『週刊少年ジャンプ』にて高い人気を誇る漫画『ハイキュー!!』。主人公・日向 翔陽が所属する烏野高校男子バレー部の成長を描く同作は今秋に劇場版総集編が公開されるが、それに先立って、アニメ版の主題歌をすべて収録した『ハイキュー!! COMPLETE BEST』が発売された。全曲を振り返ってみて改めて気づくのは、バンドが手掛けた曲が多く、そうではなくともロックサウンドに仕上がっている曲が殆どであるということ。メンバーとともにひとつの方向へ突き進んでいくロックバンドの在り方と、チームでひとつの球を繋ぎ勝利を目指していくバレーボールという球技、そして部活動特有の青春感は共通する部分が多く、親和性が高いということだろう。ということで、ここでは収録曲の全曲レビューを掲載。それぞれの主題歌が『ハイキュー!!』の物語とどのように共鳴していったのか、振り返っていきたいと思う。(蜂須賀ちなみ)
M1:「イマジネーション」SPYAIR(第一期 1stオープニングテーマ)
日向をはじめとした1年生が烏野高校に入学、男子バレー部の個性的なメンバーが揃うまでの過程や他校との練習試合の模様を描いた第一期前半(〜第13話)のOPに抜擢されたのがこの曲。《揺れる陽炎 すべり出す汗/響きあう声 叩きあう肩》という歌い出しは、『ハイキュー!!』の世界を的確に捉えるだけでなく、部活に心燃やしたあの頃の気持ちを多くの人に思い出させてくれる秀逸なものだった。因みに、MVの再生回数が2490万回を突破(2017年5月時点)したこの曲は、SPYAIR活動再開後初のステージでも歌われている。『ハイキュー!!』といえばこの曲!というファンも多いと思うが、SPYAIRにとってもまた欠かせない曲であるということだ。
M2:「天地ガエシ」NICO Touches the Walls(第一期 1stエンディングテーマ)
「リベンジ」がテーマの“天地ガエシ”は、二度目の武道館ワンマンに対する決意表明というNICO Touches the Walls自身の物語を踏まえてリリースされた曲でもあるが、泥臭く逆転劇を狙っていくサマは、一般的に身長が低いと不利であるバレーボールの世界で「この身体で勝って/勝って勝ってもっといっぱいコートに居たい!」と野心を燃やす日向の在り方と重なる。中学時代は「部員が自分のみ」という過酷な状況でバレーをやっていた日向が、烏野に入り、孤独ではなくなったことを温かく伝える映像にもグッときた。
M3:「Ah Yeah!!」スキマスイッチ(第一期 2ndオープニングテーマ)
スキマスイッチがデビュー10周年イヤーを終えた直後にリリースした“Ah Yeah!!”は、このアニメの次章突入をも華麗に彩ってみせた。この曲がOPテーマに採用されたのは、インターハイ宮城県大会を描いた第一期後半(第14話〜)。“イマジネーション”や“天地ガエシ”の疾走感とは異なり、“Ah Yeah!!”はテンポをグッと落とし一歩一歩を踏みしめるように進んでいくタイプの曲だが、どこか張り詰めた空気は「本番」特有の緊張感を連想させてくれる。実際のOP映像では、Aメロで日向たちが深呼吸し《左足の一歩》を踏み出すなど、歌詞とリンクした描写も多数あった。
M4:「LEO」tacica(第一期 2ndエンディングテーマ)
そして第一期後半には、チームメイトを蔑ろにしたプレイをしたことにより「コート上の王様」と揶揄されていたトラウマを持つセッター・影山 飛雄が、仲間に対して信頼を覚えるようになる――というひとつのハイライトが用意されている。そのためこの時期のED映像は影山がフィーチャーされているが、そこで流されたのが“LEO”だった。不安と後悔を連れたまま前へ進む意志を歌ったこの曲は、2人体制になり新たなスタートを切ったtacicaが自身に向けて歌ったものだが、同時に、影山や同じような悩みを抱える人たちの成長にやさしく寄り添うものとなった。
M5:「星をつかまえて」石崎ひゅーい(「リエーフ見参!」エンディングテーマ)
ジャンプフェスタで限定放映されたスピンオフストーリー「リエーフ見参!」の主役・灰羽リエーフは、烏野のライバルにあたる音駒高校の選手であり、身体能力とセンスは抜群だけど基礎はダメダメ、しかし根拠のない自信を元にエースを自称している、というインパクトの強いキャラ。チャイムの音とともに始まる“星をつかまえて”は《あいつ金持ちに生まれた/なのに頭が悪かった》《あの子綺麗な髪だった/だけど前歯がすきっ歯で》と人は誰しも完璧でないという事実を軽やかに暴きつつ、リエーフが、『ハイキュー!!』で度々登場する“強くなるために求めるのは/安定か/進化か”という問いかけへの解の役割を果たす重要な人であることを思い出させてくれた。
