やはりボーカリストYUKIは凄い! 12人の豪華ミュージシャン楽曲提供の新アルバム『forme』解説

『forme』初回生産限定盤
YUKIの最新アルバム『forme』がとても良い。ソロデビューアルバム『PRISMIC』から17年。9作目のフルアルバムとなる今作は、YUKI自身が「『forme』は自分のための2回目のソロデビューのような、フレッシュなアルバムになりました」と語っているように、歌を歌うことの喜びと、フレッシュでポジティブな衝動に満ち溢れている。作詞はすべてYUKI、そして作曲は彼女が敬愛する12人の錚々たるミュージシャンとYUKI自身がそれぞれ1曲ずつ手掛け、全13曲が収録されている。アルバム1枚が文字通りデビュー作のようなパワーを持つのと同時に、1曲ずつがYUKIの魅力を13の違った角度から改めて見つめ直したかのような多面的な光を放っていて、どれひとつとして聞き逃せない楽曲に仕上がっている。とにかくYUKI自身が新たな自分に出会うのを楽しんでいるのがよくわかる。「2度目の1stアルバム」と言われるのも納得の感動作である。

今作はセルフプロデュース作でありつつ、参加した各ミュージシャンが、YUKIというボーカリストをどう理解しているのか、どんな楽曲で表現すればその魅力を最大限に引き出せるのか、そこにもうひとつのプロデューサー的な観点が存在しているようにも感じられる。それにがっつり向き合って様々な自分を表現するYUKIもまた、再びYUKIという才能を客観的に面白がっている。そしてどんな楽曲もYUKIが歌えばそれは紛れもなくYUKIのものになる。だからこそ「デビュー作」的な衝動を感じるのと同時に、表現者としての確かな力量と経験とに裏打ちされた、現在のYUKIのベスト盤とも言うべき完成度を誇っているのだ。

どのミュージシャンもYUKI自身が「一緒に音楽を作りたい」と思いオファーをし、そのコラボレーションが実現したものであるが、その選択からして見事というか、それこそがセルフプロデュースの妙であったりもして、楽曲ごとに沸き立つカラーの違いを、これほどまでに楽しめるアルバムはそうそうないと思う。
たとえば吉澤嘉代子との共作“魔法はまだ”でのR&Bテイストのグルーヴ感たっぷりのベースラインが印象的で、それに応えるかのようにキュートさの裏に企みを隠し持つような歌声が不思議な恋心を表現する。西寺郷太NONA REEVES)との“しのびこみたい”は、スウィートなバラードでYUKIのファルセットが心地よく響き、ソウルシンガーYUKIとでも言いたくなる洗練された歌声を引き出している。
前野健太との“口実にして”などは、《きっとあなたはマグロ漁船 なんとなく噂でそう聞いたよ》とか《ずっと言えなかった 貸した3万円返してほしかった》なんていう歌詞を、可笑しさと寂しさをたずさえたメロディで歌う。この泣き笑いの切なさの感じは、まさに前野健太だし、このコラボでなければ出てこなかったYUKIの表現者としての突出した魅力のひとつだと思う。今回の聴きどころとして、各ミュージシャンの楽曲が引き出す、YUKIの作詞の面白さという部分にもぜひ着目してほしい。
さらに細野晴臣との“Sunday Girl”は、もし細野晴臣のバンドにYUKIがボーカリストで参加したら、という夢の共演のようなイメージを具現化したかのような楽曲でとても贅沢な気持ちになる。この作詞もまた、YUKIが細野の楽曲をイメージしたからこそ出てきたものだと思うし、楽曲のメロディはYUKIの歌声と細野のコーラスにとてもマッチしている。なんて素晴らしくしあわせなポップミュージック。

作詞という点で言えば、クリープハイプの尾崎世界観との共演が実現した“百日紅”の歌詞こそ、そのメロディが運んできたものであるように感じられる。そのフォーキーで静かに切なさを感じさせるメロディは、まさに尾崎のソングライティングならではで、胸をしめつけるようなメロディラインは、やはりどこか人間を内面へと向かわせる力を持つものだ。それを受けてのYUKIの作詞は《流れる血が 私を女だと知らせる》という言葉や《やましさと裏腹に流す涙》といった言葉を生み、女性としてのリアルな感情を文学的な生々しさで表現した傑作に仕上がった。この曲を聴くと、YUKIが尾崎世界観に求めたものがよくわかるし、それにメロディで応えた尾崎、さらにそのメロディに触発されるYUKIという、今回のコラボレーションの意義を見事に体現した1曲になっていると思う。

本当は、すべての楽曲について語りたいところである。そして何度も何度も繰り返し聴きたくなる。この感じもまた「デビュー作」のような感覚をリスナーにも思い起こさせるものだ。このYUKIの「2度目の1stアルバム」は、今後のYUKIの活動に向けても様々なインスピレーションやエネルギーを生んだのではないかと思う。そしてすぐれたデビュー作の次の2nd、そして3rdがミュージシャンにとってさらなる充実作となるのは、これまでの時代が証明していることでもある。またこれからのYUKIの活動が本気で楽しみになるアルバムである。(杉浦美恵)