『関ジャム』で解き明かされた、ユーミンの楽曲が受け継がれる理由

10月21日の『関ジャム 完全燃SHOW』は、「名曲から解き明かす! 松任谷由実と3つの時代を大特集!」ということで、じっくり、ユーミンの凄さについて語り、検証する回だった。以前この番組で、ユーミン特集を切望していた、JUN SKY WALKER(S)のベーシストで音楽プロデューサーとしても名高い寺岡呼人と、ユーミンのライブなどで20年コーラスを担当している今井マサキを迎え、多角的に、ユーミンの楽曲を考察していくというもの。

この回の収録にあたり、寺岡は打ち合わせの前日に、20ページにもわたる資料を徹夜で作ってきたという熱の入れよう。一方、今井マサキはこの日のために、ユーミン本人にいろいろ質問をして、それに答えてもらってきたと言うから、ますます期待は高まる。
70年代、80年代、90年代以降に分け、荒井由実の、松任谷由実の凄さを検証していくというものだが、この回はリスナーだけでなく、実際に日本のポップミュージックに携わるソングライターやシンガーにとっても、改めて「歌い継がれていく歌」とはどんなものなのかを考えさせられる、興味深い放送になったのではないかと思う。

まず70年代。フォークソング全盛の時代にあって、荒井由実の登場がどれほど画期的で異質なものだったかが語られる。16歳で作った“ひこうき雲”(73年)が、45年という年月を経過した今も、まるで色褪せていないこと──そのマジックの理由のひとつに、寺岡はこの楽曲のコード進行の魅力を挙げた。プロコル・ハルム“青い影”の影響について言及し、寺岡は、歌い出しから徐々に下がっていくコード感をピックアップして詳しく解説。あの、時空を超えて語りかけてくるような、儚い憂いのようなメロディの秘密に触れられたような気がした。
“海を見ていた午後”(74年)の解説には、寺岡も今井もさらに熱が入る。「分数コード」をキーワードに挙げ、同じくコード感について解説したのも興味深かったが、何より「歌詞」である。それは「発明」でもあると。
《山手のドルフィン》や《三浦岬》といった地名や固有名詞を入れ込む作詞について、今井は「(確かに実在するレストランの名前や地名だが)実際にあるのは『根岸のドルフィン』だし、レストランからは『三浦岬ではなく房総半島』が見えた」という裏話を明かした。「でもユーミンは、そこでリアルではなく歌としての響きを選んだ」として、それこそが、ユーミンの歌の世界に特有の「リアルファンタジー」であると解くくだりには、大いに膝を打った。

「80年代はユーミンの天下」と、番組支配人の古田新太が言葉にした通り、この年代のユーミンは時代そのものを映し出す鏡、というよりも時代の先を映し出して大衆を導いていったようなイメージがある。“サーフ天国、スキー天国”(80年)、“守ってあげたい”(81年)、“シンデレラ・エクスプレス”(85年)、そして、もはやこの曲抜きに日本のクリスマスは語れないほど不朽の名曲となった“恋人がサンタクロース”(80年)。
寺岡が「(その後の)バブル時代に流行するスポーツやレジャーの楽曲を80年代初頭に生み出していた」という、その先見の明の凄さは、きっと90年代以降に生まれた若い世代にとっては新たな気づきとなったのではないかと思う。80年はまだ、クリスマスに恋人と過ごすことは当たり前のことではなかったのだ。歌が時代を作ったという言い方をしてもいいかもしれない。それほどユーミンの描くポップミュージックが広く人々の心に浸透し、その行動にまで影響を与えたのだ。

90年代以降のユーミンは、完璧な世界観を構築する圧倒的なステージングで、総合芸術的なアプローチを採るアーティストの先駆けとして君臨していくことになる。改めて思えば、“真夏の夜の夢”(93年)や“輪舞曲(ロンド)”(95年)などは、はじめからステージでの演出までを思い描いて制作したのではないかと思うほど、視覚的なイメージを刺激する楽曲である。そして90年代から、多くの優れたミュージシャンがそうであるように、過去の名曲たちが再び──というより、もう何度も評価され、世代を超えて歌い継がれていくという揺るぎないサイクルに入った。

今井が最後にユーミンからのメッセージとして語ったのは、「自分の歌が『詠み人知らず』になるまで歌い継がれてほしい」という言葉だった。作者不明だけれど曲だけは愛され続け伝承されていく──そうなることが本望なのだと、そんな思いで楽曲を作り続けてきたのだと、ユーミンの思いを受け取ったような気がした。シンガーソングライターとしての究極の言葉に胸が熱くなる。松任谷由実という「自分」ではなく、「歌」を遺したい──「自分の曲」ではなく、その曲を聴く一人一人のための歌でありたい。ユーミンのポップソングの哲学とは、つまりそういうことなのではないかと思う。音楽的才能、作曲センス、時代を読む目──そういう視点で見ても確かにユーミンは図抜けている。けれどそれだけでは、ここまで、何年、何十年と時代を経てまで人の心を掴む歌は作れない。そんなことをつくづく考えさせられた放送だった。

それにしても、寺岡も言っていたけれど「時間が足りない」。年代ごとに1時間ずつ、というより、1曲につき1時間でも足りないのではないかとさえ思わせる、ユーミンはやっぱり凄い。(杉浦美恵)
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