星野源が『POP VIRUS』という到達点から『Same Thing』という最高の実りへと飛躍した理由

『Same Thing』
この10月に入って突如リリース告知され、10月14日に配信となった星野源のEP『Same Thing』は、オリコン週間デジタルアルバムランキングで初登場1位を記録した。世界を見渡せば、今や告知なしのサプライズリリースも珍しくはない時代だが、このスピード感やリリース形態、タイトルに初めてフィーチャリングを冠した楽曲など、ファンにとっても「すでに何か新しいことが起こっている」という手応えを得るには十分な作品と言えるだろう。

“Same Thing (feat. Superorganism)”が国内ラジオ初オンエアされた、10月8日深夜放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』。藤井隆とのカラオケはこれまでクリスマスシーズンに放送されていた恒例企画だが、その中で星野源はドームツアーの後「燃え尽き症候群」のような状況に苛まれたことを告白していた。『POP VIRUS』という傑作を生み出し、驚異的なクオリティのドームワンマンを5ヶ所8公演(そもそもドームワンマン自体が初めてだった)を完遂するという心身的消耗と巨大な達成感については、想像を絶するものがあった。同放送回の中では、“Same Thing (feat. Superorganism)”の共作が、新たな音楽表現をドライブさせる大きな動機付けとなったことも語られていた。かくしてEP『Same Thing』には、初めてラップに挑戦した“さらしもの (feat. PUNPEE)”、リリースと同時にトム・ミッシュとの共同プロデュース曲であることが明らかになった“Ain’t Nobody Know”を含め、今をときめく気鋭アーティストたちとのコラボレーション曲が3曲収録されたわけだが、実際にEPを通して驚かされたのはむしろ、「外部アーティストに頼る作風には全くなっていない」事実の方だ。

スーパーオーガニズムの、脱力パンク的で賑々しいサウンドと完璧に歩調を合わせるような“Same Thing (feat. Superorganism)”。《滑稽なさらしものの歌/あたりみりゃ 一面のエキストラ》というPUNPEEのヴァースに対して《さらしものだよばかのうた/語りき埼玉のツァラトゥストラ》という星野源でしかあり得ない自嘲ライムでアンサーし、ソウルフルなコーラスへと突き抜ける“さらしもの (feat. PUNPEE)”。そしてトム・ミッシュの洗練されたギターフレーズや粋なトラックが響き渡る“Ain’t Nobody Know”ではファルセットで始まり、湿った情緒を立ち上らせる歌唱力とメロディが、見事楽曲の屋台骨を担っている。

『Same Thing』の豪華コラボレーションによって生み出された3曲からは、外部アーティストと共鳴するための創意工夫を自身の引き出しから次々に開け放つ星野源が感じられる。それらはすべて、我々が知らなかった星野源である。愛を込めて世界にファックユーと告げること。表現者としての孤独を、孤独のままに共有すること。過ぎ去る出会いと別れを、永遠にロマンチックな歌に刻み付けること。ここには、他者との関係性の中からしか生まれ得ないものがそれぞれに結晶化している。他者に頼るのではなく、他者に新しい自分を引き出してもらうことが、星野源の新たなモチベーションとなっていたのだ。

EPを締めくくる4曲目、まるで古くから伝わる唱歌のように響き渡る素朴でフォーキーな“私”は、まさに他者との関係性の中で築かれる揺るぎない自我の歌だ。《あの人を殺すより/面白いことをしよう》。他者を生かすことでしか自分自身は生きられないという切実な確信の中に、星野源は自らの居場所を見出している。邦楽・洋楽の枠組みや表現ジャンルの垣根も越えたユニバーサルな視点からその自我を探り当てた星野源の歌は、「すでに何か新しいことが起こっている」という『Same Thing』の感触を裏付けているはずだ。(小池宏和)