Novelbright、初のフルアルバム『WONDERLAND』完成――全曲レビューで紐解くロックバンドの未来
2020.06.03 13:00
Novelbright。その歩みは「ネットで拡散してバズった」という(事実だが)今っぽい形容とは裏腹に、常にファンに寄り添い、泥臭く自分たちの音楽を届け続けてきた日々の連続だった。満を持してリリースされた1stフルアルバム『WONDERLAND』のバラエティの豊かさとストレートなメッセージは、そんな彼らの歴史そのものだ。そして、そこから彼らはさらなる未来を夢見ている。文字通り新たな「はじまり」を刻んだ渾身の1作を全曲レビュー、アルバムを聴きながらじっくり読んでほしい。(小川智宏)
アルバムのオープニングを飾るのは、彼らにとって初のタイアップ曲(アサヒスーパードライのWEB限定CMソング)となり、今年1月に配信リリースされた“ランナーズハイ”だ。アレンジ的にも、歌詞の内容的にも、このアルバムにおいては「Novelbrightからの挨拶」として機能している。ねぎ(Dr)の手数の多いドラム、圭吾(B)のなめらかに動くベースライン、沖聡次郎(G)と山田海斗(G)のツインギター、そして竹中雄大(Vo)の伸びやかな歌。5つの個性がバランスよく(というか、全部全力で)注ぎ込まれたアンサンブルにのせて歌われる《仲間と風を切って/未だ見ぬ世界を目指したいよ》というメッセージ。まさに今のNovelbrightのセルフポートレートだ。
“ランナーズハイ”に続くのは、さらにストレートなロックサウンドがきらきらと光るメッセージソング。エモーショナルな雄大のボーカルに寄り添うようにギターがメロディアスに鳴り、未来への希望をぐんぐん膨らませていくようだ。《いつだって逃げ出せる瞬間はあった/でも自分に負けたくない涙も全部自信に変えて》、《間違ってもいいじゃん/不器用でもいいじゃん/この先で約束を果たせれば》――そんな、ある意味でまっすぐすぎるメッセージが説得力をもつのは、この5人が集まるまでの物語、そしてここまで歩んで来るまでの泥臭い歴史があるからだ。Novelbrightの王道ロックバンドとしてのタフさを物語る曲だと思う。
カネボウ KATE「レッドヌードルージュ」のWEB CMソングとして先行配信リリースされた“君色ノート”。少しテンポを落としながらも裏打ちのハイハット、シンセストリングス、アコースティックギターの音色によって軽やかな印象を描き出す、新鮮でハイクオリティなポップチューンだ。眩しい恋の季節を思い出すラブソングの体を取りながらも、歌詞では《メロディ》、《五線譜》と音楽のモチーフを引き出していることからもわかるとおり、ここにはバンドの、あるいはバンドとファンのつながりも歌い込まれているように思える。切ない記憶を甘酸っぱい思い出に昇華するメロディの上昇感が気持ちいい。
ライブ会場限定で発売された自主制作アルバム『BRIGHT 1』(現在は廃盤)に収録されていた楽曲を再録。現在のレパートリーのなかではいちばん古い曲だそうで、ファンにとってもメンバーにとっても思い入れのある楽曲だろう。ちょっとダークでシリアスなサウンドメイクと、女性視線で書かれたヒリヒリとした切実さを感じさせる歌詞(それを歌う雄大の表現力も素晴らしい)はこの『WONDERLAND』においては異質ともいえるが、一方ではこうして新しい曲たちのなかに入ることによってNovelbrightというバンドの奥行きの深さを示す楽曲にもなっている。それこそ“君色ノート”と好対照を描くアルバム前半のキーポイント。
口笛を使った意表を突くイントロ、ピアノが軸となったアレンジ、人の笑い声から猫の鳴き声、ハンズクラップといった遊び心のあるサンプリング、そして慌ただしい朝の《戦争》を歌った歌詞。アルバムだからこそ成り立つ明らかな変化球曲だが、それをここまでクールにまとめてしまうのがNovelbrightのおもしろさだなと思う。歌詞の内容をよく読めば本当に日常的というか、要約すれば「寝坊してマジヤバい」というようなことに過ぎないのだが、それを言葉選びのセンスで描き切る雄大、さらに満載のアイディアによってドラマティックに変貌させてしまうバンドアレンジ。引き出しの多さとそれを形にしてしまう発想力というこのバンドの強みを、実はよく表している1曲。
