星野源はなぜ今世界へと羽ばたく決心をしたのか――その全てを語った『ワールドツアー ライブ&インタビュー』を観た

2月15日にNHK総合にて放送された『星野源スペシャル 〜ワールドツアー ライブ&インタビュー』では、2019年に上海、ニューヨーク、横浜、台北を回ったワールドツアーを、独占のインタビュー映像、ライブ映像のダイジェストを元に星野自身が振り返る内容だった。

昨年、星野はワールドツアー「“POP VIRUS” World Tour」の前に日本人男性ソロアーティストとして史上5人目となる5大ドームツアーを成功させた。「いつもだったらこの次のことがすぐ思いついている」はずが、「今回は何も思いつかなかった」。星野は初めて燃え尽きたような感覚になったという。

「ああ、なんか終わっちゃうかも、俺の音楽人生」というところまで考えた星野だったが、様々な出来事で再びモチベーションを上げていく。そのひとつとして挙げていたのが、2018年末にライブでの共演を機に出会ったマーク・ロンソンの存在だ。マークに認められたことで、日本だけでなく、世界に自分の音楽が届く実感があったという。作詞・作曲・編曲・プロデュースまで全てをひとりで行ってきた星野はそこから、「いろんな人の音楽にもっと触れたい」と心境が変化していく。

今回はそんなマークが星野について語ったインタビューも放送された。マークは星野の音楽について、「とても楽しいしノリがいいけど、同時にとても洗練されている」と称し、「ジャズやゴスペルのコード進行の影響を感じる。アース・ウィンド&ファイアーを思い出す」と語る。マークが大好きだという星野の楽曲“Week End”についても、星野に制作過程を聞いた際ギターで作曲したということに驚き、「こんなジャズっぽい洗練されたコード進行をギターで作曲するなんてすごい。そういうところをリスペクトしている」と絶賛。マークがギターで参加したワールドツアー横浜アリーナ公演での“Week End”のライブ映像も放送され、ヒットメイカー2人がステージに並んで音楽を届ける姿は圧巻だった。

今回のインタビューで星野は「コミュニケーション」というキーワードを多用していた。「ドームツアー後の一番のテーマはコミュニケーション」とまで言っている。マークとの出会いから始まり、国外でライブをすることも星野が語るコミュニケーションのひとつ。そして、ビジネス的な触れ合いではなく友達として触れ、音楽でコラボレーションすることもコミュニケーションだ。昨年10月にリリースされたEP『Same Thing』は4曲中3曲が自身初となる他アーティストとのコラボ曲。タイトル曲“Same Thing (feat. Superorganism)”はスーパーオーガニズムとコラボしている。そのスーパーオーガニズムのボーカルであるオロノと共演したニューヨーク公演でのライブ映像も一部見ることが出来た。この曲を時折目を合わせながら歌い、最後は抱擁を交わし感謝を伝え合う。まさに、星野が言うところのSNSとは違う、目の前に人間がいることで生まれる真の意味でのコミュニケーションがそこにはあった。


“Same Thing (feat. Superorganism)”は、6畳ぐらいの場所で好きな音楽を共有したり、お菓子を食べたりしながら楽しんで共作したという。そんな曲を「(世界中の観客が)全員絶叫して歌ってくれてるって最高だな」と星野は満足げな表情で語っていた。確かにダイジェストだけでも“Same Thing (feat. Superorganism)”に限らず、星野とバンドの演奏に対して日本よりもさらに分かりやすく観客が熱狂しているように見えた。とりわけ、千秋楽の台北でのアンコール後の映像は感動すら覚える空間だった。BGMに乗せて自然発生的に“Pop Virus”の合唱が起き、星野も感動しながら笑顔で歌い始める。思わず「すげぇな! ぜんぜん帰る気配がないじゃん!」と言いながら「もう一曲やるから!」とギターを担ぎ、他の公演では歌っていなかったEP『Same Thing』の最後を飾る曲“私”を弾き語りで披露した。偶発的とはいえ、バンドを含め信頼するプレイヤーとコラボレーションしながら世界を回った最後の一曲が弾き語りに回帰するというのが、原点を疎かにしない星野らしい選曲だと感じた。

星野は初詣でこの数年「休めますように」とお祈りしていたのが、今年は「もっと面白くなりますように」とお祈りしたそう。それは、ワールドツアーをはじめとした、様々な音楽家や世界中のファンとコミュニケーションをとった2019年が楽しかったからだ。Instagramを始め、自身の全楽曲のストリーミング配信もスタート。世界中の人が星野の音楽とメッセージを受け取れるようになった。「世界とか遠い場所を近所にしたいと思った」と語り、「ワールドって1回言いたいだけ」と冗談めかしつつ、ワールドツアーではなく本当は「ご近所ツアー」なのである、と星野は話した。日本も世界もボーダーレスに進み始めた星野が2020年はどんな面白い景色を見せてくれるのか、楽しみで仕方ない。(菊智太亮)
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする