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  大変だ!! ステージ前の柵が拡張されて、まだライヴ開始まで15分もあるのに、とんでもない数の人がスタンディング・ゾーンに集結しています! そう、みんなが待っているのだ。疾走するビートで頭をむんずとつかんで振り回し、泣きのグルーヴとメロディで見たことのない風景を見せてくれるあの3人を!
やがてアバの“ダンシング・クイーン”に合わせてHAWAIIAN6登場! クラッチが自分で着ていたフェスのオリジナル「ロックスター」Tシャツを脱いで高く掲げる。早くも期待にみんなの体がざわざわと揺れ始める。1曲目は“Magic”。タイヤのベースが軽やかにリズムを刻むと、まさに彼らの魔法が効力を発し始める。それは終わらない夏休みがないように、死を迎えない人生がないように、決して永遠には続かないけれど、だからこそみんなを陶酔させ、踊らせるのだ。
 2曲目の“The Fate Suite”に続いて新曲“The Thousand Of Snow”は優しいギターのストロークから一気に加速してクラッチのハイ・トーンでえぐりこむようなコブシの効いたメロディが、まさにHAWAIIAN6の泣きの世界をさらに広げていく曲。そして「歌を歌ったって戦争は絶対なくなりません、でもこれは反戦の歌です」というディーゼルの半ば怒気を含んだように真剣な一言から名曲“An Apple Of Dischord”、そして“Black Crows Lullaby”へ。絶望の果てにしか見えない光を描こうとするバンドは数多いけれど、彼らの見つけた激しさと暖かさの調和は、一度聴くと心の奥にじっとりと残る。
続く新曲“Good Bye Yesterday”もイントロから突っ走る展開で、夕闇がゆっくりと空気を支配し始めたレイク・ステージの加速は全く揺るがない。そして“A Piece Of Stardust”のどこか子守唄にも似た響きの後、“Eternal Wish, Twinkle Star”のへヴィなリフと駆け上がるギターの音色に一面の握り拳が一気にはねる。みんなの天井知らずの歓喜の叫びがクライマックスの近さを告げる。あたりはもう、すっかり夜だ。
「俺は昔観に行った豊洲のイベントの素晴らしい思い出を忘れないし、いつかそういう風になりたいけど……、これは大好きな人のための歌です“A Love Song”!! 」 みんなが、いっせいにぴょんぴょんとはねる。どうしようもなく楽しくて、聴覚から体全部を一瞬で乗っ取ってしまうような楽曲なのに、どうしてこんなに優しい空気を奏で出すことができるのだ。快感ではなく、愛情に似た柔らかな気持ちがレイク・ステージに河のように流れている。これがHAWAIIAN6の力だ。
「みんなが空を飛ぶための最高の日本語を言います!それは……あきらめないこと!」“Promise”に続いてディーゼルがそう言って始まった最後の曲“EVER GREEN”で、 きらきらとしたファルセットのコーラスの余韻を残して彼らはステージから去った。誰も動かない。
  そう、まだ終わらせたくないのだ。せめて、もう少しだけ……、その想いが臨界点に達したころ、彼らは戻ってきた!
「照明はつけっぱなしにしておいてください。みんなの顔が見えるから」とディーゼルが言うと、闇に浮かび上がる笑顔がいっせいに輝く。オーラスを飾ったのは初期の名曲“Flower”!! 「僕はここだ、僕はここに立っているんだよ」というメッセージが胸に刺さる。最高だ。
すべてが終わってしまうと、oiコールをしながら輪を作ってかけがえのない瞬間を得た思いを共有するもの、明日から始まる日常のことを胸に秘めて静かに歩き出すもの、それぞれが大きな贈り物と宿題を受け取ったアクトだった。いま、グラス・ステージでは最大のフィナーレに向けていよいよすべての物語がひとつのクライマックスを迎えつつある。でも、ここではもう決して再生のできないひとつの祝祭が終わってしまったのだ。悲しくはない、さあ、歩き出そう。(松村耕太朗)

1. Magic
2. The Fate Suite
3. The Thousand Of Snow
4. An Apple Of Dischord
5. Black Crows Lullaby
6. Good Bye Yesterday
7. A Piece Of Stardust
8. Eternal Wish,Twinkle Star
9. A Love Song
10. Promise
11. Ever Green

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