①aurora arc
アルバムタイトルが決まった時に、このアルバムにはなんらかこのタイトルにまつわるような曲があるんだろうな、とは思ってたんです。恐らくインストで、何か書くんだろうなって。ただそれは漠然と思っていただけだったんですけど……『aurora arc』ってタイトルを伝えた時に、スタッフが「オーロラ見に行こうぜ!」って言ってきたんですよ。
(中略)
それで、まだ録り終えてない曲もあったし弾丸ではあったんですけど本当にイエローナイフに行って、その旅がすげえ良かったんです。で、帰ってきてからスタッフが「藤くん、“aurora arc”って曲を書いてよ」って言ってきたんです。そこで、スタッフのほうがメンバーより具体的なイメージを持ってこのタイミングでアルバムを出すってことを考えてるわけだから、そういう意見が出るのも、そうだよね、みたいに思って……それでノーアイディアでスタジオに入ったんですけど、本当に簡単にこの曲が書けたんです。さっきも言ったけど、書くんだろうなというのはアルバムタイトルが決まった時点で思ってたし、頭の中、深層心理では決まっちゃってたんですよね。それを取り出すだけの作業だったんだろうなって思います。
(『CUT』2019年7月号)
今作で藤原基央自身が最新アルバムにも書き下ろしのインスト曲が入るだろうと予感し、信頼のおけるスタッフにもタイトルを表現する楽曲を望まれたというのは決して偶然ではないだろう。チームBUMP OF CHICKENが実際にオーロラを見に足を運び、そこで経験したこと、そしてそれが過去から現在へと続くBUMP OF CHICKENの物語ともシンクロすることなどを知るにつれて、この美しいインストゥルメンタルは、まるでここに生まれ出ることが約束されていたかのようだと思う。オーロラの持つ神秘的で幻想的な視覚的イメージそのもののような、サウンドの魅惑的なゆらぎとスケール感は、このアルバムが描き出す物語の幕開けにふさわしい。
②月虹
僕はタイアップに対して、作品のモチーフに合うようにっていう商業的な意識でやる必要はないし、やってもいけないし、僕自身そういうものが書きたいんじゃないっていう想いがけっこう強くあるので……だからこそ「合わない」って言われるんじゃないかっていうのはいつもすごく怖いんですけど、どうにか毎回ご好評をいただいてるので(笑)、このままでいいのかなと思っているんですけどね。
それで、自分の記憶の井戸、感情の井戸、現在の音楽の井戸――BUMP OF CHICKENが表現してきたフィールドと『からくりサーカス』という作品のフィールド、ふたつが重なる部分にある深~い井戸に僕は潜ったわけです。で、書いた曲がこれです。
(『CUT』2018年11月号)
TVアニメ『からくりサーカス』の第1クールのオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲。この楽曲に限らず、BUMP OF CHICKENの手がけるタイアップ曲は、もとの作品の物語性をそのままトレースするのではなく、そこに宿るさらに深い、見えざるテーマへと思考をめぐらし、さらに、そのテーマをBUMP OF CHICKENが表現するとしたならば──という作り方をされているものが多い。というか、それがほとんどだと思う。だからこそ、こうしてアルバムのこの位置に収録されたときに、まさしくBUMP OF CHICKENの楽曲として、それを受け取るリスナーのための曲として、また新たな意味を持つのだ。
③Aurora
この曲はたしかに、自分が曲作りしている時のことを書いていたんです。そしてそれは、自分だけじゃなくって、僕の身近な友達がやってることにも共通している部分がたくさんあるはずだと思う。僕の友達には営業やってる人もいるし、地元でトンカチ打って家を建てている人もいるし、いろんな人がいるんですけど、そういう人たちにも共通する部分があるんじゃないかと。みたいなことを考えて“Aurora”を書いていた記憶がありますね。
(中略)
