【コラム】back numberのCMタイアップ曲は何が素晴らしいのか? “手紙”を機に考える

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ご存知の方は多いと思うが、2015年に入ってからのback numberのシングル3作には、立て続けに大きなCMタイアップが付いている。1月リリースの“ヒロイン”はJR東日本の恒例キャンペーン「JR SKI SKI」で、初回盤ジャケットにはCMイメージキャラクターである広瀬すずの写真が用いられていた。5月にリリースされた“SISTER”は「大塚製薬 ポカリスエットイオンウォーター」CMに起用され、カップリングの“泡と羊”もサンスターのキャンペーンソングになっている。そしてこの8月12日にリリースされた“手紙”は、NTT DOCOMOのテレビCMソングだ。iPhone・iPadが繋ぐ、母と娘、そして孫の家族のドラマに、“手紙”が寄り添っている。

「JR SKI SKI」と言えば、一時期にはキャンペーン自体が休止していたものの、1990年代からCMタイアップ曲が大きなヒットを飛ばすことで知られていたし、「ポカリスエット」やNTT DOCOMOだって、思い出せる歴代CMはひとつやふたつじゃない。それほど大きなCMの数々にback numberの曲が用いられるというのは、何より、清水依与吏の作曲技術の高さと、それを支えるバンドの一枚岩な結束力が窺えるというものだ。でも、はたと思う。back numberの曲って、そんなに大衆的なCMに用いられるほど、ライトで、カジュアルなものだっただろうか。実は、それこそがこのコラムのテーマである。

悲恋の歌をしたため続け、その反動的な渇望のエネルギーをもって確かな支持基盤を獲得してきたロックバンドのback number。「JR SKI SKI」のCMでは甘酸っぱい恋のドラマが描かれていたのだけれども、“ヒロイン”という歌は美しい雪の情景を思い浮かべるものの、《君の毎日に 僕は似合わないかな》という歌い出しからも明らかなように、決してウキウキワクワクとしたロマンスの歌ではない。一方、“SISTER”は、CMの「負けない」というテーマのもと、失敗して落ち込む若いOLの物語をしっかりと踏まえている。極めてポップな「どんより感」がそこにはあって、だから歌詞もどんよりとした風景の中から晴れやかな風景を目指していた。切なくて、痛くて、重い。それはもう、さすがは清水依与吏、という精度の高さなのである。

さて、そこで新曲の“手紙”だ。以前からストックされていた楽曲であることが、最新の『ROCKIN'ON JAPAN』9月号インタヴューでも明かされている。小林武史プロデュースのもと、壮麗なストリングスアレンジを纏った美曲は、愛に渇望する歌ではなく、そこにある家族の愛に気付く歌である。《ちゃんと気付いている事/いつか歌にしよう》という歌詞にはアルバム『スーパースター』に収録されている“スーパースターになったら”並の反動的な意志が込められてはいるが、ここでの清水依与吏は渇いていない。実体験から導き出された切なくて痛くて重い歌の数々は、彼にリアルな心象を描くためのスキルをもたらし、今回はそれが温かな家族愛の歌に、見事に転用された。プライベートな思いを万人の思いへと変える、back numberの意地にも似た「ポップ」の成果が、このタイアップ曲には刻み付けられているのだ。(小池宏和)
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