ポール・マッカートニーはザ・ビートルズ時代の楽曲の版権を取り戻そうと動いているという。
実はポールはビートルズ時代の楽曲の版権を所有したことがなく、ビートルズ時代に書いたレノン=マッカートニーとしての楽曲やジョージ・ハリスンやリンゴ・スターの楽曲の管理権もすべてノーザン・ソングスというポールとジョン・レノンも出資者となった著作権管理会社に所有されていた。実際にこの会社はディック・ジェイムスという楽曲著作権管理事務所の経営者とビートルズのマネージャーだったブライアン・エプスタインが実質的に切り回している団体だった。
その後、ブライアンが1967年に他界した後、ポールとジョンは版権を自分たちの手元に取り返そうとノーザン・ソングスの買収に動き出すが、ジェイムスは会社をイギリスの民放テレビ局ATVに売却し、その後、ポールとジョンは何度かATVから楽曲の版権の買戻しを試みたがいずれも実現しなかった。さらに80年代に入ってからポールがマイケル・ジャクソンとのコラボレーションを重ねるようになると、ポールはマイケルから楽曲の所有権のノウハウなどについて訊かれ、版権を所有することの重要性を彼に説いたというが、その後、マイケルからビートルズの曲を買ってみせると宣言され、マイケルは現実にATVそのものを買収してしまうことに成功した。
マイケルはさらにATVとソニーを合併させ、版権管理会社ソニー/ATVとなったが、先頃、マイケルの遺産管理団体がマイケルの所有していた株式をすべてソニー/ATV側に売却することが明らかになって、ポールがビートルズの楽曲をまた取り戻す日はいつかくるのだろうかという関心がにわかに注目されることになった。
さすがにソニー/ATVの買収やビートルズ楽曲の版権の買戻しは資金的にも難しい一方で、ポールが着実に版権の回復のために動いていることが明らかになったとビルボード誌が伝えている。
というのは、アメリカの著作権法の規定で、1978年以前に書かれた楽曲については著作権が成立した日から56年目に原作者は楽曲の権利を取り戻せることになっているからで、1962年にレコード・デビューしているビートルズの場合、2018年からがそのタイミングとなるのだ。
ただし、版権を取り戻すには56年目から数えて2年から10年前までに米国著作権局に申請を行わなければならず、その後、当該楽曲の著作権がいったん抹消され、原作者にすべての権利が返却されるという。そしてポールは昨年末にこの申請を行っていたことが明らかになったという。
なお、ビートルズの楽曲はすべてレノン=マッカートニー名義になっているため、ポールはその半分だけを取り戻すことになるが、ジョンの持ち分については著作権そのものが無効となる(ジョンの死から70年後)までソニー/ATVが版権を保持し続けるという取り決めがソニー/ATVとオノ・ヨーコとの間で行われたという。ただし、この措置はアメリカについてのみの話で、ポールはアメリカでは2018年以降、楽曲の版権を取り戻すことになるが、そのほかの世界各国では依然としてソニー/ATVが権利を所有したままになる。