(創作に向かうエネルギーが)ポジティブかネガティブかはわからないですけどね……ポジティブにスタジオに入っても、すごくネガティブなところと向き合わなきゃいけなかったりもするから。いつ休めるかな、とかずっと考えているし(笑)でも、作品が生まれる度に「やった、できたー!」みたいな気持ちはありますよね。曲は物体じゃないけど、抱きかかえたくなるような喜びが毎回あって、これがあるからやめらんねえって思いますよね。
(『CUT』2019年7月号)
この楽曲が配信でリリースされ、MVが公開になったとき、これはまさに藤原が自身へと語りかけるような楽曲ではないかと思った。そして、藤原の思考はそこだけに止まらず、何かの仕事や活動に打ち込む人すべてに共通する、何かを生み出す、つくり上げる、まとめあげるという作業に伴う喜びと葛藤にまで及んだのだ。BUMP OF CHICKENが表現するのは、いつだって彼ら自身のことでありながら、誰もが思いを重ねることのできる普遍の感情だ。そのシンプルにして、だからこそ得難い楽曲の在り方を、この“Aurora”は見事に体現している。この楽曲ができたからこそ『aurora arc』は有機的で新しい物語を描くアルバムになったのだと思う。
④記念撮影
僕としても考えた自覚はあって、それは「写真」って言わないようにしようというところですね。写真のことを歌ってはいるんですけど、振り返る時代によって「写真」というものって全然違うじゃないですか。今だと、数年前の旅行の写真を見る時にはスマホのフォルダをスクロールさせていくけど、自分が子どもの頃の写真は紙として存在してる。だから、写真って言いたくないなって。
(『CUT』2019年7月号)
“記念撮影”というのは、撮った写真そのもののことではなく、撮影するという行為について歌っていることで。つくづく、自分はそういうことを表現したい種類のソングライターなんだなと思います。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)
「写真」なら色あせてしまうし、まして「画像」はいつしかその所在を見失ってしまう。それが私たちの日常だ。けれど、撮影したという「行為」は、その証拠がどこにも残されていないとしても、いつまでも記憶として残って、その記憶こそが未来へと続いていく力となるのだと思う。そんな本質的な視点は、だからこそカップヌードルという、それこそ多くの人の「記憶」とともにある商品のCM曲に素晴らしくマッチした。そしてその思考は、『aurora arc』という作品に着地したとき、まさにBUMP OF CHICKENというバンドの在り方と重なるものとして新鮮に響く。
⑤ジャングルジム
最初書いた時に、アコースティックギターの弾き語りのデモテープまで作って、そのあと、“望遠のマーチ”と同じように、ずーっと日の目を見ずに寝かされていて。寝かされた状態のまま、ときどき思い返して、あれどういうアレンジにしようかなと思ってて。でも、俺はわかんなかった。あんまないんですけど、これをバンドでどうやればいいかわかんないっていうのは。したら他のメンバーもスタッフもみんな「わかんない」ってなってて。「弾き語りでいいんじゃねえか?」って言われて、「じゃあわかった」っつって弾き語りで録りました(笑)
(中略)
ドキュメントだから、結局このアルバムって。たとえば“話がしたいよ”とかは、状況的にはひとりの曲だけど、話がしたいと思いを馳せる相手がいるし。そういう意味では、ひとりレベルの部分では、これが一等賞かもしれないですね、このアルバムの中ではね。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)
1人のアーティストが楽曲やフレーズをつくり出す瞬間というのは、音楽に孤独に向き合っている時間だ。時に、そこで生まれてくるプリミティブでピュアな思いは、バンドサウンドに展開することが難しいものだったりもする。“ジャングルジム”は、まさにそんな曲。とりとめのない思いや理由づけなどできない感情は、どこまでいっても誰かと真に共有することはできない。でも《欠けた月の黒いところ》が見ていてくれたと歌うこの曲には、不思議なあたたかさを感じるのである。ちなみに、2017年1〜2月にはデモができあがっていて、そのまま寝かされていた曲だったという。「弾き語り」という生まれたままの姿でリリースされたことで、この楽曲の本質を浮かび上がらせる結果となった。
