ブロンドシェル ―― コートニー、フィオナ、PJハーヴェイの系譜を継ぐ、若きクイーンとは?

rockin'on 2023年7月号 中面

いま、ロックがいかにして生々しい感情を解き放つための音楽となりえるか。ここのところ、そんな命題に向き合う新世代のアーティストの活躍が目立っているが、ブロンドシェルはそのなかでも際立った才能だ。4月にリリースされたデビューアルバム『ブロンドシェル』は、今年のロックを代表する一枚としてすでに熱い注目を集めている。

ブロンドシェルを名乗るサブリナ・タイテルバウムは、ニューヨーク出身で現在はロサンゼルス拠点のシンガーソングライター。インディポップユニットのバウムとして音楽活動をスタートするが、音楽性に確信が持てなかったためにその名義を捨て、コロナ禍の中で子どもの頃に親しんでいたロックを再訪しつつブロンドシェルとして再始動する。そしてインディの名門パルチザン・レコードと契約し、急速に存在感を示すこととなった。

鮮烈なファーストアルバム『ブロンドシェル』は、90年代のオルタナティブロック、とりわけグランジからの影響が強く感じられる一枚だ。荒々しいギター、穏やかさと激しさを行き来するリズム、内側に渦巻いていた感情があふれ出るように狂おしさを隠さない歌と叫び。ブロンドシェルはコートニー・ラヴリズ・フェアフィオナ・アップルPJハーヴェイといった女性アーティストたちの遺産を引き継ぎ、現代を生きるひとりの女性の心情をロウなギターサウンドとともに吐露しているのだ。

歌のテーマは重々しくダークで、中毒や社会に対する不安、ドラッグ、不健全な恋愛関係、そして怒りが包み隠さず描写される。また彼女はバイセクシュアルであることをオープンにしており、クィアネスの探求もアルバムの重要なモチーフになっている。そうした正直さやリアルさが、ブロンドシェルのロックを単なるリバイバルで終わらせていない要因だろう。

この秋にはリズ・フェアのツアーのオープニングアクトを務めることも決定しており、ますます広い層にリーチするのは間違いない。けれどもブロンドシェルの音楽は何よりも、リスナーひとりひとりに深く突き刺さる切実さを誇っている。 (木津毅)



ブロンドシェルの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。