をベースにたっぷりとソロを聴かせてくれる。
5.ここでもこれは特別な一曲
「曲をちょっと捧げたい、これを聴いてくれよ」とエリック・ゲイルズが語ってから弾き出すのは“いとしのレイラ”のコーダにインスパイアされたギターソロ。どんな時でもこの曲をやらないでは収まらないクラプトン公演だが、今回のようなイベントには不向きと考えたのだろうし、それを踏まえての扱いがこのスペシャル版だ。ゲイルズの華麗なピッキングによる演奏は文句なく素晴らしく、またちょうどインターミッション的な役割も果たしている。
6. どんな時でも会場を盛り上げる王様といえばサンタナ。ここでも圧巻
ブルースを基調としたフェスにラテンフィーリングをプラスして会場を熱くするのがカルロス・サンタナ率いるサンタナだ。ライブのステージ上でプロポーズしたことでも有名な妻で名ドラマー、シンディ・ブラックマン・サンタナなどラテンパーカッション陣を従えた総勢9名による演奏は、それこそ69年ウッドストックのステージから直送してきたかのようにまったく緩みもなく進むが、とくにカルロス独特の哀愁を持ったロングトーンの美しいギタープレイが、パーカッシブなバンドをバックに冴えわたる。しかも曲が、半世紀以上前に出たデビューアルバムの名曲“ジンゴー”と来るのだから会場の熱狂ぶりも当然だろう。
7.奇跡の共演——エリック・クラプトン×スティーヴィー・ワンダーによる “クロスロード“は必見!
この時のハイライトの一つが、イベントの前月(23年8月9日)に亡くなってしまったザ・バンドのロビー・ロバートソンの追悼として、ロビーが書いた“イット・メイクス・ノー・ディファレンス”をスピリチュアルなアレンジで聴かせたところだ。長年の友人であったクラプトンの万感の思いを込めたボーカル、ギターソロが感動的で、現ツアーを行っているバンドも彼の気持ちを受け止めた深い余韻を残すパフォーマンスを繰り広げ必見の一曲となっている。
終わってクラプトンが「もう一つサプライズがある」と言ってスティーヴィー・ワンダーを紹介する。この巨星登場に会場が沸き立ち、クラプトンとバンドメンバーたちも大喜びのなかで始まるのがフェスのテーマソングとも言うべき“クロスロード”なのだからこれ以上はないクロージングトラックとなった。
スティーヴィー・ワンダーはお気に入りの鍵盤楽器とギターやベースギターの要素を融合した楽器ハーペジ(Harpejji)でファンキーかつグルーヴィなプレイを聴かせ、それに煽られるかのようにクラプトンの歌、ギターソロも力が入り、観る者すべてを幸福感に包み込んでいくなか、スティーヴィーによる「エリックこそ神の恵みです」という最高の賛辞でイベントは締めくくられる。(大鷹俊一)
エリック・クラプトン『クロスロード・ギター・フェスティヴァル 2023』
1月31日(金)より全国公開