The 1975、時代の不条理に真正面から対抗したアルバムとバンドの哲学――最新インタビューが解き明かした傑作『仮定形に関する注釈』の「もうひとつの真実」


「クリエイティブなことに関わりたいなら、なにかを言う準備はしておいた方がいい。なぜなら人々は本当に無意味さを感じているから。これが終わったら戦後のような気分になると思う。上っ面だけのなにかが世界を変えるなんて想像できないね」


The 1975の最新アルバム『仮定形に関する注釈』がリリースされたのは2020年5月。今回のインタビューはその発売タイミングで行われたものだ。

昨年5月は世界がパンデミックの真っ只中にあった時期であり、ここでもロックダウン中のマシュー・ヒーリーにFaceTime越しで話を聞いている。マシューの分裂した自我を取り繕うことなく、すべてをぶちまけた『仮定形〜』の81分のカオスは、偶然か必然か、あの時期の我々の混乱と茫洋たる不安に驚くほどフィットする作品だった。

本インタビューの記者も『仮定形〜』の時代先見性について指摘しているが、マシューは新作の宣伝に打ってつけのその指摘をさらりと流している。彼の発言からは既に意識を先に向けていること、今現在の自分が生きる社会の有様に目と耳を凝らし始めていることがうかがえるはずだ。

実際、ツアーをすべて白紙に戻した直後、彼は早々にスタジオに戻り、現在も新曲制作はたゆまず進行中だ。The 1975が時代を乱反射する表現体であり続けているのは、こうしてあなたや私、そして自分自身の「今の気分」を理解しようとし続けているからこそなのだ。 (粉川しの)



The 1975のインタビューは、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

『rockin'on』2021年8月号