今週の一枚 ウータン・クラン『ア・ベター・トゥモロウ~ウーが描く未来』


ウータン・クラン
『ア・ベター・トゥモロウ~ウーが描く未来』
発売中

 不思議なアルバムである。
 当初は首謀者RZAが目指している方向性が気に食わないと、中心的メンバーのレイクウォンやゴーストフェイス・キラが参加を反発していたことが報道されていたが、どうやらそこら辺のわだかまりも解消されたらしく、めでたくリリースされることになったウータン・クランの7年ぶりとなる新作『ア・ベター・トゥモロウ』。確かに彼らのトレードマークの硬派でハードコアなビートやラップは控え目になり、生楽器の演奏にこだわったサウンドと、やたらとフィーチャリングされるソフトなヴォーカル・コーラスに驚くオールド・ファンも多いだろうが、おどろおどろしいSEやカンフー映画のサンプリングは健在だし、なによりも冒頭から亡くなったはずのオール・ダーティー・バスタードがいきなり登場したりしていて長年のファンへの気配りもしっかりしている。さすがRZA(“40th Street Black/We Will Fight”で”Liquid Sword”のリリックが引用されているのも聴き逃すな)。
 ただ、個人的にこの作品を聴いてもっとも違和感を覚えるポイントは、“良き明日へに”というタイトルが示しているように、全面的に漂うポジティヴなヴァイブ。いや、別に悪いことではない。昨年、デビュー20周年を迎えたグループなだけにメンバーは全員40代に突入しているわけで、かつてのように暴力と犯罪まみれのストリート・ライフについてばかりラップされてもさすがに困る。ただ、たとえば「おれたちには奇跡が必要だ」と懇願する“ミラクル”やキング牧師のスピーチが引用され、「夢を絶対に手放すな」と励ます“ネヴァー・レット・ゴー”など、ウータンのあまりにも善良な一面が赤裸々とさらされている曲を聴くと、なんだかこっちが照れくさくなってしまう。まあ、当初からストリート・ライフのリアルを物語るのと同時に、そこからサヴァイヴするためには“ナレッジ(=知識)”と“ウィズダム(=賢明さ)”がいかに大切かってことを説いてきたグループであるからこの進化は当然と言えば当然なんだろうけど。
 そんな“大人なウータン”による作品を引き締めているのはやはりタイトル・トラックの“ア・ベター・トゥモロウ”。「世界は良くならない、俺たちがこのまま放ったらかしにしてたら」というコーラスが深い印象を残すこの曲。説教臭いところも多少あるが、政府に期待するのではなく自らの手で現在の状況を改善しよう、と黒人コミュニティを鼓舞するこの曲は、それこそ「仙人なみ」の“ナレッジ”と“ウィズダム”を身につけた現在のウータンならではの力作。最近頻発している警察による理不尽な暴力に対するオバマの演説と市民によるデモ活動の映像、さらにはリリックにも登場するキング牧師とマルコムXの映像がモンタージュされたビデオも必見である。

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