⑥リボン
解けないわけではないんですよ。解こうと思えば解けるけど、結ぶことを選んできたバンドなんですよね。これだけ続いてきて――その間に続かなかったバンドもあるし、そのことについてとやかく言うつもりもない。それがいいとか悪いとかもない。でも、自分たちが今もこうして続いていることっていうのは、自分たちにとってやっぱりすごい大きなことなんですよ。でもそれは自分たちだけのことであって、それに対してどう思ってほしいとかもまったくないんです。
(中略)
結んできたということだけで目頭が熱くなってしまうんですよ。それはやっぱり、こういう20周年の終わりというタイミングで曲になってしまうんです、必然的に。世の中には、結べなかったバンドが、たくさんいるわけです。でも、結べなかったバンドがそれを歌にするかどうかは置いておいて、歌になってしまうくらいの質量は持っていたはずで。結んで続いているんだということは、10年後だって20年後だって、きっとずっと思っています。願えば叶うわけではないけど、だからこそ曲になるんだと思う。
(『CUT』2019年7月号)
結んでいくこと、つまり続けていくことを選んできたと歌う楽曲で響く、澄んだギターの音、強く穏やかな歌声、そして確かなリズムで牽引するドラムと足跡を刻むように響くベース。この4人で紡いできた音楽が今日まで続いてきたこと、そしてこれからも続いていくことを力強く感じ取ることのできる美しい楽曲だ。上に引用した藤原のインタビューを読むと、《嵐の中をここまで来たんだ》という歌い出しの一節を聴いただけで、この4人だからこそずっとBUMP OF CHICKENというリボンを結び続けて来られたのだという確たる思いが感じられるようになって、よりその感動は深まる。
⑦シリウス
これはお話をいただいてから書いた曲です。『重神機パンドーラ』っていうアニメのタイトルと、資料の絵を1枚見て、「やりたい!」って思って。内容をわかっていないうちから、「すげえかっけえ! やりてえ! ドキドキする!」みたいな。ドキドキするって、行動原理として一番デカいと思うし、それだけで自分のなかでやりたいと思ったんですけど、監督の河森(正治)さんに会ってお話を聞いて、なおやりたいと思いました。そこでお話しいただいたのは量子力学とかの話だから正直難しかったんですけど(笑)、ハートの部分で、自分たちの活動してきたフィールドと重なるところが大きい気がして。実際その重なってる部分に立って言葉を探したら、スラスラ書けましたね。これと“Spica”(『重神機パンドーラ』エンディング主題歌)はそんな感じです。
(中略)
生きてるとポイントポイントで責任について考えることがあるんですけど、その時にやっている作業ってこういう歌詞になるのかなと思いました。自分にとって必要だったんだと思います。
(『CUT』2019年7月号)
TVアニメ『重神機パンドーラ』のオープニング曲の依頼を受けたときの、藤原の「ドキドキする!」という気持ちが、そのままこの曲のビートに重なるようだ。ある意味、アニメ作品の世界に感じたファーストインプレッションに従って「生きる」ことについて思考を巡らせた結果として生まれた歌であり、藤原のインタビューの言葉によれば、「責任について考える」ことがこの歌詞につながったのだとも言える。上記のインタビューはさらに間を置いて「今僕らがツアーの日程を出したら、みんな仕事のやり繰りとかをしてライブに来ようとしてくれるわけじゃないですか。そういう価値を見出してくれる人がいるということは、自分にとって大きいです。そこは忘れたくないなあと思っています」と続く。《一番好きなものを その手で離さないで》という歌詞に至る思いに触れるような気がした。
⑧アリア
