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銀杏BOYZ、Rhymesterと、夏の日差しをがっちり掴んで走りぬけた熱血パフォーマンス・アクトを終えた今、レイク・ステージは夕暮れ時の風と共に、火照ったムードをゆっくりクール・ダウンさせようとしてるみたいだ。そしてそんなムードと入れ替わるように、ステージには曽我部恵一with ダブルオー・テレサが登場した。

のっけから新曲“サンデイ”だ。そう、のっけからロックンロールだ。「サイモン・アンド・ガーファンクルが胸の奥で歌ってる」という一節があるように、この曲の根本にある曽我部ならではのフォーキーな歌心は不変なんだけれど、そのプレゼンが圧倒的にラフでロウなロックンロールなのだ。with ダブルオー・テレサ名義での活動にシフトして以来、ピュアなバンド・サウンドに磨きをかけてきた彼の現在が、あらんかぎりのパッションと共に転がり出てくる。続いてまたも新曲、“スワン”。なんていい顔をしてるんだろう。ダブルオー・テレサのメンバーと眼差しと微笑みを交わしながら、思い切りのいいストロークをかましながら、生まれたてのロックを鳴らしていく。ステージ上の5人は「初々しい」と言ってしまいたくなるほど、演奏する喜びに溢れている。

「最高です、何が最高って、あんたたちが最高です。OK、楽しもうね」
そう言う曽我部自身が、誰よりも楽しそうな笑顔を見せる。「じゃあ、久々にこの曲をやるよ」といって流れ出したのは“サマー・ソルジャー”だ。フィールドから悲鳴のような歓声が上がる。まるでこの曲を待っていたかのように、風が強くなってきた。誰かが吹いたしゃぼん玉が風に流されて中空を頼りなげに横切っていく。そんな夏の夕暮れ時に聴く“サマー・ソルジャー”。それはいくら感傷的になったって許されるシチュエーションだけど、今日はむしろ感傷に浸るよりもこの曲が持つ普遍性という「強さ」に胸打たれてしまった。だから涼やかな風で癒されつつある我々の身体とは対照的に、ステージ上はかえって温度が上昇してるようにすら思える。
「毎年来てね、海に入るんだよ。今年は入らなかったけど。夕方には……夕方には……」
そんな曽我部のMCをイントロとしてスタートした“浜辺”。サックスがフィーチャーされたこの曲をきっかけに、今日のロックンロール・モードにも変化が訪れる。彼らがこのフリーなセッションを心から楽しんでいる様子が素晴らしい。彼らが奏でる音楽の自由と、彼らの魂の自由が、完全にイコールだってことがわかる。

そして、曽我部はやはり素晴らしい「歌唄い」だ。彼が漏らす密やかな吐息のひとつひとつにすら、耳が吸い寄せられていく。そう、どんなにセッションが重層化していこうとも、大前提として曽我部の声は常にその全ての最前列にある。なんていえばいいのかな、彼の歌声には侵しがたい神性みたいなものがあるのだ。彼の歌に引きずり込まれているうちに、気が付いたらバンドはゴージャスなソウル・セットへと転じていた。感嘆の溜息と共に大きな拍手の輪が広がっていく。
しかし、その余韻を敢えて断ち切るように“瞬間と永遠”の8ビートがズタン! ズタン!と打ち込まれていく。すごい! 畳み掛けるように“STARS”へ。アップリフティングな祝福の歌が続く。そしてラスト・ナンバーは今日発売になったばかりのニュー・シングル、“LOVE-SICK”だ。「あなたに会う前から/あなたのこと知っていたような気がするから」。そんな運命的な恋わずらいの風景を、まるで当然の風景のように歌う曽我部。レゲエのリズムでそよぐメロディ。肩の力は抜けきった様子なのに、どこまでも大きく、力強いパフォーマンス。大団円だ。

円熟のフォルムを持ったソウルネスと、初々しいロックンロールの喜びが完全に同期した、素晴らしいライヴだった。いつまでも彼のように音楽と人生を愛していけたなら、それはなんて幸せなことなんだろう。そう思わせてくれたライヴだった。(粉川しの)

1. サンデイ
2. スワン
3. シモーヌ
4. サマー・ソルジャー
5. 浜辺
6. 瞬間と永遠
7. STARS
8. LOVE-SICK