M6:「アイム・ア・ビリーバー」SPYAIR(第二期 1stオープニングテーマ)
『ハイキュー!!』チームがSPYAIRに寄せる信頼の大きさ、SPYAIR側の「全力で期待に応えよう」という強い気持ちがよく伝わってくる再タッグ。壁を超えるための「対自分」の戦いを歌っていたのが“イマジネーション”だとしたら、「なぜ俺は戦うのか」という問いかけを孕んでいるのが“アイム・ア・ビリーバー”。第二期に突入し、さらに深く熱くなっていく『ハイキュー!!』の物語に寄り添うように、曲の内容も一歩奥へ踏み込んだものとなった。烏野の1年生マネージャー・谷地 仁花の目線で届けられるOP映像も新鮮で、新たな物語の始まりを予感させてくれる。
M7:「クライマー」Galileo Galilei(第二期 1stエンディングテーマ)
飛び立っていく数羽のカラス、立ちはだかるライバルたちの表情、日向が天へ伸ばす右腕、それぞれの想いを胸にランニングに臨む烏野メンバーの姿――向上心の裏側に潜む「動機」に焦点を当てた第二期前半ED映像で流されたのは、Galileo Galileiの“クライマー”。王道のロックサウンドに乗る《辿り着いても“もっかい!”って感じ/目指すその頂点》というフレーズはどこまでも爽やかだが、確固たる説得力を持っている。様々な音楽性をインプット&アウトプットすることによって豊かな土壌を得てきたガリレオだからこそ、強くなるために鍛錬に励む選手たちの背を押す歌を歌えたのだろう。
M8:「FLY HIGH!!」BURNOUT SYNDROMES(第二期 2ndオープニングテーマ)
春高バレー県予選での戦いの模様を描いた第二期後半(第14話〜)のOP曲は“FLY HIGH!!”。 BURNOUT SYNDROMESのメジャーデビュー曲でもある曲はバンドが自身を鼓舞するための歌でもあるが、《飛べFLY HIGH!!》というサビ頭のフレーズは烏野の応援旗に掲げられている「飛べ」という言葉とそのままリンクしている。アタック直前の踏み込みの瞬間にスポットが当てられているOP映像には、第一期の頃と違い目を開いて速攻を打つようになった日向の姿もあり、彼の確かな成長を垣間見ることができた。
M9:「発熱」tacica(第二期 2ndエンディングテーマ)
『ハイキュー!!』が愛されるひとつの理由として、日向だけでなく、烏野のチームメイト、レギュラーではない部員、マネージャー、トーナメント戦で負けてしまった学校など、いわゆる「主人公」ではない人物たちの描写を丁寧に行っている点が挙げられると思うが、《何者でもない者/眼を光らせた》と始まる「発熱」は、まさに『ハイキュー!!』が大切にしてきた部分と深いところで共鳴しあうような歌だった。自分の人生に色をつけることができるのは自分自身だけ。実際のED映像では、歌詞に合わせて、ほぼモノクロのアニメーションが一気にカラーになる演出が話題を呼んだ。
M10:「ヒカリアレ」BURNOUT SYNDROMES(第三期 オープニングテーマ)
春高バレー県予選決勝・vs白鳥沢学園高校戦を描いた第三期のOP曲を担当したのは、2クール連続で抜擢されたBURNOUT SYNDROMES。OP映像では二校のメタファー(そびえ立つ雪山と羽ばたくカラス)と試合シーンが効果的に用いられていたが、《一寸先の絶望へ/二寸先の栄光を信じて》というフレーズが象徴するように、この曲が照らし出すのは、高きハードルを飛び越える際の苦しさではなく、その先にある喜びの瞬間だ。芯の太いボーカルや分厚いコーラス、重心の低いビートは、人の心に眠るあらゆる感情を呼び覚ましてくれる。
M11:「マシ・マシ」NICO Touches the Walls(第三期 エンディングテーマ)
OPの「ヒカリアレ」は覚醒感のある曲だったのに対し、EDの「マシ・マシ」はもう少し肩の力の抜けたテンション。そのため、サビで繰り返される《あとはきみしだいです》という言葉は、決して相手を突き放すための言葉ではなく、個性豊かな『ハイキュー!!』のキャラたちをまるごと受け入れるような言葉、そしてテレビの向こう側にいる私たちの背中を叩いてくれるような言葉として作用している。実際のED映像は、烏野&彼らと関わりのある高校の選手たちが一枚絵のイラストで表現され、集大成的な仕上がりとなっていた。