メンバーとも話していたんですけど、曲順を考えたり、マスタリングで音を聴いたりする時に「“アリア”もこのアルバムに入るんだよな。前のアルバムに入っていたような気持ちだよな」って。前のツアー(「BUMP OF CHICKEN TOUR 2017-2018 PATHFINDER」)でもやってるし、その前のツアー(「“BFLY”」)の締めでもやってるから、そう思うんですけど。“アリア”と“アンサー”は、そういう感覚です。
(中略)
2017年の1月、2月あたり――“流れ星の正体”、“リボン”、“記念撮影”、“ジャングルジム”の作業がバーッと続いたあたりから、今のアルバムの作業をしているという感覚が強いんです。特に、2017年の2月に20周年イヤーを“リボン”で締めたっていうのが、自分たちの中ではデカいですね。だからこうやってアルバムになると「ああ、“アリア”とか“アンサー”も入るんだよな」と思うんですけど、そういうものが2曲でも入ってるというのが、なんだか嬉しかったですね。
(『CUT』2019年7月号)
前作アルバム『Butterflies』発売以後、最初にリリースされたのが“アリア”だった。2016年「BFLY」ツアー中に書かれ、日産スタジアムでのファイナルで、いち早く披露された楽曲でもあり、その疾走感あふれるサウンドと勢いには圧倒された。当時藤原は「現在ツアー中なので、各地でお客さんから貰ったたくさんのエネルギーが楽曲や演奏に詰まっていると思います」という公式コメントを寄せていて、今振り返ってみれば、「BFLY」ツアーから20周年のアニバーサリーイヤー、「PATHFINDER」ツアー、そして今作へと続いていく中においての、架け橋のような楽曲であると感じられる。『Butterflies』以降を描くドキュメンタリーとしての『aurora arc』を語る上で、非常に重要な楽曲だと思うし、藤原基央のソングライティングの誠実さに改めて触れる思いだ。
⑨話がしたいよ
これは“シリウス”、“Spica”って書いて、“望遠のマーチ”を仕上げて。“望遠のマーチ”を仕上げるっていうのは、さっきも言った通り、レコーディングをするだけのことだから、楽しいうちに終わる、曲をゼロから作る作業ではなくて。けど、わりと過密スケジュールだったので、すげえ疲れて。“シリウス”、“Spica”書いて“望遠のマーチ”完成させて「疲れたなあ……」っていうのがそのまんま曲になった(笑)
(中略)
やっぱり、疲れたなあっていうのが……その時ギター持って、「疲れたなあ……」っていうのが最初に出た言葉だったら、それが歌になっちゃうんですよ。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)
映画『億男』の主題歌としてエンディングで流れたとき、この“話がしたいよ”によって物語の後味が決定づけられたような、そんな不思議な爽やかさとあたたかさを感じたものだ。その楽曲が実は、藤原の倦怠モードから生まれたものであるというのは、なかなかに興味深い。《今までのなんだかんだとか これからがどうとか/心からどうでもいいんだ そんな事は》と言い放ってしまう、その気分がそのまま穏やかなサウンドとともにアウトプットされ、だからこそ、いつにも増して人間らしさを感じる楽曲となった。そんな肌触りを感じるからこそ、“話がしたいよ”という言葉もとても有機的に響くのだろう。
⑩アンサー
行動原理とか事実とか、そういう言葉がさっきから出てきますけど、自分はほんとにそれだけで曲書いてるなと思います。この曲もやっぱりそうですし。それがいいとか悪いとかいう話ではないんですけどね。
(『CUT』2019年7月号)
“アンサー”とかでも歌っていますけど、自分が感じてきたもの、経験してきたことの結果で町ができてると思ってるんですよ。世界は、その人が感じているものが材料となって作られていると思ってるんですよ。だから、曲もそうあるべきだと思うし。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)
