その人そっくりのクローン(ライフキャスト)を生み出すことができる技術が発展した近未来の日本を舞台に、かつて一世を風靡したバーチャルアイドル・黄昏キエラのライフキャストの制作依頼が届くところから物語は始まる。そして、黄昏キエラの中の人は急死しており、友人でもあるマネージャーが2代目として活躍していたこと、そんな彼女も現在は入院中で、まもなく寿命を全うしようとしているタイミングで、最期にもう一度ライブをおこないたいという思いを持っていたことが途中で明らかになる。ドラマのクライマックスとなる黄昏キエラのライブシーンは完成度が高く感動的で、黄昏キエラがドラマの中だけの存在で終わってしまうのはもったいないとさえ思った。
ところが、確かに「黄昏キエラ」は架空の存在なのだが、あの声と音楽は現在進行系で実在している。
黄昏キエラを演じていたのは、七海うららというリアルとバーチャルを行き来するパラレルシンガー。動画配信などではアバターで出演しているが、ライブはリアルの姿でおこなっている。
劇中で披露されていた“Seventh Heaven”も、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也が楽曲提供した七海うららのオリジナル曲。ドラマの中の設定にあれほどまでに説得力を感じたのにも合点がいく。激しく上下する田淵節が炸裂するメロディラインはそう簡単に歌いこなせるものではない。
そして彼女自身は、20代早々にして乳がんを患ったていたという壮絶な経歴も持っている。片胸を全摘出した闘病経験をもとに作られ、義足のアバターがMVに登場する“あたしワールド”は、七海うららというシンガーを知るうえで欠かせない1曲だ。
放送後には、このドラマのために書き下ろされた最新曲“茜光”もリリースされた。自身初のバラードで、MVには黄昏キエラと手を合わせる姿も描かれている。ドラマとは違い、実際に会うこともできるパラレルシンガーの七海うらら、ぜひたくさんの人に出会ってほしい。(有本早季)
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