アメリカを覆い尽くす難題に立ち向かった『2020』――歴史の証人としての使命に駆られた壮大なロック・アルバムを、ジョン・ボン・ジョヴィが語り尽くした!

『rockin'on』2020年12月号より

コロナ危機が高まる中、プレス作業をいったんすべて停止して欲しいと依頼した。もっと曲が書けるかもしれないと思ったからね

 
10月の到来とともに届いたボン・ジョヴィの新作『2020』は、その表題が示す通り、この年だからこそ生まれ得たアルバムであり、他のどんな時代とも異なる今現在の現実が色濃く反映された一枚になっている。

そもそもの発売予定は5月に組まれ、それに沿って先行シングルも登場していた。が、ジョン・ボン・ジョヴィはそのプランを急遽変更し、曲作りを再開。そこで書かれたのが《普段通りのことができない時は、自分にできることをやればいい》と繰り返す“ドゥ・ホワット・ユー・キャン”と、《アメリカの受けるべき報い》について淡々と歌われた“アメリカン・レコニング”だった。この2曲が加えられたことで、アルバムはいっそう生々しいリアルさを増すことになった。なにしろ前者の歌詞には《ソーシャル・ディスタンス》という言葉まで登場するし、人けのないマンハッタンで撮られたそのビデオ・クリップは、まるでジョンを案内役とするドキュメンタリー映像のようでもある。

ただ、重要なのは、かならずしもこの2曲だけが特殊であるわけではない、ということだ。なかには人種差別問題、後を絶たない銃乱射事件などを題材としていることが明らかな楽曲もある。アルバム全体に必要以上に楽観的な空気はなく、《人生に限界はない》というメッセージが前面に押し出された“リミットレス”にすら、悠長に過ごしていることを許さない非常ベルのような響きが伴っているほどだ。そうした歌詞の面からも、いっそうジョンのシンガー・ソングライター的側面が強調される結果となっている。ちなみに1962年3月生まれのジョンは、現在58歳。あのバラク・オバマのひとつ下にあたる。そうした年齢にあるひとりの人間として目を背けることのできない現実が切り取られている、と解釈するのが自然だろう。サウンド面においても、突き抜けるような高揚感よりも大地に深く根を張るような落ち着いたたたずまいが感じられ、一部では相変わらず80年代の象徴のように形容されることのあるこのバンドの音楽が、いっそう普遍的なアメリカン・ロックとして熟成されていることがよくわかる。

そうした実に深みのある作品であるだけに、今のジョンに訊いておくべきことは山ほどある。ただし、本作発売に際してのメディアへの対応時間はごく限られたものとなった。今回お届けするのは、日本のメディア向けの公式インタビューとして9月下旬に実現した彼との対話の一部始終である。ちなみに回答は全て映像データで送られてきた。ともかくこれが『2020』発表に伴うジョンの貴重な肉声であることは間違いない。映像の中にいる彼はまっすぐにこちらを見据え、まるでニュース番組にリモート出演しているかのような雰囲気で語りかけてくる。不思議なもので、その言葉に耳を傾けていると「ここから先は君たちが個々に考えて欲しいし、その審判は委ねるよ」という無言の呼びかけが聞こえるような気がしてくる。読者にとって『2020』を解く鍵となり得ることを願っている。(増田勇一)



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『rockin'on』2020年12月号