リリースの順番としては、“アリア”から約4ヶ月後に配信リリースされた楽曲だが、“アリア”同様、「BFLY」ツアーの最中に書かれた作品である。インタビューで語られているとおり、「自分が感じてきたもの、経験してきたことの結果」として曲があるのだとすれば、この“アンサー”もツアーで感じた想像以上の熱量が、そのサウンドに、歌詞に反映されているということであり、実際その通りのエモーションを感じさせる楽曲である。BUMP OF CHICKENの楽曲にある「核」というか、音楽に向き合う理由、その「答え」が示されているようにも感じられる。
⑪望遠のマーチ
曲自体は、実は“アリア”よりも前に書いていて。そん時はBPMが今の2分の1だったんすよ。歌うテンポ感は今のまま歌うんですけど、ドラムのビートの解釈が2分の1だったんですね。こういう、音楽のことを言葉で伝えるのって難しいなと思うんですけど。倍というか2分の1というか。アップテンポっていう解釈じゃなくて、ミドルテンポって解釈の感じでしたね。ミドルからスローぐらいの。もっとファンクな曲だったんです。俺の最初に作ったアコギのデモテープは。
(中略)
(メンバーは今のバージョンがいいと)言ってくれました。だからメンバーはたぶん、ファンクバージョンを知らないんですよね(笑)。でも名残はあるんですよ、歌のリズムの取り方とか、あちこちに。ギターのストロークにもちょっと残ってたりするし。でも、あのファンクバージョンもすげえいいから。はははははは!(CDとしては)いや、出ないだろうなあ……。いや、でもそれでいいんすよ。俺もそう思ったから、これでGOだってなったわけだし。だから、歴史で言ったら、実は“望遠のマーチ”が一番古いってことになるのかな。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)
配信シングルとしてのリリース自体は2018年7月なので、今作の中では新しめの楽曲と思いがちだが、実は“アリア”や“アンサー”よりも前に書かれていた。インタビューで語っているとおり、元の曲はまるで違った趣だったこの曲が、最適なバンドアレンジを模索しながら「今」のBUMP OF CHICKENの勢いを表すような楽曲に仕上がっていったという、その移り変わりとか、時間の経過、そしてその取り組み自体がバンドの「ドキュメンタリー」だとも思う。それが『aurora arc』というアルバムの成り立ちとも合致するから不思議なものだ。《いこうよ》と軽快なテンポ感で響くサビのメロディの抜けの良さは、このアレンジの試行錯誤の賜物だろう。
⑫Spica
どこかに出発した意識とか、ここまで来たなっていう意識って、出発地点がある人が持つ意識だと思うんですよ。それがぼんやりしていたり、はっきりしていたりはいろいろなんだけど、きっとそこが帰る場所だったんじゃないかと思う。その場所がなくなっちゃった人もいるかもしれないし、まだある人もいると思うし、そこじゃない場所から来たんだけど「ああ、ここだったんだ」と思う人もいるだろうし、未だ探している人もいると思うんですけど……そういうことが歌になっていて。あとは、それを大事に思うってどういうことなのかなって考えた場合に、対象を大事にするっていうことだけでは終わらない、きっと自分に深く根っこが生やされているものなんだろうなっていうところから《その繋ぎ目が僕の世界の真ん中に》になったんだと思います。これは、自分にとっていろんなものの原点みたいな、“ガラスのブルース”を書いた時に近いような、そういうものですね。まあ、どの曲もそういうふうに言えますけど、特にその色が濃いと思います。
(『CUT』2019年7月号)
「PATHFINDER」ツアーのラスト3本の公演、そのアンコールに、藤原ができたばかりのこの曲をひとり弾き語りで披露してみせたことを思い出す。TVアニメ『重神機パンドーラ』のエンディング曲として、“シリウス”と同時期に書かれたものであり、“Spica”は、よりバンドの原点や出発点を思わせる歌詞が印象的だ。大切な人や夢との出会い、その始まりの記憶は、それがどんな漠然としたものであろうとも、その瞬間に感じた予感は永遠だ。だからこそ《どこからだって 帰ってこられる》し、《いってきます》と、何度でもそこから旅立つことができる。BUMP OF CHICKENの原点のことでもあるし、この歌を聴くリスナーひとり一人が、それぞれの「始まり」を重ね合わせることもできる。「生きる」ことの普遍の意味を解くような楽曲だと思う。
