アノーニが、7年ぶり6 枚目の新作『My Back Was A Bridge For You To Cross』を7月7日にアノーニ・アンド・ザ・ジョンソンズとして発売する。「私の背中はあなたが渡るための橋」というタイトルに、ファーストシングルも“It Must Change”(=変わらなくてはいけない)で、早速強烈なメッセージを放っている。
アノーニはこれまでも、地球温暖化への懸念から女性性への嫌悪まで、クィアという立場から悲しみと反抗を露わにしてきた。それは今作でも同様だ。しかし、“It Must Change”の心地よく自然と心に浸透するギターサウンドが流れた瞬間に、サウンドや視点に大きな変化があったことが明らかに分かる。全体を通してもソウル、R&B、ジャズ、フォークよりの柔らかで新鮮な響きに興奮させられるのだ。そこに70年代エクスペリメンタルロックサウンドなどが入ってくるのも彼女らしい。
「マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』のことをよく考えていた」と言うのも納得で、「50年以上前のポピュラー音楽で初めて提起された地球や環境への懸念に対して、今現在の感覚で応えている」と語る。また「今作のテーマは、これまで同様“今何が起きているのか?”なのだが、それをこれまでやったことのない方法でやった」とも語っている。具体的には、今作でギターも弾くプロデューサーのジミー・ホガースとデモテープから初めてコラボで作曲。それがこれまでにない調和を生み出している。
視点の変化も、“It Must Change”では《ここから抜け出せない/だから悲しい》と繰り返すのだけど、「絶望」に直面したからこそ、「諦めて拒絶するのではなくて」、それを超越した場所から受け入れて、優しさや慈悲の眼差しでエネルギーを変換しようとしている。より壮大で普遍的な視点から新境地を目指した作品。
マーシャ・P・ジョンソン、マンロー・バーグドルフ、ジュリア・ヤスダなどのアクティビストたちをビジュアルで掲げ、ルー・リードの言葉からインスピレーションを受け、進化を摩擦ではなくて、分断にハーモニーをもたらす力で象徴する。
「人類はこれまでで最大の課題に直面し」「問題だらけで崩壊しているけど、この音楽の中に、未来に役立つものがあるかもしれない。音楽が良い面を蒸留し、良いものを生み出してくれるはずだから。私はこの音楽が、後の進化のポジティブな源になってくれれば良いと思う。もし進化する幸運に恵まれていたならば」。怒りを優しさに変換し、未来へとつなぐ「橋」になろうとした作品だ。 (中村明美)
アノーニ・アンド・ザ・ジョンソンズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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