“ENVY”=「羨望」というタイトルがつけられたこの曲で歌われているのは、ネット上に氾濫する情報を鵜呑みにしてすべてを知った気になり、安全圏から好き放題言っている人々に対する痛烈な批判だ。いつになく直接的かつ攻撃的な言い回しで思いをぶちまける雄大の歌詞の背景にあるのは、もちろん、SNSを駆使してバンドの認知をここまで広げてきた「当事者」としての実感だろう。しかしいうまでもなくNovelbrightは愚直すぎるほど愚直に「足」を使ってファンベースを築いてきたバンドであり、だからこそ最後に雄大は《答えはここで見た光景》と自分たちの矜恃を示すのだ。デジタルでダンサブルなサウンドデザインも含めて皮肉の聴いた異色作。
“おはようワールド”、“ENVY”というアナザーサイドオブNovelbright的な流れから一転、再び王道のNovelbrightがドカンと伝わってくるロックチューン。ストレートさのなかに、心を撫でるようなピアノの音や中盤で入ってくるワルツのリズムが変化をもたらしている。この“夜空に舞う鷹のように”はもともと2017年に会場限定でリリースされたシングルに収録されていた楽曲。メンバーによればRO JACKのコンテストで負けた悔しさをバネに作ったということだが、《誰一人に認められなくても/僕らの心は揺るがない》という歌詞、そして3分少しの楽曲のなかに詰め込まれたアイディアの密度は確かに、バンドの自負を突きつけるような固い意思の表れなのだろう。
昨年のミニアルバム『「EN.」』に収録された“ふたつの影”に連なる絶品バラード。これまでの作品を聴いても強く感じるが、気持ちの強さと線の細い儚さの両方を兼ね備えた雄大の歌の魅力を最大限に引き出すのは、やはりこうした歌い上げるタイプの楽曲だと思う。それをバンドとしてもしっかり認識しているのだろう、彼らはバラードを作るとなったら一切小細工なし、すべての音が歌に寄り添うようなアレンジをしてくる。この曲でも1番のサビが終わるまではピアノとアコギに薄くストリングスが乗るのみ、ドラムもベースもエレキギターも入ってこない。そしてやはり雄大の歌唱が素晴らしい。繊細なナチュラルビブラートが心の揺れを言葉以上に描き出している。
この“スタートライン”も過去曲の再録。2017年の自主制作盤『Chandelier』に収録されていた、ファンにはおなじみの曲だ。アルバム1曲目の“ランナーズハイ”と同じように、まっすぐに未来を見据えて前に進んでいく覚悟がにじむ歌詞だ。この曲を聴くと、Nobelbrightはこうして何度も「スタートライン」を踏み越え続けて来たのだなと思う。何度もスタートを切り、何度も諦めかけ、それでも何度も前を向き続けてきたバンドの基本姿勢が、こうした楽曲にポジティブなメッセージとなって表れる。もちろん聴き手にとっては背中を押されるような頼もしさを感じる曲だが、それはバンドの揺るがない決意そのものでもあるのだ。
本作中唯一、雄大以外のメンバーが歌詞を書いた楽曲。《唇が触れあってこの手に抱かれ/愛されたフリしてあなたに溺れて》とアダルトな恋模様を妖艶に描いているのはギターの海斗だ。同じく彼による“the Eternal oath”(『「EN.」』収録)とも呼応する、壊れていく愛の風景を独特の言葉遣いで表現していくその筆致は、どちらかといえばシンプルでストレートに思いを書きつける雄大の作詞とは違う顔をNovelbrightにもたらしている。スケール大きく展開するサウンドと、まるで演じるように情感をなぞっていく雄大の歌が、海斗の世界観をドラマティックな映画のように染め上げている。
アルバムの最後を飾るこの曲は、彼らが路上ライブで全国を回っているなかで作られたものだという。《土砂降りの雨の日も/炎天下続く日も/僕たちは旅に出た》という歌詞に刻まれているのはそんな日々のことだ。そして《ぬかるんだ足下で/転げてしまう時は/君が僕らを救ってくれたんだ》というファンへの揺るぎない信頼と、《約束さ50年後の未来も/きっと僕らは同じ時を刻み息をしているよ》という意志。このアルバムを受け取ってくれる人へのメッセージをはっきりと綴ったこの曲は、Novelbrightの生き様そのものだ。過去を引き連れて今立った場所から、新たに始まる未来に向けて投げかけられた、Nobelbrightの決意表明である。
2019年、路上ライブで全国を行脚し、SNSでその動画が拡散されることによって注目を浴びるようになった