⑬新世界
「《アイラブユー》って言ったね」ってすげえ言われたんですよ。すっげえ言われたんです!「バンプが《アイラブユー》ってびっくりしました」ってラジオにもお便りが来たし、友達にも、メンバーにも言われて。でも僕としては至極まっとうなクリエイトだったというか、この言葉は自然に出てきたし、《アイラブユー》だけど《だぜ》なんだけどなって(笑)しかも《だぜ》のあとに、もう一回ていねいに《だ》って言っているんだけどなって。俺は俺の歌詞を書いたと思ってるんですけど、とうとう書いた!みたいな……世にたくさん出ている《アイラブユー》を書いたね、みたいに言われるんですけど、全然そういうものだとは思ってなくて。特別だと思ってるわけでもないですけど、今まで書いてきた曲と同じ流れで書いているだけで。すげえ言われるのもわかるんだけど、説明できないんですよね。いつも通りなんだけどな、って感じです(笑)
(『CUT』2019年7月号)
ロッテの創業70周年を記念したスペシャルアニメーションに提供したこの楽曲は、世代を超えて受け継がれてきた「生活」や「思い」を伝えるかのような映像世界に見事にハマっていた。《ベイビーアイラブユーだぜ》という歌詞が先行して話題となったけれど、ここで歌われる「アイラブユー」は、日常の中で気づく様々な「愛しい」という感情のことであるのだろう。どんな時代を生きてきた人にも共通して感じられる、そしてこれからも変わらない「ラブ」なのだ。決して壮大な「愛」のことではなく、それは日常のふとした瞬間に生まれるささやかな感情であり、タイムレスでこれ以上はないほどに普遍的な感情。小気味の良いビートが、そんなピュアな感情そのもののように響いて胸をときめかせ、聴いていて思わず笑顔になる。
⑭流れ星の正体
これは『B-PASS』での連載が終わる時にできた曲で。その連載は、読者の方からのお便りありきのものだったんです。ラジオと同じく紹介させていただくのはひと握りなんですけど、いただいたお便りは全部読んでいて、そのお便りによってコーナーが支えられていたのはもちろん、俺自身もそれを読んで、いっぱいいろんなことを感じていたんですよね。だから、そういうみなさんからの声が自分にとってどういう意味を持っているか、というのをすごく考えていたんでしょうね。そしてそれありきで、僕の歌がどう機能してほしいかっていうことを、次に書こうと思ったんでしょうね。それで1番は動機の部分で、2番は僕がしたいことになっていったのかな。
(『CUT』2019年7月号)
必ずしもアルバム用にと書かれた楽曲ではないこの“流れ星の正体”が、これほどまでに『aurora arc』という作品のラストを飾るにふさわしい楽曲になるとは。しかし振り返ってみれば、雑誌連載のお便りで触れた多くのリスナーの思いや、ツアーで受け取った熱量など、今回のアルバムはそうしたリスナーとのコミュニケーション(行為)が新たな音楽を生み、それがまたリスナーへと届いていくという、その幸福な循環そのものを描いている作品だとも受け取れる。その思いをストレートに歌詞に綴ったのが“流れ星の正体”であり、エンディングは《飛んでいけ 君の空まで 生まれた全ての力で輝け》という歌声が耳にすうっと入りこみ、そのまま余韻を残すように終わる。リスナーがこのアルバムを聴いて何かを思うという「行為」こそが音楽の本質であると、この楽曲は、そして『aurora arc』は伝えているみたいだ。
上記の記事で引用している発言は現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号、『CUT』2019年7月号から抜粋しました。『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号『CUT』2019年7月号